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ワクワクする時間を子ども達に届けたい!~地域のおばちゃんにもできること~

島根・津和野

地域協働, 地域教育機関の魅力化

  町立津和野小学校では、毎週1回地域のボランティアが朝の15分間絵本の読み聞かせを行う『お話ポケット』の時間があります。ここにあるルールは「時間を守ること」だけ。シンプルだけれど、子どもたちにワクワクする時間を届ける読み聞かせ活動をご紹介します。

普通のまちのおばちゃんが『ポケットのおばちゃん』に

  「私たちは普通の地域のおばちゃんたち。何か教えようなんてむずかしいことはしません。」

<お話を伺ったスタートアップメンバーの岸田さんと伊藤さん>

<お話を伺ったスタートアップメンバーの岸田さんと伊藤さん>

  お話ポケットの中心にいる岸田さんと伊藤さん。子どもが好きで、子どもたちに楽しい時間を届けたいという気持ちから、この活動を10年以上続けています。始めたころから、読み聞かせを通じて子どもたちに何かを学ばせようという気持ちではなく、子ども達が普段接しないような大人との交流や、その人がもってくる様々な絵本を楽しみ、ワクワクする時間を過ごせることを大切にしてきたそうです。同じような思いを持った人が徐々に集まり、現在では10名弱のメンバーがいるお話ポケット。学校の先生でも親でもない、まして読み聞かせのプロでもない、普段接することがなかった地域のおばちゃんが『ポケットのおばちゃん』として活動しています。

地域の人が学校に入るのは当たり前に

  ただ、そのように『ポケットのおばちゃん』が活動できているのも、学校と地域の連携を推進する学社融合の流れがあったことがよかったといいます。学校は教育の場ですが、お話ポケットの活動理念は学校教育的な考えとは異なります。それでも読み聞かせができるのは、地域の人を巻き込んで子ども達を教育していこうという考えがあるためです。しかし、お話ポケットがスタートしたころ、学校は地域の人が気軽に出入りする場ではありませんでした。当時、児童民生委員だった岸田さんは、伊藤さんら初期のメンバーと読み聞かせ活動の良さに注目し、勇気を出して学校に打診に行ったものの初めはなかなか受け入れられなかったといいます。

「なんとか読み聞かせに行けるようになったころに、文部科学省が学社融合という考えを打ち出してね。今では地域の人が学校に入るのは当たり前みたいになっていますね。」

  津和野小学校でも、地域の人が関わる放課後児童クラブを設置したり、学習サポーターの活用に積極的に取り組んでいます。そうしたなかで、今ではお話ポケットも地域の人が子ども達に接し、心を豊かにする時間になると歓迎されるようになりました。

<玄関にはいつも歓迎のメッセージ>

<玄関にはいつも歓迎のメッセージ>

いろんな本といろんな読み手

  こうした学校と地域の連携を背景に、お話ポケットは現在1年生から4年生と、特別支援クラスの子どもたちにそれぞれ読み聞かせをしています。
  「各教室には、毎週同じ人ではなく何人かが交代で読み聞かせに来るようになっているんです。そうすると、違う価値観をもった人が選んだ多様な本に触れることができますよね。」

  それぞれが、いいな、読んであげたいなと思う絵本をもってくると、その人の癖や好みで絵本選びに傾向が出てくるものです。クラスに来る読み手を1人に固定しないことで、子どもたちは幅広い絵本に触れることができています。特に、最近では私を含めた津和野に移住した若者3名が『ポケットのお姉さん』として加わり、さらに読む人の多様性が生まれてきています。

<津和野に移住してきた『ポケットのお姉さん』>

<津和野に移住してきた『ポケットのお姉さん』>

  「それに、たとえ同じ本を持ってきたとしても読み手が変わるとその絵本の違った楽しみ方を体験できるでしょ。だから、『その本知ってる!』って子どもが言っても『おばさんが読むのはじめてだからいいよね』っといって読み聞かせてます。自分で読んだことがあったとしても、よくわからなかった箇所が理解できたり想像しながら絵本の世界に集中したりできるみたいで、絵本の中にひきこまれている様子ですね。」

こうじゃなきゃいけない、なんてことはしない

  そうして初めて見る絵本も知っている絵本も楽しめるから、子ども達はお話ポケットの時間になると、今日はどんな本を読むのかな、という気持ちで教室の後ろに集まってきます。とはいえ活動を始めたころは苦労も多かったそうです。

「今より人数が多かったこともあるけれど、『あのおばちゃん何するん?』と子どもも慣れていなくて、私らも下手で慣れていないという状況。本当に手探りでした。『ポケットの歌』というのを作って始まりの音楽をかけてみようしたこともありましたね。」

こうして活動を積み重ねていくなかで「無理をせず自然体であること」という考えになったそうです。つまり、読み手自身が自然体で読むことを楽しんでいるから、子どももその絵本を楽しむことにつながるという考えなのです。

「これがいい、あれがいいという人もおるけれど、決まりを作って型にはめようとしたら続かないんです。だから、私たちは『こうしなきゃいけない』ということはいわないようになりました。中には紙芝居をやる人や英語の絵本を読む人もいれば、4年生には本の朗読をしたこともありましたね。でも、どんな作品であれ、子どもたちが読み聞かせを通じてその作品の世界を楽しんでいるならそれもいいんじゃないかと思います。」

  押し付けるのではなく、シンプルなスタイルで子どもたちにワクワクする時間を届けようとするお話ポケットの活動は、子ども達の好奇心を刺激する素晴らしいものだと思います。なにより、10年以上も欠かすことなく活動をつないできたところに地域の人の子どもたちを大切に思う気持ちを感じました。このような小さくても子どもたちの心を刺激する活動が今後も続いていくように、私自身も「ポケットのお姉さん」としてできることをコツコツ積み重ねていきたいと思います。

(文:町営塾HAN-KOH講師 渡辺 未奈)