ローカルニッポン

仕事をデザインする役場職員を増やす/若手町民向け勉強会“Smile to Smile”


「役場職員が仕事を楽しむように変われば、この町も変わる」

若手の津和野町民向け勉強会『Smile to Smile』は、そんな想いから立ち上がりました。 発起人は津和野町役場に務める村上久富さん。「このままでは消滅自治体になってしまう」という問題意識を持ち、昨年度にこの団体を立ち上げました。

島根県の中山間地域に位置し、人口8000人を下回る津和野町。そんな地域で“津和野の歴史勉強会”、“津和野商品開発ワークショップ”などを実施し、1年間でのべ200人以上の参加者を集めた『Smile to Smile』。村上さんに団体のこれからの展望について、お話を伺いました。

仕事を楽しくデザインする

村上さんは普段、津和野町役場の農林課に務めています。紋切り型の仕事をただこなすだけではなく、“仕事は自分で楽しさを見出すもの”というモットーを持ち、日々の業務に携わっています。

講義中の村上さん

<講義中の村上さん>

「上司から頼まれた仕事を、面倒臭いと思いながら提出してもつまらない。いかに自分の色を出して、良いものにするか。楽しくデザインするか。それが大切だと思います。」

しかし10年前、旧・日原町と旧・津和野町が合併をしたため、役場も津和野町役場として新しく編成されることになりました。当時日原町役場に務めていた村上さんも、その影響を受けます。

「昔は同僚同士で家族ぐるみで付き合い助け合うような仲だったけど、役場が新しく編成され直してから、雰囲気も変わったと思う。仕事を淡々とするだけのような感じ。コミュニケーション量が少なければ、町を活性化させるアイデアも生まれにくいです。それってもったいないな、と思っていた。」

そんな思いを持っていた頃、村上さんは株式会社FoundingBase代表・林賢司さんと出会うことになります。林さんは地域活性化のコンサルタントとして、津和野町に携わっていました。

「津和野町はこのまま何もしなければ、消滅自治体になることは明白です。そのためにもまず役場職員が楽しんで仕事をし、面白いアイデアを産んでいくことはできないか。そのために勉強をしたり、親交を深めたり、そういう団体が津和野にあってもいいのではないか。そんな自分の思いを林くんにぶつけてみたら、“それ、やりましょう!”という話になった。」

これがSmile to Smile の始まりでした。

下段中央が村上さん、左上が林さん。

<下段中央が村上さん、左上が林さん。>

町をオモシロクする勉強会

当初のSmile to Smileのミッションは“人が集まる場をつくる”でした。

「人が集まれば、新しいものが生まれるはずです。隣の部署が何をやっているのかすらわからない。そんな状況を打破するためにも、若手の役場職員に勉強会という形で呼びかけていきました。」

勉強会の模様。津和野の観光がどうすれば盛り上がるか意見を出し合っています。

<勉強会の模様。津和野の観光がどうすれば盛り上がるか意見を出し合っています。>

Smile to Smileの勉強会の内容はまさに多種多様です。例えば津和野の歴史を学び直す、“森鴎外勉強会”。この町は城下町としての歴史も古く、森鴎外の出生地としても有名です。津和野出身の郷土研究家の方をお呼びして、講座が行われました。

他にもFoundingBaseの林さんが講師となった“町をオモシロクする企画の作り方”。地域活性化のコンサルタントとして、企画の生まれるプロセスや実践法をワークショップ形式で紹介します。林さんは、 Smileのあり方についてこう語っていました。

「オモシロイ町とは一人の注目されている人がいるのではなく、いろんな人が様々なアクションを起こしていて、輝いている状態ではないでしょうか。そのために分野の違う人たちが集まって、なにか新しいことをすることが大切だと思います。」

林さんは地域起こし協力隊の制度を用いて、津和野町に対して「地方で働きたい若者」の人材採用支援も行っています。彼らは町の職員として都会の視点を持ち、教育・農林業・観光・情報発信の分野で新しい企画を展開していっています。
村上さんも「変化を起こすには、内から外へ働きかけることが必要だ」との考えを持ち、積極的に地域おこし協力隊のメンバーをSmile to Smileへと巻き込んでいきました。

こうした流れもあり、最初は若手役場職員向けの勉強会だったSmile to Smileも、次第に門戸を広げていき、若手町民なら誰でも参加可能になっていきます。

「ツワノ農業の魅力を新たなカタチに」のポスター

<“ツワノ農業の魅力を新たなカタチに”のポスター。>

津和野出身の農家さんを招いた“ツワノ農業の魅力を新たなカタチに”の回では、津和野の野菜を使った商品開発ワークショップを行いました。一人一つずつ、農作物や特産品を選び、実際の商品を考えていきます。

まずイメージを情報に落とし込むために、企画を作る上で基本となるフレームワーク「5W2H」を使って考えます。次に商品やパッケージのイラストなどを描いて可視化することによって、その商品の魅力をより伝えやすくします。例えば、

「自分の両親は漬物が好きで毎日食べているので、塩分過多にならないか心配だ。そんな高齢者のために、減塩加工した“死なない漬物”を作ってみたらどうか」

など、ワークショップを通じて参加者からユニークな意見がたくさん出ました。

このワークショップから3ヶ月後、その農家さんがSmile to Smileの仲間にこんな話を持ち出します。

「夏場は廃棄野菜が多くて困っている。何とか有効活用できないだろうか」

気温が高くすぐに腐ってしまうため、どうしても廃棄になる野菜が増えてしまうそうです。 主にナス、きゅうり、スイカなどがその対象。漬物にして、お祭りで販売してみたらどうかというメンバーの提案により、実際に企画と販売まで行う事になりました。

きゅうりの漬物の商品開発をしている様子

<きゅうりの漬物の商品開発をしている様子>

漬物の商品開発には加工場をお借りし、試行錯誤を重ねていきます。微妙な味の変化や、保存方法にも気を使いながら作る漬物。津和野で行われる夏祭りで販売します。

学ぶだけでなく、アクションするチームに

昨年度は15回開催し、200名以上の参加者を集めたSmile to Smile。ある参加者は

「Smile to Smileで普段出会うことの無い方と出会い色々な価値観を共有することで“変化すること”へ前向きな気持ちを抱くようになった」

と答えます。今年度は勉強会にとどまらず、“アクションを起こす”事を目標に掲げています。村上さんは語ります。

「学ぶだけではなく、実際に動いてみる。自分たちでお金を回せるようになって自分たちが津和野を引っ張っていけるチームになって行きたい。」

地域のリーダーを輩出するため、また笑顔で仕事をする人を増やすために活動するSmile to Smile。彼らの活動から目が離せません。

文:宮武優太郎