ローカルニッポン

大人のまち遊びでローカル課題をシェア!/Machitsuku10 @久留米

書き手:池田愛子
編集者・ライター・唐津ゲストハウス少女まんが館Saga館主
佐賀県唐津市出身。東京での出版社勤務を経てフリーランスに。2017年に唐津市にUターンし、翌年少女まんがをコンセプトにしたゲストハウスを開業。趣味は、まんがと食べ歩きとひとと話すこと。

「マチの知恵と知恵をくっつけよう」を合言葉に、10回目を迎えた“Machitsuku”(マチツク)。北部九州を中心に各地の“まちびと”たちが集い、ローカル課題突破の糸口をつかんだり、各地の最新の動きをシェアしあっています。今回の開催地は久留米。予測不可能のハプニングツーリズムでまちを遊びたおします。

なんだか面白そうだから来てみました

2月16日土曜日の正午、快晴とは言い難い、しかし雨にも遠い曇り空のもと、西鉄久留米駅のロータリーには、どういった集まりがよくわからない集団の姿がありました。丸くなって自己紹介をしあう様子から、初対面の人も多そうです。ひときわ目を引くオレンジのつなぎの男性は、愛知県豊田市から来たと言い、他にも山口県下関市や福岡県八女市、大分県の日田と竹田、佐賀、東京など、さまざまな地域から久留米に集まっていました。

「これから久留米ラーメンを食べにいきまーす!」
「マチツク10」「おかえりくるめ」の旗を持った古賀円さん(くるめ絣デザイナー)の説明から、まち歩きのイベントのようですが、よく見る「まちの歴史を知ろう」といったまち歩きとは様子が違います。

「これからなにがあるんですか?」との問いに、「面白そうなので来ちゃいました」と答えてくれたのは、コミュニティデザインを学ぶ下関から来た大学生。30人以上が集まり「なにか面白いことが始まりそう」な予感がしてきました。

まち歩きの説明をする久留米市役所の眞武さん。まち歩き、プレゼン、懇親会と1日がかりのツアー開始。

まち歩きの説明をする久留米市役所の眞武さん。まち歩き、プレゼン、懇親会と1日がかりのツアー開始。

ローカルが抱える課題は結局同じ

マチツクは、「親と子が共に育つ、出来事づくり」をコンセプトとしたまちびと会社visionAreal(ビジョナリアル)共同代表で、シェアオフィス「Mekuruto」やフリーコミュニティスペース「カタチの森」などの運営に関わり、久留米市で目の前の暮らしを豊かにするための活動を行っているおきなまさひとさんと、下関市と長門市を中心に、まちをリノベーションする建築士の木村大吾さんの呼びかけで始まりました。

もともと久留米では、Chietsuku,PJT(チエツクプロジェクト)なるものが立ち上がっており、30代から40代の久留米のまちづくりに関わる10名ほどが「お互いの知恵と知恵をくっつけよう」と始めたプロジェクトだそう。おきなさんもこのプロジェクトのメンバーで、「このまちで みんなで食っていくんです!」というコンセプトのもと、外部から「自分のまちで食っていけている」先輩たちや、自分たちが一緒に食べていきたいと思える仲間たちを呼び、勉強会も行っています。

下関の木村さんもその縁で久留米を訪れました。一緒にまち歩きをしながら話すのは、やっぱりそれぞれのまちのこと。そうして気づいたのは、場所は違っても、行政や企業との関係、地域資源の活かし方など、悩みや苦労している根元が同じだということでした。

おきなまさひとさん(左)と木村大吾さん(右)。マチツクvol.8 山鹿市にて。

おきなまさひとさん(左)と木村大吾さん(右)。マチツクvol.8 山鹿市にて。

木村大吾さん:
「下関には海がありますが、久留米にはありません。そういった資源は違うけれど、抱えている課題は似てるんですよ。マチツクは、おきなくんと僕との会話から始まりましたが、主催はその時々の開催地ですから、個性が出ますね。1泊2日が基本なんですが、1日目にまち歩きと各まちのプレゼン発表をして飲む、というのがだいたいの流れです。」

おきなまさひとさん:
「いままでの開催地は、第1回が下関で、次が久留米、3回目が別府、その後は大分の竹田、広島、佐賀の武雄、もう一度下関に戻って、熊本の北熊、福岡の柳川で、今回久留米での開催となりました。すべて主催する側が段取りをして、人を迎えるかたちです。

自分の軸足をしっかり持ったその土地のキーマンやコアパーソンたちの中でまちの使い方を徹底的に考え、変化させる人を「変人」と呼んでいます。さらに、自分の軸を超えて活動する人はサナギが蝶に変態するのになぞらえて「変態」と呼んだりもしますよ。(笑)

まちによってあり方は違います。でも、いつもやっている自分たちだけのやり方では面白くないので、こういった余白ばっかりのハプニングツーリズムを考えたんです。つまり、他の土地に行ったり、いろんな人に会ったりすることで自分たちのまちのことを問うのがマチツクなんです。」

まちの個性が見えてくるまち歩き

豚骨ラーメン発祥の地の久留米のラーメンはちょっと濃いめ。老舗のラーメン屋さんや最近人気の新店舗などでお腹を満たしたら、まち歩きのスタートです。

まずは車で二手に分かれ、「チーム女神」は日本最大級の救世慈母大観音を祀る久留米成田山へ。「チーム神」は、筑後の国一の宮である高良大社へ向かいました。

あまり観光のイメージのない久留米のまち。久留米ラーメンや久留米絣、今や世界的タイヤメーカーとなったブリヂストンが生まれたまちといった断片的なイメージしかありませんでしたが、「チーム女神」として訪れた久留米成田のダイナミックな造形には圧倒されました。

1958年に開山した久留米成田山。巨大な大観音像と大仏塔がそびえ立ちます。

1958年に開山した久留米成田山。巨大な大観音像と大仏塔がそびえ立ちます。

展示物を見たり、高さ62メートルもの大観音像の内部階段を息を切らせつつ登れば、少しずつ参加者同士も打ち解けてきます。ふたたび合流してから、本格的なまち歩きに入ります。ここで参加人数を数えると、なんと43人!

筑後川水系の池町川沿いを歩きつつ、まちの中心部へ。「この公園のステージの設計工事を担当したのが、そこにいる市役所の眞武さん」「このアーケードは木造で、もとは戦後の闇市から始まったんですよ」「ここが俺の行きつけの店」などなど、地元ならではのディープなまち案内が繰り広げられます。

空き店舗0だという日吉市場。昭和感をかもしつつ新旧の店が入り混じります。

空き店舗0だという日吉市場。昭和感をかもしつつ新旧の店が入り混じります。

実際にまちを歩くことで、みなが自然と自分たちが住むまちと比べ、話し始めます。 まち歩きの最後に、チエツクや久留米絣の問屋街での取り組みなどを伺いに、チエツクプロジェクトの代表であり、久留米絣と駄菓子を扱う西原糸店の西原健太さんのお店を訪ねました。

久留米絣と駄菓子という、一見何の関連もないふたつをつなぐことで、日常的に地元の人も訪れる場所にしていったという西原さん。

おきなさんたちの言う暮らしを軸足にした、無理のないまちでの活動として、“自分サイズ”でできることからの広がりや、「好きなことを好きな人と好きな場所でやっていく」という“まちびと”の活動の一端が西原さんのお話から垣間見えました。

寸劇あり、調印式ありのプレゼン発表

まち歩きを終えて、おきなさんらが運営するシェアオフィス「Mekuruto(メクルト)」へ場所を移し、いよいよ持ち時間10分のプレゼン発表が始まります。

「Mekuruto(メクルト)」は、おきなさんも席を置く久留米移住計画と福岡移住計画が共同で運営する“成長型シェアオフィス”です。2018年の1月に始まり、徐々に会員も増えているそう。それぞれがくつろげる「自分の部屋」のような空間が広がっています。

まずは地酒で乾杯。ここでようやく発起人の木村さんとおきなさんから前述のマチツクの概略が語られました。

おきなさんらが運営するシェアオフィス「Mekuruto」でのプレゼン発表。

おきなさんらが運営するシェアオフィス「Mekuruto」でのプレゼン発表。

その後、各地の変人たちによる10組のプレゼンが行われました。発表の最中、大分県竹田と久留米の間では、「勝手に姉妹都市協定」も結ばれ、調印された協定書を持参して、各市長には後日表敬訪問をするとのこと。ちなみにこの「勝手に姉妹都市協定」はこれからもさまざまな場所と結ばれる予定だそうです。

そうして2時間以上にわたるバラエティに富んだプレゼン大会を終え、お楽しみの懇親会へとなだれ込みました。

言葉にできない“ワクワク”を胸に自分のまちへ

実はこちらが本番とも言われる懇親会の様子。1日の締めにひたすら熱く語り合います。

実はこちらが本番とも言われる懇親会の様子。1日の締めにひたすら熱く語り合います。

本家マチツクの11回目には、懇親会にて大分県の豊後大野市が名乗りを上げましたが(開催日は後日決定)、さらに3月下旬には、愛知県豊田市で中京エリア初の「Machitsuku Chubu01」の開催が決定しました。
「マチの知恵と知恵をくっつける」動きが全国へ広がろうとしています。

おきなさんは言います。

「最近、地域におけるさまざまな取り組みが「まちづくり」や「活性化」など言語化することで本質が失われて消費されていっているような気がします。自分の好きなまちと暮らしがどうしたら豊かになるか、を活動指針としながら、時には行政や企業と手を組みながら、自分たちが全てをやろうとしないことも大切です。そういったシェアリングの理念が息づいているのがこの「マチツク」プロジェクトです。」

自分たちがひたすら楽しみながら、真剣に自分たちの住むまちのことを考え、悩み、行動していく本気の姿を見せることは、地域の未来への大きな布石になるはずです。そして、さまざまな壁に当たりながらも、悩み、笑い飛ばしながら進むこんなに素敵な人たちがいる。そのことに勇気付けられました。

さあ、“わたし”は“わたしのまち”で、なにをしましょうか。

文・池田愛子/写真・©2019.FR0WPhotos

リンク:
まちびと会社visionAreal(ビジョナリアル)
Chietsuku,PJT(チエツクプロジェクト)