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自然と調和した暮らしをデザイン/パーマカルチャー安房

千葉・南房総

オフグリッド, 資源循環, 里山里海保全

「パーマカルチャー」という言葉を耳にしたことがありますか?パーマネント(永久な)とアグリカルチャー(農業)、そしてカルチャー(文化)が融合した造語で「恒久的持続可能な環境を作り出すためのデザイン体系」とも訳されます。今年から南房総市和田町にて、修了証が授与される「パーマカルチャーデザインコース」(以下PDC)が開催されることになりました。今回は、講師の本間・フィル・キャッシュマンさんとカイル・ホルツヒューターさんに、パーマカルチャーとは何か、そしてPDCを開催する目的についてお話を伺ってみたいと思います。

ビル・モリソン氏の衝撃

  PDC開催地となる南房総市和田町の「パーマカルチャー安房」を立ち上げたフィルさんは、新潟県佐渡島生まれ。17歳まで日本で育ち、アメリカで彫刻や建築技術を学んだ後、東京都内で店舗の空間デザインと施工を生業としていました。その後オーストラリアの田舎で生活をした経験から自然に魅力を感じ、2003年再び日本に帰国する頃には、自然豊かな田舎での新しい暮らし方を模索していたと語ります。

大豆の種を選別するフィルさん

大豆の種を選別するフィルさん

“ある日ネット上で、パーマカルチャーの父ビル・モリソンが国連大学で行ったスピーチを見つけて、その内容に衝撃を受けました。子が生まれた時期でもあり、彼らの生きる未来の環境や教育について関心が高まっていたんですね。その後のめり込むようにビルの記事や著書を読み込んでいると、オーストリアのメルボルンでビルが直接指導するPDCが開催されることを知り、これを受講しようと決心しました。その時から9年が経ちましたが、今でもノートや本を読み返して新発見の連続です(笑)。”

東京都世田谷区の団体に依頼された移動式アースオーブンを制作準備中の風景

東京都世田谷区の団体に依頼された移動式アースオーブンを制作準備中の風景

パーマカルチャーの本質

  パーマカルチャーは1970年代オーストラリアのタスマニア大学で生物学を教えていたビル・モリソン氏と、教え子デヴィット・ホルムグレン氏の研究により誕生。その後両氏の実践と文筆活動、講演、そしてPDCの資格制度によって世界中に広がり、数多くの拠点と教育現場が創設されていますが、フィルさんはビル・モリソン氏から直接パーマカルチャーの本質を習いました。

ロケットストーブの原理を利用した薪ストーブ ベッドの下を熱が通過する仕組みとなっている

ロケットストーブの原理を利用した薪ストーブ
ベッドの下を熱が通過する仕組みとなっている

“ビルの話は、教わるというより自分の知識を消し去ることにも似て(笑)、新しい研究成果や技術革新が次々と過去のプログラムの上に蓄積されていきます。農を軸に生態や環境のシステム、コミュニティや教育と幅広い体系が構築され、とても難しい学問のようにも見えます。しかし、本質は実は至ってシンプルなことです。「人と環境の関係性を、より深く、調和した形で理解につなげる観察と実践の仕方」ともいえます。僕の場合は子ども達の教育現場という切り口ですが、自分の関心事から始められるところもパーマカルチャーの面白さだと思います。”

全国各地でコミュニティガーデン作りに協力

  日本に戻ってから神奈川県葉山町で実践と研究を重ねパーマカルチャーの専門家として活動を始めたフィルさんは、依頼を受けてパーマカルチャーに基づいた数々のコミュニティガーデン作りに関わってきました。その中でも2011年東北大震災に見舞われた岩手県釜石市の被災地支援の一環で協力した「コスモス公園」でのお話をご紹介します。

コスモス公園に制作した窯でパンを焼くフィルさん

コスモス公園に制作した窯でパンを焼くフィ
ルさん

“震災直後、とある幼稚園の厨房を作りに釜石市を訪れたところ、近くにある「創作農家こすもす」というレストランの人々と、子ども達の遊び場にもなるコミュニティガーデンを作ろうということになりました。「窯が夢だった」と聞いて、まず窯を作り、人々の要望に従ってみんなでガーデンをデザイン(設計)していきます。地域の人々が主体的に動き、着工から18カ月で公園が正式にOPENすると、1年間で13000人ほどの人が訪れるほど、素晴らしい空間になりました。”

2011年に建設中のコスモス公園に幼稚園児が訪れた時の様子

2011年に建設中のコスモス公園に幼稚園児が訪れた時の様子

人の手を離れて自然に発展していくデザイン(設計)

“当時被災地は人々の善意でモノが溢れていました。確かに善いことなのですが、「支援」とは何か深く考えた時に、支援終了後に自立できることが目標だと思います。この期間意識したこの点に、パーマカルチャーはよく役立ちました。パーマカルチャーには、そこにある人やモノといったあらゆる資源を活用してそこに還元、最小の変化で最大の効果を生むという基本的な考えがあります。人間も自然の一部と捉えた上で、できる限り自然の掟に従って、人が手離しても発展していくデザイン(設計)を施すことが目的なのです。”

パーマカルチャー安房の屋内を案内するカイルさん(左)とフィルさん

パーマカルチャー安房の屋内を案内するカイルさん(左)とフィルさん

  パーマカルチャーにおけるデザインとは、図案や模様を描くデザイン(意匠)と異なり、人と環境が調和する空間を自然のエネルギーやシステムを最大限活用して創り上げる「設計」を意味しています。自然をコントロールするのではなく、自然や身の回りの資源を効果的に配置・デザイン(設計)することで、無駄なエネルギーを使わずに持続可能な生活・文化・社会を作っていきます。

パーマカルチャー安房のデザイン

  それでは、2012年から着手した南房総市和田町の「パーマカルチャー安房」からデザイン(設計)の具体例についてカイルさんにお聞きしてみましょう。

パーマカルチャー安房に着手する前にフィルさんが描いた全体像のデザイン(設計)

パーマカルチャー安房に着手する前にフィルさんが描いた全体像のデザイン(設計)

-カイル・ホルツヒューターさん-
“この滑り台は曲がって生えていた木を削りました。滑ると楽しいですが、木のささくれがたまに刺さるから注意です(笑)。ガーデンには土を肥やすマメ科のクローバーが一面に植わっています。所々まだ背が低い木は果樹で、あと3年もすれば地面を覆い、雑草の繁殖を防ぎながら資源の循環を生み出していくのです。水はすべて屋根からタンクに注がれた雨水を利用しています。また家屋の排水は庭の池に流れ込み、水路には水を浄化する作物を植えています。そうそう、南房総の土は土建築やストローベイル(藁)の土壁にとても合っているんですよ。”

パーマカルチャー安房の外観 右に見える小屋の中に窯があり、屋根から木でできた滑り台が下りている

パーマカルチャー安房の外観 右に見える小屋の中に窯があり、屋根から木でできた滑り台が下りている

  カイルさんはアメリカ、ウィスコンシン州に生まれ、アメリカで日本の禅や自然農を学びオーストラリアでPDCを修了。ストローベイル(藁)で家を作る技術の発展、普及のために日本で左官業の修業を積みながら日本大学生物資源学科で博士号を取得し、その後フィルさんとの親交で南房総に移住して拠点作りに励んでいます。

「食べられる森」の中にオフグリットで快適なエコハウスを建設

“今、鴨川にある「ストーンブリッジ」というエディブル・フォレスト・ガーデンで、フィルと高木俊さんが設計した家を作っています。その名「エディブル」の通り、食べられる森という意味で、自然の営みを利用して肥料や農薬を必要とせずに作物が育つデザイン(設計)にて、電気や水道、メタンガスなど生活に必要なエネルギーを全て自給するオフグリッドな家を建てようという計画です。グラスウールと同じぐらいの断熱効果のある、土ともみ殻による厚さ14cmの壁を実現するなど、このチームから生まれたアイディアを次々と実現しており、毎日ワクワクです。”

軽量籾殻土壁に荒壁土を塗るカイルさん

軽量籾殻土壁に荒壁土を塗るカイルさん

ストーンブリッジに建設中の家

  ストーンブリッジに建設中の家は、太陽光発電を設置して工具を動かすところから自然エネルギーと人の手で制作されており、材料も南房総産にこだわっています。今後完成までの工程をマニュアル化することも検討中で、低コストで自作できるエコハウスとして、従来の「家」のあり方に新しい選択肢をもたらす可能性が注目されています。

パーマカルチャーデザインコースにかける思い

  こうして、進化するパーマカルチャーの技術を取り入れながら南房総で具体的な場を創造するお二人ですが、最後に南房総(安房)の地でPDCを始めることへの思いについて聞いてみましょう。

-本間・フィル・キャッシュマンさん-
“南房総には何年も前から拠点計画が挙がっていましたが、直接の出会いは震災前、コンポストトイレを作ってほしいという依頼からでした。和田でサーフィンをして、海からこの里山を眺め、ここに移住しようと直感したことを覚えています。震災が起きて移住が1年遅れましたが、2012年鴨川の林良樹さんに「鴨川地球生活楽校」の講師に誘ってもらうなど早速この地での活動も始まる中、カイルが鴨川に来て、東京アーバンパーマカルチャー代表のソーヤー海も鴨川の隣のいすみに移住するなど縁が重なり、トントン拍子に安房発のPDCを開講することになりました。”

4月に開催されたパーマカルチャーデザインコースで概要を説明するソーヤー海さん

4月に開催されたパーマカルチャーデザインコースで概要を説明するソーヤー海さん

“特に僕らは、人や人工物の多い都会(アーバン)にこそ小さなスケールでも実践できる癒しの場が必要だと考えています。そう考えると南房総は都会との程良い距離にあり、国際空港も近いのでPDCを開催する環境に恵まれていますね。ビルが昔興味深いことを語っていました。「パーマカルチャーが伝えられ、その試みが成功したかどうかを判断する1つの基準は、パーマカルチャーという言葉を利用しなくなっていること」だと。あくまでこの技術や考え方を応用して、各地域に独特のあり方で自然と調和した空間が生まれ、継続していくことが本望です。”

PDCを開催

  日本でも「エコヴィレッジ」などパーマカルチャーの考え方を土台としたコミュニティースペースや、食の安全や環境問題に対してできることから取り組もうとする団体が増えつつあります。田舎と都会で、自然と触れ合う機会に差はありますが、パーマカルチャーは場所を選ばず実践できる技術や考え方の宝庫。南房総で開催されていくPDCが各地域に広がり、何世代にもわたって自然と調和した暮らしや地域環境が引き継がれていくことを願います。

(文:東 洋平)