ローカルニッポン

新山小学校存続に向けた地域の取り組み/長野県伊那市
〜新山保育園再開への軌跡〜


長野県伊那市新山地区は、標高710~1025mにある人口681人の自然豊かな中山間地域です。地区内には小学校と保育園があり、子育てしやすい環境が整っています。しかし、平成21年から平成26年までの5年間、保育園は園児数減少の為、休園を余儀なくされ廃園寸前の危機に直面しました。小学校や保育園が地区から消えてしまうと、これまで学校を中心として築かれていた住民同士の繋がりがなくなり、地域の力が確実に低下していきます。今回は、地域の力でその危機を乗り越えた新山地区の取り組みをお話しします。

新山小学校と新山保育園

新山小学校と新山保育園

新山小学校と新山保育園

新山地区の中心に位置する新山小学校と新山保育園。子供達が集まるこの場所は「新山の灯」「新山の未来」です。新山地区は昭和22年より全戸PTAに加入し、会費だけでなく、PTA作業や新山大運動会、蕗文庫(蕗を売って図書購入する)など地域全体で子供を育てる気風があります。

新山小学校は小規模特認校に指定されていて、「特色ある教育環境をいかし、一人ひとりの個性を大事にし、明るく伸び伸びとした教育」を保護者が希望する場合、一定の条件をもとに校区を越えて市内どこからでも入学または転学する事が出来ます。平成29年度は37名の児童が通っていて、そのうち11名が特認校制度を利用しています。

新山保育園は伊那市の保育園の中で1番古い園舎です。冬はちょっと寒いですが、保護者で協力して寒さ対策の作業をしたり、雪かきをしたりして、園児が過ごしやすい環境づくりをしています。保育園の周りは自然がいっぱいです。土手滑りや雪遊び、虫捕りなど豊かな自然を活かした保育をしています。平成29年度は32名の園児が通っています。

新山小学校と新山保育園は隣に位置しているので交流も盛んに行われています。七夕コンサートやカレーパーティー、新山大運動会など様々な行事で連携しています。

七夕コンサート

七夕コンサート

子育て環境の危機

平成18年、保育園と小学校の児童数が今後減少し存続が危ぶまれる可能性が出てきました。保育園は入園率50%以下が5年続くと休園になってしまいます。保育園がなくなると小学校の児童数も減少し、いずれは廃校になる可能性が高くなります。

何もしなければ、小学校と保育園はなくなり、地域は衰退してしまいます。

新山小学校を考える会発足

平成18年9月 新山保育園児減少、それに伴う新山小学校児童数減少を危惧した当時の新山区長会が「新山に小学校を残してほしい、新山小学校の灯を消さないでほしい」 という住民の意を受けて〈仮称〉「新山小学校を考える会」をたちあげました。その後、小規模ならではの「どの子も育つ」新山の保育・教育の実践を推進し、それを内外に知らせることで児童数を確保することを目標に掲げて、正式に「新山の保育園・小学校を考える会」を発足しました。

アンケートの実施やワークショップを開催し意見を聞く事から始めました。存続を望む声が多かったが否定的な意見もありました。皆様の意見を踏まえて保育園・小学校存続のために活動を開始しました。

考える会定例会の様子

考える会定例会の様子

主な活動内容は…
新山人材バンク事業
・地域の人材に登録して頂き、各分野でサポーターとして園児、児童と一緒に活動する。
ひだまりクラブ
・お年寄りから囲碁を習ったり出来る場を作ったり、子育てママたちの交流の場をつくる。
園児を増やす努力
・新山保育園生活ニュースをつくり、新山保育園の良さをアピールする。

ひだまりクラブ

ひだまりクラブ

このような活動をしましたが、思うように園児は集まりませんでした。地域からは「保育園はしょうがない」の声が上がり、新山の保育園・小学校を考える会自体もあきらめムードになってしまいました。

ついに保育園が休園に!

努力虚しく、平成21年3月に新山保育園が休園となってしまいました。新山保育園児は他の保育園に転入しました。幸い転入した園児は全員同じ保育園でしたので新山小学校との交流も続けることは出来ました。同時に新山小学校は、小規模特認校(市内全域から入学出来る制度)に指定されました。小規模特認校になれば児童数を維持しやすい反面、これでダメなら廃校ですよと最後通告をされている事になります。

マイナスからのリスタート

「新山の保育園・小学校を考える会」は、それでも諦めませんでした。役員を交代して新たな出発をする事にし、これまで以上に活動に力を入れ、「考えるからやってみる」をスローガンに自分達でやれる事からやってみました。

ツリークライミング

ツリークライミング

通いたくなる学校を
・新山の森でツリークライミング
・そば打ちや書道、登山などを体験する新山っ子応援団結成
・新山にいるハッチョウトンボとウミガメの帰ってくる海の繋がりを知るウミガメ放流ツアー
伊那市内から来てもらおう
・新山小学校に通いたいが送迎が出来ない方の為に、送迎ボランティア発足
都会から来てもらおう
・転勤族などの短期滞在家庭をターゲットにチラシをつくりPR
保育園を地域で借り受ける
・祭やイベントや会議で利用。使う事で建物を維持して、再開に備える

子育て世代の心をつかめ

平成24年12月、考える会にて園児調査を実施しました。なんと再開出来る園児数まであと1人という結果でした。子育て世代を対象にイベントを企画して、お母さん達の本音を聞き出したり、家庭訪問してチラシを配布しました。時には嫌な顔をされた事もありましたが、子育て世代に確実に届けるにはこの方法が効果的だったと思います。

鹿肉ジャーキー講習会

鹿肉ジャーキー講習会

ドローンに手を振る園児達

ドローンに手を振る園児達

新山に園児が戻って来た

平成26年4月ついに新山保育園が24人の園児で5年ぶりに再開しました。地域の力で保育園を取り戻したのです。園児が少しでも過ごしやすいように、再開前には花壇整備や窓ガラスの飛散防止フィルムを貼るなどの整備をしました。

このように再開する事が出来たのは、地域や小学校の全面的な協力があり、子育て世代に新山の魅力を伝えることが出来たからだと思います。

ハロウィンパレード

ハロウィンパレード

「新山定住促進協議会」活動開始

平成26年10月、「新山の小学校・保育園を考える会」は解散しました。そして平成27年4月「新山定住促進協議会」が発足し、これまでの考える会の活動を引継ぎ、新山地区の住民がより安心して暮らせるような環境形成を目標に掲げ活動を開始しました。同じく平成27年4月に伊那市より「田舎暮らしモデル地域」に指定され、行政の支援を受けられるようになり、移住や子育てをしやすい環境をつくる活動がよりしやすくなりました。同年12月には、新山で子育てママの交流の場として「にいママクラブ」が発足し、移住して来たお母さんやお嫁に来たお母さんが孤立しないような活動やイベントなどを開催して、新山での楽しい子育て環境づくりを目指しています。

平成29年には国土交通省の地域づくり表彰「全国地域づくり推進協議会会長賞」を受賞しました。

平成33年には新山保育園舎の老朽化のため、新しい園舎が建てられる予定です。

考える会スタッフ一同

考える会スタッフ一同

新山小学校児童

新山小学校児童

文部科学省の調査で平成27年に廃校した小学校は368校です。人口減少の中、どの地域も存続を願っています。地域が存続していくためには、受け身でいるのではなく、住民が自ら行動する事が重要です。新山保育園は再開する事が出来ましたが、それを維持していくには地域住民の積極的な行動と住民同士のより強い繋がりが必要だと感じています。

文:金子孝治

TOP写真:自然豊かな伊那市新山地区