商売の存在意義に立ち返ることで小さなお店の魅力を引き出す/村上ユタカさん
「シャッター通り」という言葉に代表されるように小規模な個人商店の衰退は地方のみならず都市部でも大きな問題となっていますが、そんな中で新しい価値の提供により支持を集める店舗が現れていることにも注目したいと思います。今回は、新しく館山市にこだわりのワッフル専門店をOPENし、100店舗以上の出店により賑わうイベント「市場のマルシェ」を主宰する村上ユタカさんに、地方の個人商店の魅力化についてお話を伺ってみました。
携帯ゲームの作者から手作りワッフル専門店「おやつマルシェ&雑貨オウル」を開業
大阪出身の村上さんは、32歳の時にとある広告代理店の経営を任されると共に東京へ移り、以前から家族で計画してきた海辺の田舎暮らしを実現するために2007年館山市へ移住しました。その間、学生卒業後から経験してきた職種は通算30職。現在でも店の経営のほか、館山の海を案内するガイドや太極拳のインストラクター、セミナー講師などをしています。まずはどうして、ワッフル専門店を始めたのか聞いてみましょう。
“館山に来てからは、その頃流行り始めた携帯のソーシャルゲームを作るチームを組んで、東京や兵庫など遠隔地とやりとりしながら仕事をしていました。それまで経験してきた広告やWEB業界の仕事を活かして、GREEやモバゲーでゲームを提供していましたが、その反面ゲーム内のイベントで大金を課金していくユーザーをみていて、こんなことしてちゃアカンなと思って辞めました(笑)。”
“そこで何しようかなと思っていたのですが、妻の「ワッフル」いいんじゃない?という一声からお菓子作り面白いなぁと思って研究を始めて、新しく借りた店の改装を進め2013年に「おやつマルシェ&雑貨オウル」をOPENしたんです。妻が館山に越してから小さな手づくり雑貨店を営んでいたので、雑貨と合わせて手作りお菓子の専門店をやろうと。南房総の卵はじめ全国から厳選素材を取り寄せて、添加物不使用で体と心にやさしいワッフルを作り、店舗販売以外にも各所に卸しています。”
お菓子作家さんとパートナーシップという新しい仕組みづくり
「ワッフル」という商材、そして厳選素材と作り方もポイントですが、「おやつマルシェ」にはもう1つの特筆すべき点があります。
“「おやつマルシェ」は、お店の名前にもあるようにワッフル以外にも色々なお菓子が並んでいます。実は、これらのお菓子は地域内外のお菓子作家さん達が、このお店で作った作品なんです。お菓子は、菓子製造許可のあるお店で作らないと販売できないのですが、美味しいお菓子を作る技術をもった方は沢山います。そこで、許可のあるお店を開放してこうしたお菓子作家さんとパートナーシップの仕組みを作ったんです。現在30人以上のお菓子作家さんが登録しており、シフトを組んでお菓子を製造しています。”
ワッフルを製造するお店を開くに当たって、村上さんが導入したアイディアはお菓子作家とのパートナーシップ。評価の高いお菓子作りの技術をもっていても、お店を出すには相当な労力と費用がかかります。そこで製造所と販売所を提供することにより、「お菓子を販売したかった」「いずれお店を開きたい」お菓子作家の思いとワッフル以外の美味しいお菓子も集まる「おやつマルシェ」を同時に実現することができたのです。
人は無意識に情報の選別をしている
「おやつマルシェ」を開店してから、奥さんの雑貨屋「ポーチュラカ」を中心として開催してきたイベントを引き継ぎ、昨年には130店舗以上が出店する一大イベントに育て上げ、南房総に新しい風を吹き込み続けている村上さん。地域の商店に対して「勿体ない」と思うことも多いそうです。
“同じ南房総で商売をしている者として、この地域がより一層盛り上がってほしいと思うのは当然のことで、できる限りお店でも他のお店の紹介ポスターやチラシを置いています。しかし、内容は良いのに、広告の重要性を知らないお店が多いなぁという感じがしています。現代人は、普段から多くの広告にさらされていますから、情報過多となり、無意識のうちに情報の選別をしているんです。お店側は、チラシを置いたり何らかの新聞や雑誌に広告を掲載して情報を発信したと思っているのですが、お客さん側にその発信を受けとめてもらうのは至難の業です。”
広告のワンポイントアドバイス
“まず、広告というのは一番上にくる文が最も重要です。この文で読み手は自分に関係のあることかどうか、そして魅力的なことなのかを無意識に判断します。その上で次にくる文を読み、また次へと目を移すのです。しかし大半の広告は一番上にお店の名前がきていることが多いですね。まだ知られていないから広告を出すのに、お店の名前が大きく表示されてもさらっと読み飛ばされてしまう可能性が高いです。そのお店が何らかの価値を提供しているならば、その点を一番上に簡潔に明記しなければ効果は半減します。”
村上さんが地域の商店を活性化するためにまず重要だと指摘するのは、広告の質を高めること。WEBの広告作成や求人広告の営業、そして携帯ゲームでのイベントで人を呼び込む言葉など、数々の広告に関する仕事に携わってきた村上さんは、データを基にした広告分析を長年行ってきました。
商売には2つの存在意義がある
“では魅力とは何か?となりますが、ここで商売が何のためにあるのか立ち返る必要があります。私は大きくまとめると商売とは、「快を提供する」か「不安を取り除くこと」の2つにあると考えています。もちろん製造業などは背景に部品を作る仕事があったり、事務などもありますが、商いで何を販売しているのか考えるとこの2つに分けて価値を提供しているのです。”
村上さんによると「快」とは「美味しい」「心地良い」といった五感の快以外にも、「暮らしの改善」「楽しい体験」なども含む広い意味だということ。また「不安」には、生命の危険だけでなく身の周りや本人に対する「不満」や「不便」などのネガティブな感情全般が入ります。
“これまで「~屋さん」とか「~業」など固定された枠組みで商売が成り立ってきたのですが、現代は広告戦略や効率性に長けた企業が地方へも進出して、従来のままでは小規模商店の魅力が消費者に伝わりづらくなりました。しかし、小規模だからできること、この地域だからできることは山ほどあります。自分の仕事がお客さんに対してどんな「快さを提供する」か「不安を取り除く」のか、改めて明確にして、お客さんが自身と関わりがあるな?と思わせるように価値を発信し、魅力を高めていくことが大事でしょう。”
モータリゼーションや都市構造の変遷、大型スーパーの誕生や消費動向の変化と、小規模な個人商店をとりまく環境は急速に変わっていますが、商売の基本は昔も今も消費者により良い商品とサービスを提供していくことには変わりありません。そのためにも固定概念を一度取り払い、商売の根本的な原理に照らして、魅力を創り上げ発信することが重要だと村上さんは語ります。南房総全体がより活性化するためにも、魅力ある商いが拡がっていってほしいと思います。
文:東 洋平
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