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音楽と自然にふれあい、調和を育む場/コミュニティガーデン “Leaf & Root”

千葉・南房総

2地域居住, コミュニティスペース, 地域国際交流, 地産地消

千葉県館山市の東京湾に突き出た西岬(にしざき)は、東京湾と太平洋に面する岬で、晴れた日にはくっきりと富士山を望むことができます。この西岬地区に2011年に誕生したのがコミュニティガーデンLeaf & Rootです。1年あまりの建設期間を経て2012年に竣工したカフェとライブスペース「八角堂」のオープンから3年、特にイベントが目白押しとなる夏には、県内や近県の人々だけでなく日本文化を体験するためにやってきた海外からの若者も多く滞在しています。このコミュニティガーデンについて、主宰者である音楽家の深津純子(ふかつすみこ)さんにお話を伺ってきました。

コミュニティガーデン Leaf & Rootのはじまり

  深津純子さんがコミュニティガーデンを構想したきっかけは、2011年の東日本大震災でした。今まで当然と思ってきたこと、あたりまえだったことが、そうでなくなる可能性もあること。「今ほんとうに必要なことはなにか」と考えた結果、東京との2拠点生活に20年来利用してきた家の近隣の土地に畑をつくり、野菜やハーブを植え始めたのでした。

音楽家で館山ふるさと大使でもある深津純子さん

音楽家で館山ふるさと大使でもある
深津純子さん

“3.11の震災のときに、「いざという時に頼れるのは信頼できる人間的繋がりだけだ」と感じ、そんなコミュニティをつくりたいと思ったのです。また、商業ベースではなく、信頼できる安全な食べ物をつくることも大切と思い、そのような実践のための場をつくろうと思ったのです。地球全体のエネルギーの問題としてもひとりひとりの心の健康にとっても、私たち1人1人のライフスタイルが消費中心の生活から、自然とともに生きる、循環する暮らしにシフトしていかねばならない時代に入ったと思ったからです。自分たちで食べ物を作ったり、植物について学んだり、音楽を楽しんだり、ここでは様々な催しを行っています。”

ハーブや花、麦など様々な植物が育つコミュニティガーデンLeaf & Root

ハーブや花、麦など様々な植物が育つコミュニティガーデンLeaf & Root

ログハウス「八角堂」

  深津さんが震災後の生き方やライフスタイルを模索し館山市内外の人々とコミュニティガーデンの活動を始めてすぐに、安房郡鋸南町の山奥に残されたログハウス「八角堂」の移築先を探しているという話が舞い込んできました。このログハウスを自ら建て、自然の中で暮らすことを実践してきた作家、遠藤ケイさんの思いと深津さんの構想が一致し、長年使いこまれた木材が新たな地で命を吹き込まれることになりました。

多くのボランティアが参加した八角堂の移築建設中の様子

多くのボランティアが参加した八角堂の移築建設中の様子

“その名の通り、このログハウスが八角形なのは、それが自分1人でログハウスを作った遠藤さんが運べる丸太の最大の長さだったからだそうです。遠藤さんは、すべて自分でやる人。自然と対話して自分の体を使ってつくり出して行く、そういう精神が現れた建物です。この建物を生かし、Leaf & Rootも、自らが体験することを通じて人々が触れあう場として、今ではコミュニティガーデンに欠かせないものとなっています。八角形なのも、みんなが協力して円や縁を作る場、ということの象徴にも思えますね(笑)。”

  移築したログハウス「八角堂」に付け足して、厨房やコンポストトイレを設置するなど、カフェとしての環境も整いました。コミュニティガーデンLeaf & Rootが年間で最も活躍するのは、深津さんが得意とするジャンルでもあるキューバやブラジルの音楽イベントが立て続けに開催される夏。この期間カフェスタッフとして活躍することになったのは地域の人々だけでなく、なんと外国から来た若者たちでした。

Leaf & Root周辺の風景

地域の交流や国際交流の場としてのカフェ

海外から手伝いにやってきた若者たち

  カフェは常時営業しているわけではなく、ライブイベントが行われるときにのみオープンします。スタッフは、近所の人やコミュニティのメンバー、そして、ライブイベントが多い夏期には多くの海外からの若者が手伝いにやってきます。深津さんが利用したのは、WWOOFという仕組み。この制度を利用して海外から多くの若者が訪れ、コミュニティガーデンの手伝いをしながら日本人と交流し、文化や暮らしを共にしました。

“これほどまでに多くの海外旅行者がLeaf & Rootのお手伝いをしにやってくるとは思いませんでした。 ある若者が出身地を地図にピンしていこうよ、というのでやってみたら、こんなに!現在、30か国以上にもなります。 海外の若者たちは、とても日本に興味を持っていますね。なかでも日本の食文化の奥深さは彼らにとって、とても魅力的なようです。単純な観光ではなくて、日本の生活文化を実際に体験したいという人がとても多いのです。”

八角堂内に貼られている地図

八角堂内に貼られている地図

“WWOOFの仕組みは、受け入れ側が食事や宿泊場所を提供する代わりに滞在者は労働を提供するというもので、「金銭をやりとりしてはいけない」という決まりがあります。実際にやってみると、金銭を介さない関係がこれほど豊かな人間関係をつくるものかと思いましたね。人ひとりひとり違った個性があり、国も違えば、言葉も違う、まったく会ったこともない他人どうしなのですが、どんなグループであっても、一緒にご飯をたべて、一緒に働いて、一緒に音楽をしていると、すぐに家族兄弟のように仲良くなってしまいます。帰り際には別れを惜しむ涙も多々ありましたね。南房総は、海外からのアクセスも悪くないですし、風光明媚だし、国際交流の場としてのポテンシャルは大きいと思いますね。”

カフェキッチンでの一場面

カフェキッチンでの一場面

現代社会の中で音楽家の役割とは

  主宰者である深津純子さんは、世界中で数多くのミュージシャンとのセッションを行い、フルート奏者としてこれまで国内外で9枚のリーダー・アルバムを発表してきた音楽家。コミュニティガーデンが国際色豊かな場となったことは、深津さん自身の経験も関わっているようです。

主宰者の深津純子さん

“音楽の関係でキューバに何回も行っている影響もあるかもしれません。モノはなくても、生活の中に音楽があって、心が豊かで情がある、そんな彼らの生活に影響を受けました。いま、私たちの社会も「モノ」の時代から「コト」の時代へと変化してきていると思います。言葉をかえれば、「消費の時代」から「共生(ともに生きる)時代」への変化ですね。そんな社会の変化のなかでは、音楽の役割もまた自然と変ってくるのではないでしょうか。たとえば、「消費の時代」においては「どれだけCDが売れた」とか、「どれだけ多くの人が鑑賞したか」とか、が大切なわけです。でも、これからの「共生(ともに生きる)時代」では、「生活のなかに音楽がある」ということ、そして「それを共有すること」こそが大切と思っています。音楽は言葉や国境を越えて繋がることのできる万国共通の言葉でもあります。音楽という道具で、どんな人とも心を繋いでいくことができる、と思っているんですよ。”

真夏はエネルギーを発散するラテンミュージック 秋になれば落ち着いたバロック音楽など四季に合わせた音楽が演奏されている

真夏はエネルギーを発散するラテンミュージック 秋になれば落ち着いたバロック音楽など四季に合わせた音楽が演奏されている

自然や動物との調和の中に暮らしていくこと

“結局、幸福とか豊かさというのはお金やモノを手にいれることより、暮らしそのものの中にこそあるのではないでしょうか。私も館山と東京との2拠点生活をしてもう20年が過ぎましたが、今でも館山に到着すると自然に囲まれてほっと深呼吸できるのです。自然の季節のサイクルを感じながら生きていること、動物も植物も、人間も、みんながいて、わたしもいる、それが幸せと感じられる、そんなライフスタイルをガーデンの活動を通して伝えていきたいですね。”

コミュニティガーデンで催されたフラワーフェスティバルの様子

コミュニティガーデンで催されたフラワーフェスティバルの様子

  コミュニティガーデンLeaf & Rootの大きなコンセプトは、人と人、人と自然との調和を生み出していくこと。地縁や血縁を基にした従来のコミュニティが成り立たなくなってきている現代、都会と地方そして世界と地方を結び、共生と循環の大切さを共有して広げていこうとする深津さんの思いは、音楽や自然を楽しむイベント、各種講座の開催により、多くの出会いや触れ合いを創出してきました。眼前に広がる海と背後の里山に囲まれた館山から、引き続き都会や世界に向けて癒しを発信していってほしいと思います。

(文:東 洋平)