ローカルニッポン

再生可能エネルギーを活用したまちづくり/高知県梼原町(ゆすはらちょう)


私たちの梼原町は四国山地の西部に位置し、愛媛県境に接する山間地域です。四万十川の源流域でもあるこの町は別名「雲の上の町」の愛称で呼ばれています。童話的なイメージですが、過去には明治維新に散った多くの志士を輩出し、かの坂本龍馬が日本の黎明を告げた地でもあります。

そもそもわが町が具体的なビジョンの下に再生可能エネルギーの活用に取り組み始めることとなったのは20世紀末が押し迫った西暦2000年であったと言えます。この年、地方分権一括法が施行され、住民に身近な行政はそれぞれの市町村で考えていくこととなりました。町ではこれを機会にこれからの町づくりの基本構想の作成について町民のみなさんの参加をお願いするために公募をかけました。その思いを、町民のみなさんにもしっかりと受け止めていただき、自らがわが町の計画づくりに参加したいという18歳から74歳までの15名の方に応じていただきました。

もちろん、今までこのような計画を策定したことはなく、町の現状すら知らない方もおられましたので、まずは町内全ての地域を調査し、地域のおかれている現状と課題を各々の考えで拾い上げていただき、それぞれの思いをすべて書き出し、集約することから始めました。かなりの時間を要しましたが、その結果、今日まで私たちの先人が守り価値を高めてきた地域の資源を、私たち自身がしっかりと未来に引き継いでいく大きな責任を背負っていることを認識していただくこととなったのです。

そして生まれたのが、「環境の里づくり」「健康の里づくり」「教育の里づくり」の3K構想です。この構想は、91%を占める林野を大切な資源として捉え、“森と水の文化構想”を大きな柱として、環境の世紀と呼ばれる21世紀に輝き続ける構想として樹立しました。これからの時代を環境、健康、教育の3つが“つむぎあう”中で皆が明るく、楽しく、元気に生活のできるまちを創りたい、そこに目的があり、望みがありました。

構想を作成する過程を通じて、またそれを実行していく中で地域が一体となって共通の目的に向かって進む土壌ができあがりました。2000年、町は森林(もり)づくり基本条例を制定し、梼原町森林組合は団体として日本初となる国際的なFSC森林認証を取得しました。さらに翌年には水源地域森林整備交付金制度を立ち上げ、良好な風況に恵まれた四国カルスト台地の町営風力発電所(風車2基)から得られる売電益を環境基金として積み立てて森林所有者が行う間伐に対して1ヘクタール10万円を交付、支援するための財源としました。このことにより、自然から得られた財源を自然に返していくという循環の基礎的なしくみができあがり、その後の取り組みがスパイラル的に進んでいくこととなりました。

風車

10年間で間伐対象となる森林の7割以上で間伐を実施しました。

その過程で発生する林地残材や未利用材は企業や森林組合等と協力して木質ペレット燃料へと加工、町のあらゆる施設で冷暖房や給湯の燃料として利用されています。

間伐作業

町の中心街の再生にあたっては、北から南へと縦断する梼原川の6メートルの段差を利用し、小水力発電設備を設置、街路灯や学校への電力の供給と余剰電力の売電を行っています。

小水力発電所

公共施設においては太陽光発電パネル等の再生可能エネルギー利用設備の設置を積極的に行うとともに、風力発電から得られた売電益を利用した住民向けへの補助制度も立ち上げました。その結果、再生可能エネルギー全体の自給率は28.5%(2008年度時点)にまでに高まり、さらに2014年度現在では、全戸数の17%以上にあたる305世帯において設備の設置が進んでいます。

まちなみ太陽光

時を遡ること100年以上前の明治の時代。

町(当時梼原村)は不要公課の計画を打ち立てます。

これは広大な林野を最大限に活用して村を税金のいらない理想郷とする構想でした。この計画は理由不明ながら10年足らずで中断します。しかし、山村に生きる民として与えられた自然環境に寄り添うことで村の自立を目指したその精神は、100年以上の時を経てもなお現代の梼原人に受け継がれています。

東日本大震災以降、私たちのこうした取り組みについて多くの方々に関心を寄せていただき、そして訪れてくださいました。たくさんの仲間ができたことに感謝しています。

最後に言いたいことは、私たちが目指していること、やっていることは当たり前のことであるということです。

その場所で生きていくということは、本質的には与えられた自然環境に寄り添い、そして受け入れていくということです。いつの間にかこの当たり前のことが注目される世の中になったように感じています。

町は、2050年までに再生可能エネルギー自給率100%を目指しています。その時には明治の不要公課村構想から144年という年月が過ぎています。環境と経済が両立した梼原を夢見て、取り組みを進めていきたいと考えています。

中心部全景

文:高知県梼原町役場 企画財政課 まち・ひと・しごと創生係長   山本 和正