ローカルニッポン

主催者も学ぶ!獲る、見る、味わう、体験型食育/湖地考知プロジェクト


滋賀県高島市。琵琶湖北西部に位置し、美しく広がる琵琶湖、背後に迫る比良山系に、南北に細長い平野部が挟まれています。山・田んぼ・湖、そこに人の暮らしが近接しており、それぞれが水(川)によって結ばれ、時おり鹿や猿も顔を出す。まさに「里山」という言葉がぴったりの場所です。

林業・狩猟・農業・漁業。自然を利用し、消費する。互いが繋がり合い小さな範囲で循環する、それがここ高島に息づいてきた暮らし方でした。

しかし今、こうした暮らし方は見えづらくなり、人と自然とのつながりを肌で感じられる機会も少なくなりました。そのつながりの希薄さは、わたしたち人間の生きる根源である「食」の分野においては特に顕著です。

そんな高島で昨年10月にスタートした体験型食育イベント「湖地考知(コチコチ)プロジェクト」。

中心となったのは有機米農家、琵琶湖漁師、料理人。それぞれが自然・食・人について考え、そして自分なりに行動してきた3人でした。

有機米農家・梅村泰彦さん

かつて田んぼは琵琶湖とつながり、湖魚の産卵場所となっていました。農家は繁忙期が終わると田んぼにあがってきた魚を捕り、日々の食料にしていたといいます。梅村泰彦さんは、ほ場整備により湖と分断された田んぼの水路に魚道を設けるなど、本来田んぼがもつ役割を再び取り戻そうとしています。

彼の田んぼは春には琵琶湖からナマズやフナが産卵に上がり、夏には準絶滅危惧種ナゴヤダルマガエルが鳴き、冬には白鳥がシベリアから飛来する、まさしく生物多様性を肌で感じられる「生きた田んぼ」です。

彼は「人と自然の距離が近い高島ならではの食育のカタチを見つけたい」と考えていました。

有機米農家「グリーン藤栄」2代目・梅村泰彦さん

有機米農家「グリーン藤栄」

2代目・梅村泰彦さん

琵琶湖漁師・中村清作さん

中村清作さんは今やピーク時の5分の1と言われる琵琶湖漁師の1人であり、湖魚の正当な評価や湖の環境維持、外来魚問題など、琵琶湖の漁を健全に維持してゆくための問題と日々向き合っています。

例えば昔は各家庭で鮒ずしが作られ、なまずや氷魚などの湖魚も日常の食卓にあがりましたが、近年その習慣は薄れ、湖魚を食べること、調理すること、買う機会すら少なくなっています。湖魚を正当に評価してもらうにも、まずは消費者が「食べたい」と思えるような美味しい食べ方を知ってもらわなければなりません。中村さんはそのための地道な活動を、漁と並行し寝る間も惜しんで行っていますが、「琵琶湖漁や魚のことを知ってもらい、喜んでもらえることが単純に嬉しいから。」と楽しげに話します。

代々専業の琵琶湖漁師・中村清作さん

代々専業の琵琶湖漁師・中村清作さん

カフェ料理人・岡野将広さん

岡野将広さんは2年前に「生産者と消費者をつなぐ」というコンセプトのもと、イタリアンカフェ「高島ワニカフェ」をオープン。有機野菜、ジビエ、天然の湖魚、自然飼料のみで育った近江牛や鶏卵など食材のほとんどが地元産で、生産者から直接仕入れています。それらを料理として提供するほか、地元消費者に有機野菜を届ける地域内流通の取り組みも始めました。また、お味噌やお醤油作りなどのワークショップ、食文化の継承にも力を入れています。

「異分野同士の相互作用が料理にもよい影響を与える」と話す料理人・岡野将広さん

「異分野同士の相互作用が料理にもよい影響

を与える」と話す料理人・岡野将広さん

梅村さんの呼びかけで日頃から「生産者」と「料理人」として付き合いのあった3人が集まり、互いの思いを話した時に「互いの得意を活かしながら、自分たちなりの面白い食育をしていこう。自分たちなりの答えを見つけて行こう。」となったのは自然な流れでした。

湖地考知(コチコチ)プロジェクト

「知識・体験をスタッフが提供し、お客様が受け取る」という単純な仕組みではなく、「自分たちも含む参加者全員が学ぶ場を提供する」という意味を込めて名付けられた、湖地考知プロジェクト。

自然と近い暮らしをしてきた高島では、山や川、湖、田畑で日々の糧を確保し、それを各家庭において地域ならではの方法で調理してきました。そんな、昔は当たり前だった食のあり方をもう一度体験するイベントとして、プロジェクトではこれまで「地引き網漁体験と秋の田んぼ生き物調査」「猟師とジビエ料理を食べる会」「ちびっこ猟師体験と鹿解体の見学」「田植えと春の田んぼ生き物調査」「夏の田んぼ・夜の生き物調査」を実施してきました。

田んぼの水路での生きもの調査

田んぼの水路での生きもの調査

ジビエ料理や猟師体験では市内の猟師さんを招き、実際に鹿を獲ること、味わうこと、獣害対策や狩猟の問題点について学びました。

地引き網漁体験では田んぼでタイコウチ、ガムシなどの虫やフナなどを観察した後、川を5分程下り湖岸へ。地曳き網を皆で引き、その場で獲れた魚も含めた湖魚のランチを楽しんだ後、最後は昔ながらのお米の脱穀も体験しました。

地引網漁体験

地引網漁体験

多様な人々が集まり、みんなで学び合う

虫の解説は自然観察指導員の方、魚の解説は中村さん、そしてお客様で来ていた滋賀県立琵琶湖博物館の学芸員の方も飛び入りで解説を担当しました。そこへ大人の参加者も交ざり、子ども時代の様子などを話します。

参加者側の学芸員さんが解説に飛び入り参加

参加者側の学芸員さんが解説に飛び入り参加

岡野さんは「イベントにはスタッフ、お客様、ゲストの専門家も含め、自然や食に対する捉え方が違う様々な人が集まります。違う職種でも共通する問題があることや、ひとつの物事、問題に対してのまったく違う見方や意見を知ることで、新しい考え方を見つけることが楽しいのです。」と言います。

手を動かし五感で感じながら、互いが知識、意見、発見、質問を交わし、皆が何かを共有し、それぞれ何かを得て、「食」への考えを深めていくのです。

「食」を考えること

食べ物がどこから来るのか、どのように作られるのか、食べ物も私たちも共に生きているものであること、地域独自の食文化はその自然環境、またそれに影響された暮らし方に依るものであること。

「食」を考えることは、「自然」を考えること、「生きる」を考えること、「暮らし」を考えること、「受け継ぐ」を考えることなのです。

「とは言え、自分たちがおもしろいと思うことをやっているだけ。」とは中村さん。たしかに毎回、大人も子どもも終始笑顔と驚きに満ちた顔をしています。

参加者自身で獲った湖魚のランチ

参加者自身で獲った湖魚のランチ

プロジェクトメンバーの興味は尽きません。

「あらゆる側面から高島という地を見つめ直し、私たちなりの答えを見つけ出したいと考えています。」と梅村さんが言うように、ミーティングでは「食」を重要なテーマとしながらも、高島の歴史や地域文化、自然環境の維持改善などあちこちと話は広がっていきます。

私たち筆者もこのメンバーですが、これからどんな事が出来るのか楽しみで仕方ありません。参加は市内に限っていませんので、みなさまもぜひお越し下さい。

プロジェクトメンバー。琵琶湖岸にて

プロジェクトメンバー。琵琶湖岸にて

文:あさひ動物病院 小田千夏子、大溝の水辺景観まちづくり協議会 神原未來
写真:小田千夏子、神原未來、坂井田 智宏