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シェアハウス「絹市」 町家再生からみえるまちづくり/長浜まちづくり株式会社

滋賀・湖北

まちづくり, 地域協働, 遊休不動産活用

滋賀県長浜市。

歴史が深く、長年大きな災害を免れてきたこの地には古くからの建物が点々と佇んでいます。

今回紹介する「絹市」もそのひとつ、築140年の町家をリノベーションし、2014年に作られたシェアハウスで、現在はアメリカ人の男性と女性、日本人の男性と女性の4名が暮らしています。

この町家再生プロジェクトを担う長浜まちづくり株式会社の吉井茂人さんと竹村光雄さん、設計を担当した佐野元昭さんに話を聞きました。

観光から暮らしへ

80年代後半、多くの地元客で賑わった市街地から人通りが消え、奮起した地元の方々は、伝統ある長浜曳山祭りを中心とした地方文化と商業観光を切り口に、賑わいを取り戻すことに成功します。町並を意識した空き店舗の再生と商業の活性化によるまちづくりの成功地として全国に広く知られるようになりました。

しかしそれから30年、観光地化が進みすぎることを危惧する声があがるようになり、長浜商工会議所に所属してまちづくりに関わってきた吉井さんは、長年商業をサポートする傍ら、強い思いを抱くようになったと言います。

「これからは家族と共に住めるまちをどう作るかが大切になる。」

市街地に地元の人が来なくなる、住む人も少なくなる、まちとしての根本的な危機を改善しなくてはいけないと、長浜らしい町家を活かした住まいづくりについて、約10年前から繰り返し検討し続けています。

「ただ単に空き店舗を復活させて人を呼ぶだけではダメ。文化という基軸を持ってストーリーを伝え、地元の若い人々にどんどん関わってもらうことが必要。」

観光都市としての商業的な発展から、地元の人々の暮らしへと焦点が変わっていきました。

吉井茂人さん

吉井茂人さん

暮らしの器としての町家再生

平成21年に第3セクターの長浜まちづくり会社が設立され、それまでの成果と課題を踏まえて、改めて取り組むべきことのひとつとして「長浜町家再生バンク」が始まりました。主題はかつて暮らしの器となってきた町家のひとつひとつを丁寧に改装すること。使われなくなった町家でも、しっかりと修繕すればとても快適で健康に暮らせる住まいに生まれ変われると胸を張り、地域に深く関わりながら、新しい住まい手につなぐ様々なサポートを行っています。

関東から移住して来たスタッフの竹村さんは、やりたいことと出来ることの違い、簡単に実現出来ない時にどうしたら前に進むのかを考えることにやりがいを感じると言います。

「こんな暮らしがしたいというのは自分だけでは完結出来ない。家族や友達がどんな気持ちでいて欲しいか、それにはどんな町であってほしいか。そういうことに我が事として取り組む色々な人が居る長浜だからこそ、自分もここに定住して楽しんでいたい。」

竹村光雄さん

竹村光雄さん

生まれ変わった「絹市」と地元への思い

「絹市」はかつて醤油屋だった町家で、建物の敷地面積が大きすぎたため、一般の住宅としては借り手がつきにくいということもあり、屋号をそのまま引き継いでシェアハウスとして生まれ変わることになりました。

少しでも空室率を下げたいということ、一方で外国人に向けてもこのような取り組みを発信したいということから、長浜市の教育委員会と法人契約を結び、ALT(外国語指導助手)の外国人青年を紹介してもらうという形で運営されています。

生まれ変わった「絹市」と地元への思い
生まれ変わった「絹市」と地元への思い

母屋だけでなく蔵も改装され、住居スペースとしての個人の部屋が4部屋、共用のキッチンや洗面所、バルコニー、お風呂とお手洗いなども綺麗に改修されており、古い中にもモダンな印象を受けます。

生まれ変わった「絹市」と地元への思い

建物は明治4年のもので、時間とともに出てくる魅力、経年変化を活かすため、既存の雰囲気をなるべく壊さない設計となっています。

生まれ変わった「絹市」と地元への思い

設計を担当した佐野さんは、KOKOKUという湖北地域(長浜市・米原市)のまちづくり団体の代表も務めています。

長年都会で建築の仕事をしていましたが、仕事の拠点を長浜に移し、家族と共に過ごすうちに地元の良さに気付き、単なるビジネスではなく、仕事を通じて地域の課題を解決し、地元をより良くしたいと考えるようになりました。

「湖北の田園風景を潰して大手企業がマンションを建てるよりも、このまちに残された古き良き建物をリノベーションして活用してもらいたい。」

古い建物がこのように生まれ変わるのを実際見てもらうことで、徐々にでも、これは良いと思う人が増えていくはずだと言います。

佐野元昭さん

佐野元昭さん

レンタルスペース活用とイベントを通じた地域コミュニティ

「絹市」では母屋の一階部分のテーブルスペースと和室がレンタルでき、ものづくりのワークショップや演奏会などが時折行われていて、広い和室からは中庭も見え、日本の良き家を感じることが出来ます。

そのレンタルスペースで、地元長浜の米農家であるみたて農園のおむすびの会が開かれました。

レンタルスペース活用とイベントを通じた地域コミュニティ

ここに住んでいるアメリカ人の二人、地元の人々が集まり、皆さん思い思いのおむすびを作って食べました。住宅としてだけでなく、このようなイベントを通して地域のコミュニティが広がる場所としても活用されています。

レンタルスペース活用とイベントを通じた地域コミュニティ

個性的な人々が集い、色々な人が「絹市」を活用することで、クリエイティブなことが生まれる場にもなり得ます。

現在はシェアハウスとして使われながら、町家再生のショールーム的に使われることの多い「絹市」ですが、今後シェアオフィスのような使い方もしていく予定です。

これからのまちづくり

「自分の家や会社だけでなく、地元の企業、環境、伝統を自分たちのものとして生きてきた先輩方のバトンを受け取り、長浜だけでなく湖北地域全体を自分たちのまちとして捉える若者が増えればもっと良いまちになる。」と言うのは佐野さん。

「市街地に住む人々も郡部(合併前の旧長浜市以外の郡)の集落に住む人々も、暮らしていく上で大切にしようとしている価値観は同じだと思う。究極の目標は人と生き物が共生できて、多世代の人々が豊かに暮らせる環境を作りたい。」と口をそろえる長浜まちづくり株式会社の二人。

今からたった50年前まで、市街地の家の側に魚やうなぎが住んでいたのだから、この広い長浜を人も生き物も行き来できるような環境に戻ればいいのだと言います。

「そして、子供たちにもっと第1次産業に触れさせる機会を作り、作物のことや道具のこと、そこから学び、生きる力を育むことがとても重要。幼い子供たちに縄の編み方や農業を教える田園幼稚園がやりたい。」時代とともに変化する暮らしのかたちの中で、変わらないものを伝えていくことの大切さを感じさせられます。

長浜の市街地では、この三人による別の町家再生プロジェクトがすでに動き出しており、新たな暮らしの器が出来上がるのもそう遠くはなさそうです。

「絹市」内の和室、滋賀県の作家である野田版画工房の襖の前で

「絹市」内の和室、滋賀県の作家である野田版画工房の襖の前で

(文:みたて農園 立見真実)(写真:浅井千穂、川村憲太)