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農家と都市住民を結ぶ産消提携 2/三芳村生産グループ

千葉・南房総

2地域交流, 地域間協働, 産消提携, 食の安全

特定の地域から生産された農産物を会員消費者が買い取ることで、食の安全性の確保だけでなく地域農業の活性化をも支えてきた「産消提携」。前回「農家と都市住民を結ぶ産消提携1」では、西東京市を中心とした消費者団体「安全な食べ物をつくって食べる会」(約700世帯)の視点から「提携」についてお伝えしました。今回は「提携」の生産を担う南房総市旧三芳村の有機農家23戸からなる「三芳村生産グループ」について現グループ代表の溝口仁さんにお話しを聞きつつ再び「農と食」について考えてみたいと思います。

三芳村生産グループのはじまり

  1973年10月3日、公害や環境問題を背景として、よつ葉牛乳や有精卵の共同購入を行っていた、食の安全性に関心の高い小中学生や幼稚園児を持つ女性達が、千葉県安房郡三芳村(現南房総市山名地区)を訪れました。彼女らが旧三芳村の農家に要請したことは、農薬や化学肥料などを使わない安全な食べ物の生産です。農家からは「理想論だ」「不可能だ」という声もあがりましたが、議論を重ねた末これに応じた17人の農家によって「三芳村生産グループ」が発足しました。

提携40周年記念式の様子 登壇者:和田博之さん(三芳村生産グループ)

提携40周年記念式の様子
登壇者:和田博之さん
(三芳村生産グループ)

“三芳は、今も昔も温暖で豊かな里山が残る環境です。東京の消費者らがこの土地を見込んで頼み込んできたことには、水面下で様々な調査もあったようですが、当時三芳村の農業も転換期にあったのです。田んぼを辞めて花栽培を始める者、酪農に力を入れる者、農産物価格の低下から市場出荷での米や野菜では食べていけないという危機感にさらされていた時期でした。今となっては、この地の半分以上を生産グループが耕作しているのが実態です。”

三芳村生産グループ現代表溝口仁さん 今年は日照りが続き不作も多かったという

三芳村生産グループ現代表溝口仁さん 今年は日照りが続き不作も多かったという

  旧三芳村は里山に囲まれた環境もあって1戸あたりの耕作面積が狭く、70年代から専業農家として将来が危ぶまれる状況にありました。東京の消費者団体からの依頼は、それまで挑戦したことのない無農薬無化学肥料農法による作物の生産。仮に農薬や化学肥料を使用する慣行農法にて経営が成り立っていたとすれば断っていた可能性もあるでしょう。しかし三芳村生産グループが立ち上がった経緯には、消費者側の食の安全性への危機感の高まりだけでなく、当時始まった農業事情の変化も関係していたのです。現在、旧三芳村にある農地面積の過半を生産グループが耕作していることは、「提携」が農家側における持続可能な農業経営モデルであった事を示しているといえるでしょう。

三芳村生産グループの出荷体制

  それでは、ここで毎週火、木、土の朝に行われている生産グループの出荷を訪問してみましょう。

三芳村生産グループ出荷場内

三芳村生産グループ出荷場内

  野菜や卵などを出荷場に持ち寄った生産者らは、それぞれの役割に従って伝票発行や野菜ごとの袋詰め、ダンボール詰めを手際よく行っています。その日の季節野菜セットの内容は、各生産者が出荷できる品目と生産量を知らせた上で事前に決められているため、無駄な収穫をする必要はありません。1家族4人が1週間で食べられる量を想定したワンボックスセットや宅配セット、またポスト(野菜を下ろす拠点)にて消費者が自由に野菜を配分する方法など、お届の仕方にも何通りか選択肢があります。

野菜パックの内容を黒板に記す 出荷日や野菜パックの種類によって内容が異なっている

野菜パックの内容を黒板に記す 出荷日や野菜パックの種類によって内容が異なっている

グループの農家みんなが多品目を生産

“どうしても野菜には春撒き、秋撒きってのがありまして、夏野菜、冬野菜の前後にはあまり野菜の取れない端境期がでてきてしまうので、その時の出荷量は減ってしまうのですが、それ以外は大体順調に多品目の季節旬野菜セットをお届けしています。これも生産者みんなが多品目を育てていて、誰かがうまくいかなくとも誰かが補える体制があるからなんですよ。ただ、固まった地区なので台風被害など自然災害の時は、みんなやられてしまうデメリットもありますけどね。”

野菜の袋詰め作業

野菜の袋詰め作業

  三芳村生産グループが栽培している野菜は年間でおよそ100品目。これに加えて卵もパックに加わる他、1カ月に1度無農薬で育てられた米や、味噌・トマトソースなどの加工品を個別に注文することができます。最近は消費者の要望を受けて、カステラやマヨネーズなども加工所にて生産するようになりました。

三芳村にある宿泊体験施設「みんなの家」 1階が加工場になっている

三芳村にある宿泊体験施設「みんなの家」
1階が加工場になっている

  毎週3回の出荷体制を支えてきたのは、生産者が皆この100品目を栽培していることにあります。仮に一人の生産者でこの方法を請け負った場合、気候や病害から野菜が出荷できなくなること可能性も高まります。団体で同じ栽培を行う事でこのリスクを減らしているのです。また3日ある出荷の日には、井戸端会議のように作付けの日の情報交換などを行い、タイミングをずらすことで出荷時期が集中しないよう工夫します。

変化する消費者のニーズ

“これまでは3台のトラックがポストを廻ってお届けすることを続けてきましたが、ここ最近は特にこの量が減って、宅送業者に引き渡しする宅配パックが増えてきました。やはり生活が変わり、より効率的に荷物を受け取るニーズが高まってきたということでしょうか。宅配パックのお客さんとは直接触れ合うことが減るので、今後ケアの対策も必要かと思っています。”

変化する消費者のニーズ

  出荷場を出発したトラックは、それぞれのルートで関東一円のポスト(野菜を下ろす拠点)を回ります。単なる宅配とは異なり生産者自らが野菜をお届けすることから、この時に畑の様子や栽培事情について消費者と直接話し合うことができます。この機会がない宅配パックでは、状況連絡が滞ることもあり、クレームも多くなるとか。その一方でトラックを1台回すだけでも燃料費や人件費等多くのコストがかかり、現在の輸送量で果たしてこの方法が適切なのか検討しています。

提携の形は今後

“またこれに付随して、会員への出荷で余剰が出た分は、他に販売してよいことになってまして、最近特に店舗やネット販売など様々なお誘いを頂いているのですが、これにはまだ疑問がありましてね。つまり、どこまでいっても農業には天候の影響や不作が伴うし、有機農業だと特に形が不揃いだったり、虫食いがあったりするんです。これを理解し合える関係作りが「提携」にあったからこそこれまで続いてきたのかと思います。何か新しいことにチャレンジするにも、この点を大事にしていきたいと思います。”

生産グループの畑を案内する溝口さん

生産グループの畑を案内する溝口さん

  昨今会員数の減少から生産量が消費量を上回る時期があり、これを出荷調整分として会員が多めに購入(特別注文)しており、店舗やネットにて販売することも考慮されています。しかし、溝口さんはじめ三芳村生産グループの人々は、この新しい局面にあってそこまで慌ててはいないようです。これには資材や農薬また肥料等に経費がかからず、余った農産物は鶏のエサに回す事ができるなど循環した農業であることも関係していますが、それ以上に長年続いてきた「提携」が農家側の課題を解決する1つの仕組みであることを農家側も十分に理解し、信頼しているからなのでしょう。

生産グループみんなが平飼いした鶏による卵の生産も行っている

生産グループみんなが平飼いした
鶏による卵の生産も行っている

  生産者の状況も踏まえて継続した関係を消費者と築くこと、そして学び合うことは容易ではありませんが、「提携」は現代の「農と食」に対して多くの示唆を投げかけているように思います。市場流通が発達して食べ物の供給が安定されたように見えても、自然相手の生産現場が不安定で様々なリスクに囲まれていることは変わりません。消費者が作物の生産過程や生産者の思いに耳を傾け、その上で生産者が消費者のニーズにどれほど応えられるか、共に検討を重ねることが地域農業を守る鍵となってくるのではないでしょうか。

(文:東 洋平)