高校生が開設した地域から愛されるシェアスペース 桜咲造(さくらさくぞう)/長野県飯田市
長野県飯田市に、飯田OIDE長姫高校商業科3年の鎌倉朋也さんが開設したシェアスペース、桜咲造(さくらさくぞう)があります。商業科の生徒有志により、2015年に結成したまちづくり団体Sturdy egg(スタディエッグ)のプロジェクトの一環として、鎌倉さんが企画・運営。桜咲造を拠点に、人と人とをつなげています。
「桜咲造」に込められた想いと覚悟
シェアスペースの名前「桜咲造」には「桜を咲かせる」との鎌倉さんの意気込みが込められています。2015年6月、長野県内のゲストハウスに宿泊したことがきっかけでした。地元にも「いろんな人と話したり、みんなで集まる場所がほしいと思った」と鎌倉さん。それをSturdy eggのメンバーの前で「やりたい」と口にしたところ、一気に話が進んでいきました。
商業科の授業で学んでいるとは言え、実際の経営となると、何から始めてよいのか分からない状況でした。そんな時、担当教諭が飯田市内の広告デザイン会社、株式会社週休いつか代表取締役の新海健太郎さんがゲストハウスを作ろうとしていることを知り、新海さんを鎌倉さんに紹介。新海さんから指導を受けながら、企画書を作りました。その企画書をもって、ちょうどその頃、飯田市で募集していた起業家ビジネスプランコンペティションに応募。見事に奨励賞を受賞しました。ここまでくると「もう引き下がれなくなった。やるしかなくなった」と、鎌倉さんの覚悟が決まりました。
地元企業からの支援と連携
「事業計画を提出するのが大変だった。授業で習うレベルとは違った」と話す鎌倉さんは、新海さんのアドバイスの下、事業計画を作成。「新海さんがいたから」と鎌倉さんが話すように、新海さんが高校生の鎌倉さんと一緒にやろうと思った決め手はなんだったのでしょうか。新海さんにお話を伺いました。
「我が社で進めていたゲストハウス事業を、自分でやろうという高校生だったので。まずはお互いの気持ちがマッチしました。高校生の遊びにお付き合いするつもりはありませんでしたが『学生起業したい、仕事として考えている』と、本気だったからです。彼の母親も事業をやっていて、自分も将来は事業をしたいと思っていること、母親を手助けしたいという動機にも共感したので、応援してあげたくなりました。我が社では『自分たちのやりたいことを明確にする』ということをとても大切にしていて、彼は我が社の考えにぴったりでした」
空き家を改修して念願のオープン
不動産会社やリフォーム会社とも連携し、住宅地に囲まれた飯田市内の高校の裏手にあり、駅から近い立地にあった空き家を改修。2016年3月、桜咲造のオープンにこぎつけました。オープン記念として行ったのが「南信州帰省イベント」。地元を離れている大学生が帰省して、鎌倉さんをはじめ地元の高校生や社会人と交流会を開きました。帰省イベントを企画したのが、以前に帰省した際に鎌倉さんと出会い親交を深めていた、飯田市出身で慶應義塾大学大学院2年の関口真司さんでした。
「桜咲造は、地元から離れたところで地元に対するアクションを起こしたいと思っている自分にとって、その想いを実際に形にする助けになってくれる場です。こんなことやれないかなと企画を持ち込むと、日ごろ一緒に活動する仲間や地元にいる友人たちと、ひとつのものを作り上げていくことができます。こんな体験をできる場はどこにでもあるものではないと自信を持って言えます。今後の桜咲造には、普段、地元にいられない人の飯田への想いを叶える場、地元に新しいつながりを生み出す場としての力を、これからもより一層高めていってほしいと期待しています」
学校の枠を超えて高校生がつながる場所に
現在は高校生を対象に、地域で熱い想いを持って活動している人の話を聞き、自分の将来や地域のことについて考える「さくさく講話」を隔月1回開催。7月の参議院選挙では、選挙権年齢が18歳以上に引き下げられたのを機に、高校生自ら選挙への関心を高めて、18歳、高校生の投票率を100%目指そうと、高校生で発足した「飯田下伊那100計画実行委員会」のミーティング会場となりました。地域内各校の生徒が放課後に集まり、学校の枠を超えて高校生がつながる場所になったのです。今も主に地元の高校生が放課後に集まり、桜咲造をきっかけに、新しい企画が生まれています。
まずは近所から愛される場所に。そしてゲストハウスへ
地元への就職を希望し、就職活動中の鎌倉さん。社会人となった後の桜咲造との関わり方をどうしていくかを模索しつつ、経営としてのコワーキングスペース利用を始めたり、ゆくゆくはゲストハウスにしたいと考えています。その過程で「まずは地域の人に利用してほしい。近所の人に向けたイベントを開催し、近所の人たちに認知してもらいたい。地域密着で近所のおばあちゃんが気軽にお茶を飲みに来てくれたり、常に人が集まる場所にしたい」と、ゲストハウスにしたいとの大きな目標も持ちつつ、しっかりと足元を見つめています。既に地区のお祭りに呼んでもらい参加したり、近所の人たちが何かと声を掛けてくれたり、桜咲造は鎌倉さんのキャラクターと共に、愛される存在となっています。
文:久保田 淳子
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