ローカルニッポン

「島根県修学旅行ない問題」に挑んでみた
―津和野高校魅力化コーディネータ日記その1―


私の好きなテレビ番組で以前「島根県修学旅行ない問題」というものが取り上げられていました。私はリアルタイムでその回を見ていたのですが、そこで「島根県の県立高校40校のうち31校は修学旅行を実施していない」、「修学旅行が存在しない明確な理由はない」ということが紹介されており、衝撃を受けました。

私の高校時代を振り返ると、沖縄の離島に4泊5日で修学旅行に行ったことは最高の思い出であり、沖縄旅行がなかったら高校時代の思い出の半分がなくなるくらいに思っています。「そんなスペシャルな思い出作りの場がないなんてあり得ん!!! 島根に生まれなくて良かったぜ!!!」と、番組を見ながらひどい感想を抱いたことを覚えています。

さて、そんな私ですが実はこの番組を見た1年後に、縁もゆかりもなかった島根県津和野町に移住し、とんだ偶然で県立津和野高校の広報・企画の仕事をすることになりました。津和野高校で仕事をすることが決まったときに思ったのは、もちろん、「津和野高校には修学旅行はあるのか?!」ということです。

赴任してから最初の職員会議で目を皿のようにして行事日程を確認したところ、「1年生宿泊研修」や「全校鍛錬行事」といった宿泊イベントはあるものの、どう探しても修学旅行の文字は見当たりません。「宿泊研修」の内容は、お隣の山口県の研修施設に1泊2日で泊まり、アスレティックをやったり、勉強のやり方を学んだりするというもので、修学旅行という感じではありません。「鍛錬行事」の方はというと、山口県の萩に宿泊し、そのあと萩から津和野まで約50キロを徒歩で帰るというもので、「旅行」というよりもはや「修行」といった趣があります。

津和野高校の宿泊イベントは質実剛健といった感じで、津和野という小さな城下町にある高校のイメージにはぴったりなのかもしれないと思いつつ、実際のところ生徒は修学旅行についてどう思っているのかが気になりました。生徒数人を捕まえて聞いてみると、中学校では修学旅行で沖縄に行ったりUSJに行ったりしている生徒がほとんどで、「高校でも修学旅行に行きたい!」という生徒ばかりでした。

そこで全校生徒の意向も聞いてみようと思い、2014年度の文化祭の生徒会企画として、「いま津高にほしいものベスト5!」という全校アンケートを企画し、修学旅行へのニーズを聞いてみることにしました。

(文化祭で使用したスライド)

(文化祭で使用したスライド)

このアンケートでは、修学旅行のほかに「制服の魅力化」や「購買の設置」など生徒のニーズが高いと思われる企画を10個出して、実現させたい企画をその場で投票するという形式にしました。この結果、修学旅行は全体で3番目の支持を集め、全校的なニーズが有ることも把握できました。

(投票の様子)

(投票の様子)

修学旅行の実現方法を考えたところ、いきなり全校規模でやるのは難しいので、津和野高校に併設されている町営英語塾”HAN-KOH”の企画として、2015年度の夏休みに「HAN-KOH TOKYO TOUR 2015」を行うことにしました。

今年6月頃から参加者募集を始めたところ、7名の津和野高校生が応募してくれました。8月12日から16日まで、2泊5日(高速バス車中泊が2日)で4万円という超強行・格安ツアーを実施し、私も引率者の一人として同行してきました。

私はもう一人のスタッフとともに「キャリアコース」の企画・引率者、高校生を連れて会社見学、大学教授との面会、東京の中高生・大学生との交流を行いました。東京生まれの私は、数名の高校生の東京案内くらいは朝飯前だと思っていたのですが、いざ引率となると移動・食事・トイレを計算に入れて動くのが殊のほか大変でした。自動改札を通るのも初めて、Suicaを買うのも初めて、地下鉄に乗るのも初めてという生徒もいて、新宿駅の自動券売機で1,000円分のSuicaを買えといったのに10,000円分買ってしまって活動費が一気になくなるという想定外のトラブルも発生しました。

(Suicaを発行する高校生たち)

(Suicaを発行する高校生たち)

いちばん驚いたのは、急いで移動しなくてはいけない時に生徒があまりにゆっくり歩いているので注意したところ、「すみません、芸能人を探していました」と言われたことです。このときは全身から力が抜けて道端に倒れそうになりました。

田舎の高校生とド素人の引率スタッフで行った第一回の東京ツアーでしたが、どこの見学先でも担当の方が最高のホスピタリティで迎えて下さり、大きなトラブルもなく(小さなトラブルは無限にありましたが)終わることができました。「島根修学旅行ない問題」に端を発する東京ツアーは来年も継続して実施する予定です。来年はどんなトラブルが待ってることやら。

文 : 津和野高校魅力化コーディネーター 松原 真倫