ローカルニッポン

農家と都市住民を結ぶ産消提携 1/安全な食べ物をつくって食べる会


普段私達の生活に欠かせないお米や野菜。市場流通の仕組みが発達して季節に関りなく食材が揃えられる便利な時代になりましたが、同時に直売所での農家の直接販売や産地直送を謳う店舗、インターネットでの購入も可能となるなど生産者、消費者相互に選択の幅が拡がっています。そんな中で今回ご紹介する生産者と消費者の関係は「産消提携」。南房総市旧三芳村の生産者と旧田無市(現西東京市)を中心とする消費者団体から70年代に始まったこの提携運動は、日本国内だけでなく、CSA(Community Supported Agriculture)として欧米諸国にも波及しました。今回はこの産消提携について、消費者側、生産者側双方の目線から現代の「農と食」の在り方に投げかける意義について全2回でお届けしたいと思います。

毎週火、木、土に南房総から採れたて野菜のお届け

消費者と生産者の「提携」といっても、今や各地域や団体によって取り組みや内容も様々。まずは「安全な食べ物をつくって食べる会」(事務所・西東京市)会員数約700世帯と「三芳村生産グループ」(南房総市旧三芳村)農家26戸による元祖「提携」の仕組みについて、事務局の柳井三来子さんと青野直子さんに聞いてみましょう。

“三芳村生産グループ内で出荷基準を定めていますが、私達が設立当初から続けている「提携」の基本は、できた農産物を全量引き取るということです。26戸の生産者が季節ごとに作る産品とその値段は決まっていて、生産者側でその時期に収穫した産品を平等に振り分けて箱に詰め毎週火曜、木曜、土曜に届けてもらっています。”

事務局柳井三来子さん(左)と青野直子さん(右)

事務局柳井三来子さん(左)と
青野直子さん(右)

三芳村生産グループは、1973年に消費者団体から要請があり提携が始まって以来42年に渡り、全耕地を無農薬・無化学肥料で栽培し、ビニールハウスや少しでも環境に悪影響を及ぼすとされる農業資材は使用しない有機農法を行っている農家グループ。年間約100種類もの農作物を育てており、季節ごとの収穫物を会員消費者へ平等に行き渡るよう毎週火、木、土の3日間集荷場から出荷しています。

消費者と生産者が対等の関係

“届くまではどんな野菜が入っているのかわからないので、消費者側の料理のレパートリーは求められますね。あと、ごく稀にですけど、同じ野菜が大量にきたりするので(笑)、保存方法にも工夫を凝らしています。それでも、残留農薬や防腐剤を気にせず安心して食べられるので言いっこなし。私達消費者は生産者と対等の立場なんです。”

届けられる季節野菜 ※季節によって内容が異なります

届けられる季節野菜
※季節によって内容が異なります

公害や農薬被害についての研究報告が世間を騒がせた1960年~70年代、食の安全を求める旧田無市を中心とした消費者によって結成されたのが「安全な食べ物をつくって食べる会」。農薬化学肥料なしで農産物は十分に育たないと考えられていた当時、会の求める作物を食べるためには、生産者の理解と協力も必要となります。そこで同会が旧三芳村農家へ提案した条件は、「できた農産物はすべて引き取ること」そして「生産者の価格決定権を尊重すること」でした。

直接の触れ合いが育む信頼

“この提携を成り立たせる上で、最も重要な役割を果たしてきたのが「縁農」です。通常は生産者の支援という意味で援農といいますが、会の援農は生産者との交流に重きがあるので縁農と呼んでいます。もちろんお手伝いもしますが、消費者にとっては、どんな人がどのように作物を生産しているのか自ら確かめる機会にもなっているんですよ。”

消費者と生産者が触れあう「縁農」の様子 会全体として年に10回ほどの企画もある

消費者と生産者が触れあう「縁農」の様子 会全体として年に10回ほどの企画もある

安心、安全な食を求める消費者にとって、作物の生産過程が最も気になるところ。食品表示が義務付けられ、各種農産物の認証制度が始まったことも「信頼」を求める消費者の声に後押しされた結果といえるでしょう。ただし、百聞は一見に如かず、直接確認することは何よりの説得力があります。特定の地域との「提携」だからこそ、縁農という手段による直接の信頼関係が育まれてきたのです。

“縁農は、会員は予約次第でいつでも行けるのですが、その他に「子どもの家」という、子どもたちが四季折々の自然を学ぶ企画や、11月にいわゆる収穫祭として「新穀感謝祭」という行事もあります。三芳にある交流施設「みんなの家」を拠点に年間を通じて生産者との触れ合いの機会を大切にしています。”

発足当初から生産者と消費者の一体化を目指してきた同会は、旧三芳村の出荷場近くに「みんなの家」という宿泊交流施設を建設しました。春夏秋冬と開催される縁農イベントには交通費の補助が出され、また会員とその家族は無料で宿泊できるなど、会員が農村体験を通して自然や農業を学び、生産者との交流を促す様々な仕組みが用意されています。

里山を体験する子ども達

里山を体験する子ども達

「提携」の原点へ

こうして食の安全性が問われた1970年代から今に至るまで、生産者と消費者の関係として先進的な試みを続けてきた「安全な食べ物をつくって食べる会」ですが、時代やライフスタイルの変遷の中、2年ほど前から改めて提携の本質を学ぼうと「提携セミナー」を開催するようになりました。

総会を始めとして会員が集まる場が年中設けられている

総会を始めとして会員が集まる場が
年中設けられている

“今の時代、様々なルートで安全な作物が手に入る時代になりましたよね。しかし、この提携とは、消費者側の食の安全を確保するためだけではなく、生産者の決めた価格で全量引き取ることを通して生産者を支える取り組みであったことは忘れてならないことだと思います。日本の農業の未来が危ぶまれる現代、今こそ原点に立ち戻って提携の意義を学び直そうということで「提携セミナー」を始めました。”

会が発行している「食べる会しんぶん」 活動報告や行事の紹介、季節野菜を使った料理のレシピも掲載されている

会が発行している「食べる会しんぶん」 活動報告や行事の紹介、季節野菜を使った料理のレシピも掲載されている

農業は規格化された工業製品と異なり、天候や土の状況によって生産物の出来不出来が左右されやすく、また有機農業ともなれば病虫害のリスクも高まります。単に安全な作物の安定した供給を求めるならば、市場原理に従って出来の良い作物を便利に入手すればよいもの。同会の取り組みが通常の消費活動と異なる点は、有機農業の抱えるリスクも踏まえて、特定の地域と提携することで生産者との目に見える関係を築き、さらには地域農業の活性化に貢献しようと考えているところにあります。

“こんな風に話すと慈善活動に聞こえるかもしれませんが(笑)、地域と提携する利点は具体的に沢山あるんですよ。第二の故郷のような田舎ができますし、届いた作物から季節の移り変わりを感じられます。また有機野菜といえども直接配送なので、比較的安く購入できているんです。ただ最近は少子高齢化やライフスタイルの変化から会員数が減少しているので、提携のコンセプトを丁寧にお伝えしながら、新会員さんの募集に励んでいきたいですね。”

事務所は火木金10:00~16:00に開設されている

事務所は火木金
10:00~16:00に開設されている

先人が提携を始めた当初のコンセプトを学び直すことで新会員の募集に向かうという「安全な食べ物をつくって食べる会」の実直な取り組み。農産品価格の低迷で農家離れが久しくなった現代において、農家所得の安定、耕作面積の狭い地域での高付加価値農業、そして都市農村交流などの観点から、再び注目が集まっています。これからも消費者と生産者の理想的な関係を追求する活動として、国内さらに世界へ影響を与え続けていってほしいと思います。

「農家と都市住民を結ぶ産消提携」、次回は生産者である三芳村生産グループの現場から「提携」についてお伝えします。どうぞお楽しみに。

文:東 洋平