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暮らしと環境にやさしい地域づくりを新旧住民交流の場へ/上瀬戸さんあーるの会

千葉・南房総

古民家再生, 地域協働, 移住定住促進, 耕作放棄地再生利用, 資源循環

若年層が都会に出て少子高齢化の進む農山漁村では、空き家や耕作放棄地の増加、山林の荒廃、コミュニティ機能の維持等が全国的な課題となっていますが、その一方でこうした状況を踏まえて独自のやり方で地域おこしに取り組む地域団体も生まれています。南房総市千倉町の上瀬戸地区で2004年から古紙回収を始め、環境問題の切り口から暮らしやすい地域を目指して数々の事業を展開するのは地域団体「上瀬戸さんあーるの会」。この活動をご紹介します。

日本でいちばん地球にやさしい地域づくりを目指して

  取材に訪れたのは、上瀬戸地区の中心部にある約2反5畝(750坪)の畑「ジーバ農園」。5、6名の熟年男性が朝から甘いトウモロコシ品種「ゴールドラッシュ」の栽培に励んでいます。「上瀬戸さんあーるの会」会長である戸倉城男さんにお話を伺ってみましょう。

“さんあーる(3R)とは、よく知られているように、リデュース(Reduce)、リユース(Reuse)、リサイクル(Recycle)の3用語の頭文字のことです。十数年前のお祭りの時だったでしょうか。地域住民で一杯やっている席で何かこの地域のために一肌脱ごうと、アイデアが生まれました。地区内の組織がすべて集まって発足した会の目標は、「日本でいちばん地球にやさしい地域づくり」。そこで手始めに行ったのが古紙回収だったのです。”

戸倉城男さん

戸倉城男さん

  地区には神社の氏子や自治会、PTAなど様々な組織がありますが、この団体の役員や代表者が実行委員となることで地区住民全員が会員となって2004年に立ち上がったのが「上瀬戸さんあーるの会」。活動の軸となる古紙回収は平均して毎月3トンほどの量が集まり、古紙を売った資金はイベントや講演会などの資金に充てられます。

有機農業研究家小祝政明氏を招いて開催された「有機農法セミナー」

有機農業研究家小祝政明氏を招いて開催された「有機農法セミナー」

生ごみの堆肥化から遊休農地活用事業へ

  それでは、この家庭菜園と呼ぶには広大な農地で会員が集まり作物を栽培していることは、どのような活動の一環なのでしょうか。

“会ではその後、古紙回収だけでなく生ごみを自宅で処理して堆肥を作るワークショップを行い、その方法を説明書でまとめて配るなど家庭ごみの再利用に取り組んできました。この堆肥作りは各家庭に委ねられましたが、同時に会としても農地を運営しようと始まったのが遊休農地の活用事業です。もともと地区内で地権者が遠くに住んでいたり、管理が行き届いていない耕作放棄地が点在しており、生活環境の悪化を防ぐために早期の対策が望まれていたのですね。”

「おおやし」で実施されたセイタカアワダチソウ駆除作戦 前(写真左)と後(写真右)の比較 

「おおやし」で実施されたセイタカアワダチソウ駆除作戦 前(写真左)と後(写真右)の比較 

“農地は一旦放置するとすぐにセイタカアワダチソウという多年草が繁殖し、その後ひどくなると女竹(めだけ)が出てきて周辺の家屋に被害をもたらします。女竹は細くしなやかなので、雨の日は折れ曲がって道路を塞いでしまうこともあります。一度ここまで段階が進むと、開墾して根を絶つのに多くの人手と労力が必要となるため、セイタカアワダチソウが出てきたら出来る限り早く手を打たねばなりません。現在、会では「ジーバ農園」、「さんだ原」、「おおやし」、「一本山」と4ヶ所の遊休農地や遊休地を年間で管理しています。「ジーバ」というのは文字通り、ジジババの農園という意味です(笑)。”

  「ジーバ農園」ではトウモロコシとナバナ、「さんだ原」ではヒマワリなどの景観植物に加えていちじく、「おおやし」では緑肥となるヘアリーベッチやかぼちゃが季節ごとに植えられ、収穫期には地区内の会員や「一本山」入口の無人直売所で販売が行われます。

ジーバ農園

とれたて野菜の無人直売所

  実はここ数年で一部の人々に人気を博しているのが、県道187号線沿いの「とれたて野菜直売所」。会が設置した陳列棚に毎朝地元生産者による採れたての野菜が並びます。

とれたて野菜の無人直売所

“もとは会の生産物を販売する発想で作った無人直売所だったのですが、年間で使用しない時期もあるし、会員生産者の応援に繋がればとのことで、手数料ゼロで開放しています。1商品どれも100円で、朝採れの新鮮さが知られるようになってからはほとんどロスもなくなりました。防犯カメラを設置するなど運営の大変なところもありますが(笑)、生産者にもお客さんにも喜ばれているので、これからも続けていきたいと思います。”

空き家活用事業「上瀬戸さんあーる亭」

  もう1つ、同会が新しく取り組み始めた事業が地域内の空き家を自主的に修復すること。会の事務局長加藤博昭さんの親戚が所有する空き家をプロの大工と協働して直し、「上瀬戸さんあーる亭」として会合やイベントの場に活用しています。

-事務局長加藤博昭さん-

“古民家が通行車両の多い187号線沿いにありながら、庭が鬱蒼としていたことから会員で手入れを始めた後、会の実行委員川名融郎さん中心に楽しみながら改修が進められました。地区内に空き家が増えてきてはいますが、そのままでは利用できない状態の家が多く、今後この課題を考えるにあたって「上瀬戸さんあーる亭」がモデルケースになっています。賃貸するのか、はたまた宿泊施設にするのか議論を深めなければなりませんが、幸いにもこの地域には移住者が増えてきているので、何らかの形で橋渡しをしていきたいですね。”

事務局長加藤博昭さん
千倉町上瀬戸地区

  千倉町上瀬戸地区は、海に近く里山に囲まれた自然環境で小学校が地区内にあることから、現在子育て家族が増えつつあります。古民家に住むニーズが増えつつある今、新規移住者の受け入れや短期のお試し移住に空き屋となった古民家をどう活用していくか検討していくため、「上瀬戸さんあーる亭」が誕生しました。

上瀬戸さんあーる亭で開催された寄席の様子

上瀬戸さんあーる亭で開催された寄席の様子

隣接地区と楽しみながら高め合うこと

  こうして古紙回収から遊休農地の活用、直売所の運営、空き家の修復と多岐に渡って地区の課題に取り組む「上瀬戸さんあーるの会」ですが、12年間も発展しながら事業が進められてきた背景にはどういった思いが関わっているのでしょうか。

-事務局長加藤博昭さん-

“会ができた発端にも関わりますが、上瀬戸の南に隣接する川戸という地区では「おんだら山」という里山の保全や桜や梅の植樹活動が盛んで、お互い高め合ってきたといいますか、そんな気概も(笑) 影響していますね。地区同士仲がよく、人手が足りなければ協力し合うこともありますが、より良い地域づくりとは何か、ある意味で対抗してきたことも活動が続いてきた遠因かと思います。”

地区内親子向けの収穫体験

地区内親子向けの収穫体験

地域づくりを新旧住民交流の場へ

“今私達が、それぞれの事業の先に目標としていることは、環境に優しい地域づくりによる「上瀬戸公園化計画」です。遊休農地の活用を通じて、地区に住む人々が気持ちよく生活できるような景観整備を進めています。川戸地区では、里山保全から花の一大観光地を創り上げようとしていますが、お互い時間のかかることですから、時にはからかい合って(笑)楽しみながら、進めていきたいですね。そして、会主催の納涼祭などがすでに役割を担っていますが、この活動が新しく移住して来られた方々との交流の場になることを願っています。”

古紙回収で集まった資金をもとに地区内神社で開催される納涼祭「さんあーる祭り」

古紙回収で集まった資金をもとに地区内神社で開催される納涼祭「さんあーる祭り」

  新旧住民全世帯が参加している「上瀬戸さんあーるの会」は、毎月の古紙回収を資金に毎年盛大な納涼祭「さんあーるまつり」を開催するほか、子ども達向けの収穫体験や農業体験を定期的に実施して地域内の親交も図っています。地方の農村地域では新旧住民のコミュニケーション不足が問題となるケースもありますが、会が作る地域内の風通しの良さが移住促進にも繋がっているのではないでしょうか。これからも老若男女、新旧住民が一体となって、地域の課題解決にむけて先進的な取り組みを続け、「上瀬戸公園化計画」を実現してほしいと思います。

(文:東 洋平)