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きれいな水が育む命、人々の思い/高知県梼原町(ゆすはらちょう)

高知・奥四万十

まちづくり, 地域協働

  梼原町は、日本最後の清流とも呼ばれる四万十川の上流に位置し、町の面積の約90%が山林に覆われたきれいな空気と豊かな水に恵まれた町。そして今回ご紹介する梼原町の一番南に位置する松原地区は、梼原町の中心から車で約40分。梼原町の中でも暖かな気候で緑が多く、松原の人々は豊かな緑と美しい清流の恩恵を受けて暮らしてきました。今回は清流とともに暮らす松原の人々の思いをご紹介したいと思います。

  松原には久保谷という渓谷があり、そこには豊かな緑と美しい水が流れています。今から約90年前、松原の地域の人々は手掘りで灌漑用の水路をこの場所に築き、この美しい水でお米や野菜を育てて暮らしを支えてきました。そして現在、この久保谷の水路沿いは「久保谷セラピーロード」と呼ばれ、地域の人々や町外から訪れる多くの人々に親しまれています。

豊かな緑と美しい清流とともに赤ちゃんを待つ特別な時間

  現在松原に住んでいるある女性は、普段からお散歩や気分転換がしたいと思ったとき、よくセラピーロードを歩いているそう。セラピーロードにいると自然に直接触れることができ、気持ちがのびやかになるのを感じているそうです。これからご紹介するのは、今から十数年前、まだ久保谷の水路沿いが「セラピーロード」と呼ばれる前のお話。その女性は赤ちゃんがおなかの中にいるときも、「産まれてきてくれることを、ゆったりとした気持ちで待ちたい」。「自分がゆったりとした気持ちでいれば、お腹の子どももゆったりとした気持ちになるかなぁ」と、赤ちゃんがいることを嬉しく思いながら、久保谷の水路沿いを散歩し、誕生を待ったそうです。

  久保谷の水路の流れの速さは秒速約0.4m。人間の動脈を流れる血流の速さと同じくらいで、赤ちゃんがお母さんの胎内にいるときの速さと似ている、といわれています。久保谷の水路を流れる水の音を聴いて、赤ちゃんもお母さんもゆったりと落ち着いた気持ちになったのかもしれません。

久保谷セラピーロード

久保谷セラピーロード

  「ここで過ごした時間はとても静かで、風の音、川のせせらぎの音に包まれ、自分とおなかの子どもとの2人だけの世界に浸ることができる、特別な時間だった。」と振り返っておられました。

  現在もセラピーロードは松原地区の住民が中心となり、清掃や維持・管理など、セラピーロードを守る取組みが行われています。そして今回ご紹介した女性も積極的にこの取組みに参加されています。こちらの女性の優しい思い出のように、地域の人々や町外から訪れる人々が、セラピーロードでそれぞれに大切な時間を過ごし、素敵な思い出を作って頂けたら。そして、セラピーロードを大切に思う「思い」がさらに広がり、この場所が今後も多くの人々にとって大切な場所であり続けるよう、セラピーロードを守る取組みが未来へとつながっていけばいいなと思います。

セラピーロード沿いのタラヨウ 別名「手紙の木」に託されたお母さんの思い

セラピーロード沿いのタラヨウ 別名「手紙の木」に託されたお母さんの思い

松原のきれいな水は大切な素材 -松原のきれいな水を使って焼き上げたパン‐

  久保谷セラピーロードのすぐそばには、遠方からもリピーターのお客様がいらっしゃる人気のパン屋さん「森のパン工房シェ・ムワ」があります。店長自らが酵母を起こして育てている自家製天然酵母のパンが特においしいのですが、シェ・ムワさんのパンのおいしさにはやはり、松原のきれいな水が影響しているそう。「パンは、水・小麦粉・塩・イーストといったシンプルな素材から生地を作るので、松原のきれいな水は大切な素材。きれいな水をたっぷりと使うことができるのは、すごくありがたい」とおっしゃっています。

森のパン工房シェ・ムワ

森のパン工房シェ・ムワ

パンに込められた思い

  こちらのシェ・ムワさんで作られるパンには、子どもたちのためだけに作られるパンがあります。それは梼原町立の梼原小中学校「梼原学園」の給食の時間。毎週水曜日のパン食の日には、当日の朝に焼き上げられたシェ・ムワさんのパンが並びます。

  梼原学園でシェ・ムワさんのパンが提供されるようになったのは、店長さんの「子どもたちに、安心・安全でおいしいものを食べてもらいたい」という思いから。保存料や添加物をできるだけ使わず、材料の品質にもこだわったおいしいパンを食べてもらえるよう、教育委員会と何度も話し合いを重ね、給食でのパンの提供が実現したそうです。

学校給食のパンの一部

学校給食のパンの一部

  梼原学園では、定期的に生産者の方がランチルームに訪れて、生産者の思いを子ども達に伝える取組みが行われています。店長も何度かランチルームを訪問し、パンができあがるまでの過程を子どもたちにお話したそうです。子どもたちが給食で食べているパンも、シェ・ムワさんのお店で販売されているパンも、「じっくり仕込んで、ゆっくり膨らませて、しっかりと焼き上げた」パン。時間をかけて丁寧にパン生地をこね上げて、パンが自然に膨らんでくるのをじっくり待って、高温でしっかりと焼き上げる―。店長はその日に焼いたパンを届けるため、夜中の1時から仕込みを始め、スタッフさんを含めた3人で毎週230個のパンを準備します。

  古くから豊かな緑と美しい清流の恩恵を受けてきた松原の人々。松原の自然からの恵みは、人々の生活を支えてきただけでなく、地域に住む人々に大切な思いも育んできたように思います。豊かな緑と美しい清流とともに赤ちゃんの誕生を待った思い出、松原の水が大切な素材だという思い、そして子どもたちに安心・安全でおいしいものを食べてもらいたいという思い。これらの思いが、子どもたちの給食のパンやセラピーロードの清掃などといった地域活動へとつながっているように思います。今回ご紹介した方々のように、それぞれの思いに沿ったカタチで地域へお返しをすることが、これからも引き継がれていけたらいいなと考えています。

(文:ゆすはら応援隊 内城 裕希)