ローカルニッポン

地域を支える小さな拠点「集落活動センター」の取り組み/高知県梼原町(ゆすはらちょう)


わが町の地理・地勢は、四国カルスト台地に抱かれた愛媛県との県境に位置し、91パーセントが林野に覆われています。行政区画は明治時代の旧村単位を基本として越知面区、四万川区、東区、西区、初瀬区、松原区の6区に分かれており、標高は南部の220メートルから北部の1,455メートルとかなりの差があることから植生や農作物の植え付け・収穫時期もそれぞれ異なっています。つまり、梼原で生きるということはそれぞれの地域でそれぞれの自然に寄り添い、その自然を受容するということと言えます。そして、その中で「結」という言葉に表されるように住民はお互いに助け合い、支え合って暮らしを営んできました。それは精神的・肉体的さらには金銭的な面においても絶妙なバランスを保ち、自然環境への関与も含めて全体最適となる知恵であったと言えます。

しかしながら、時代の変化とともにさまざまな要素が変化していく中で、特に少子化や高齢化、人口減少等を背景としてこのバランスを保つことは難しくなりつつあり、その影響は多くの課題となって表面化してきています。

2010(平成22)年度、町は、住民のみなさんが今、何を考え、そしてこの梼原の地で暮らし続けるためには何が不安であるかなどの思いを把握するために、全世帯を対象として全役場職員が一軒一軒各家庭を回りながら、直接、聴き取りアンケート調査を行いました。
その結果、

  • ■交通手段が不十分
  • ■飲み水や生活用水の質や量の不十分さ
  • ■雇用の不足
  • ■道路等の危険個所の存在
  • ■生活費が足りない
  • ■野生動物による農業被害

の大きく6つの項目が課題として整理されました。同時に、これらの課題が解決されたならば、町内全体で88パーセント以上の方が、特に松原区・初瀬区では97パーセント以上の方が「梼原で一生を過ごしたい」との強い思いを抱かれていることが判明しました。

もちろん、これらの課題は行政だけでは解決できません。行政と住民のみなさん、さらには企業や各種団体などとの連携が必要です。そして、なにより、「梼原で一生を過ごしたい」との願いを実現するためには、住民のみなさん自身がそれぞれの地域で楽しく暮らし続けていくための仕組みづくりを考え、取り組んでいくということが重要です。

そのための手段が集落活動センターの取り組みであり、その目的は様々な課題に対してしなやかに対応できる体制をつくると同時に、地域の魅力を高めていくことを通じて地域の自立を目指すことにあります。

町内で最初に取り組みをスタートさせたのが、人口減少や高齢化が進む松原区と初瀬区でした。松原区は人口300人弱、町中心部から車で40分ほどの位置にあります。当時、大きな問題となっていたのが地域にたった一つしかないガソリンスタンドの存続でした。経営を続けるためには、省令改正に適応した地下貯蔵タンクへの改修が必要となり多額の経費がかかります。しかしながら個人経営ではそれも困難な状況にあり、廃業以外に選択肢はありませんでした。そうなると地域住民は遠く町中心部まで行かなければ燃料を確保することができなくなります。高齢者をはじめとする住民の負担が増加することは明らかでした。

2012(平成24)年6月、この問題を始めとして地域を取り巻く様々な課題について検討するため、地域住民により「集落活動センターまつばら推進委員会」が組織されました。その結果、地域でお金が回る仕組みづくり、住民が主体となって支え合い助け合うことのできる仕組みづくり、そして活動している団体の取り組みをみんなで支援することを通じて地域の発展を目指していくことになりました。ガソリンスタンドや日用品の販売等については、在来商店との競合を避けながら将来的にはその役割を受け継げるよう「地域住民が支える、地域のための会社」として住民自ら出資をして株式会社を立ち上げました。

あいの里 まつばら

一方、「集落活動センターはつせ」では地域資源を最大限に活用し、地域の魅力を高める取り組みとして、韓国との間で長年培われた交流を背景にチムジルバン・レストラン鷹取をオープンしました。低温式サウナと地域食材をふんだんに使った韓国風レストランは週末には行列ができるなど人気を集めています。また、公共交通機関が極めて少ないという同じ悩みを抱える松原区と連携し、過疎地有償運送NPO法人「絆」を設立、電話で予約すれば低価格で送迎する仕組みを運営しています。

過疎地有償運送

その後、四万川区でも取り組みが開始され、松原区と同様に住民出資による株式会社を設立し、ガソリンスタンドの経営や県内のホームセンターとの販売取次店契約による日用品販売、地域住民から出品された農産品等の販売等を行っています。

経営の先頭に立つ区長のお話では「地域の7割以上の人が利用してくれている」とのことで、まさに住民みんなが支え、支えられるといった形が実現しつつあります。

しまがわSS

そして、これらの取り組みをサポートしているのが「ゆすはら応援隊」です。ゆすはら応援隊は本町との友好交流都市である兵庫県西宮市を中心として公募し、現在、6名の若手隊員が活躍しています。移動手段が確保できない住民に代わって農産品の集荷を行い、町内や地域内の売り場に出荷することで、少しでもお金に換えるお手伝いをしたり、集落活動センターの運営を支援したりしています。

応援隊

集落活動センターの取り組みはまだまだ始まったばかりですし、課題も山積していますが、この取り組みを通じて本町にはかけがえのない財産があることに気づかされました。それは本町の住民自治制度と培われてきた絆です。それぞれの区や部落が団結する仕組みがあり、そして「結」制度に代表される住民同士の絆が残っていることこそが、地域での取り組みに欠かせない背景となっているように思います。

そのことを大切にしながら一つひとつ課題を解決し、そして地域の魅力を高めていくことで、活き活きと楽しく生涯を送ることのできる梼原づくりを住民みんなで目指していきたいと思います。

文:高知県梼原町役場 企画財政課 まち・ひと・しごと創生係長 山本 和正