ローカルニッポン

役目を終えたブルーシートをバッグに・「BRIDGE OKAYAMA」

書き手:野鶴美和
岡山県和気郡佐伯町(現・和気町)出身、倉敷市在住のフリーライター。自動車メディアでも執筆、モノを長く大切に使うという観点で「旧車」を中心とした記事を発信している。
吹奏楽、文房具、人に愛されているクルマが好き。

2018年7月に中四国を襲った西日本豪雨災害から、約1年が経過しました。再建が進む一方で、いまも多くの被災者が仮設住宅での生活を余儀なくされています。

被災地の岡山県では、復興作業で使われたブルーシートで作ったバッグとコサージュの販売収益を、豪雨被災地へ寄付する取り組みが始まっています。行うのは県内企業の有志団体「BRIDGE OKAYAMA」。活動名は「復興の種(シード)」との願いをこめて「ブルーシード大作戦」と名付けられています。この活動はどんな思いで始められ、どのように地域と連携しているのでしょうか。

5企業を中心に組織される「BRIDGE OKAYAMA」

5企業を中心に組織される「BRIDGE OKAYAMA」

「BRIDGE KUMAMOTO」に感銘を受けて設立

「BRIDGE OKAYAMA」の設立は2019年2月。福祉施設を経営する「社会福祉法人雪舟福祉会」が企画と広報窓口を担当し、国内でブルーシートのシェアナンバーワンを誇る「萩原工業」がブルーシートの提供を担当。そして老舗帆布メーカー「バイストン」が、バッグの製造を担当しています。
「BRIDGE OKAYAMA」設立当初の思いを、雪舟福祉会事務長の守安伸聡さんは、こう振り返ります。

「豪雨災害時、私たちは地域の社会福祉法人として、被災した地元の方を受け入れていました。しかし、被災地全体の復旧が落ち着いてきても、岡山の被災地はブルーシートで覆われ、まだまだ復興支援が必要な状態でした。地元のために何かできないか考えていたとき、友人を通して2016年に起きた熊本地震の復興支援を行うクリエーター集団『BRIDGE KUMAMOTO』の活動を知り、感銘を受けました。さっそく関係者に協力を得て、復興作業で使われたブルーシートを再利用する活動を開始したのです。地元のみなさまや高校、大学などとの連携を深めていくなかで、多数の企業団体や行政からご協力を賜り、イベントやワークショップの依頼も、本当にたくさんいただきました」

コサージュとピンバッジ、バッグは1点モノの風合いが魅力。帆布面とリバーシブルで使える

コサージュとピンバッジ、バッグは1点モノの風合いが魅力。帆布面とリバーシブルで使える

今年6月には、総社市内の高校生が企画したコサージュづくりを実施。高校生たちによって作られたコサージュは、7月6日に行われる「西日本豪雨一周年式典」へ出席する招待者全員が、胸につけることになっています。地域と連携しながら活動がひろがりを見せるなかで、設立当初から変化した点と、今後の活動継続において大切にしていきたいことを、守安さんに尋ねました。

「今回の事業自体は令和元年度で終了する予定ですが、バッグやコサージュを手にとり、使い続けることが被災地への関心の風化を防ぐとともに、防災意識の向上につながると考えています。また、寄付による復興支援と、地元企業として地元住民との交流は継続し、地域貢献から地域づくりまで、今後も深く関わって行きたいと考えています」

浸水被害と水害の影響による工場爆発の復興作業で、大量のブルーシートが使われた

浸水被害と水害の影響による工場爆発の復興作業で、大量のブルーシートが使われた

「年齢問わず被災地復興に関われる」とPR

2019年4月。「BRIDGE OKAYAMA」の活動第一歩として、倉敷市内にあるショッピング施設のアリオ倉敷でPRイベントが開かれました。会場ではバッグを展示したほか、買い物客にブルーシートを使ったコサージュとピンバッジを作るワークショップを体験してもらいながら、5月と6月に開催される「ブルーシート洗浄会」の予定が告知されました。災害について考えを深め、役目の終わったものを再利用する大切さを、参加者の多くが感じられた1日となりました。

当日は、開始直後から多くの親子連れでにぎわいました。コサージュづくりを楽しむ子どもたちは「これは捨てるものなの?」「なんで?」と、スタッフや保護者に質問を投げかける様子が印象的でした。

保護者からは「自分たちのできることで復興に貢献できるなら、ぜひ参加したい」「熊本での取り組みから知っていたので、岡山での接点を心待ちにしていました」などの声が聞かれました。

6月の様子、ともに作業することで地域の親睦も深められる1 6月の様子、ともに作業することで地域の親睦も深められる2

6月の様子、ともに作業することで地域の親睦も深められる

そして、地域と一緒に参加する活動として「ブルーシート洗浄会」があります。ブルーシートを洗浄・裁断し、バッグとコサージュの生地にするイベントです。

当日は地元のみなさんをはじめ、県内外から学生を含む約80名のボランティアが参加し、約半日かけて作業を行いました。大勢で取りかかったおかげで、この日の目標数であった400枚を達成したそうです。

実際に作業をしてみると、回収したブルーシートがバッグの生地になるまでに、かなりの手間を要することがわかります。回収したブルーシートは、バッグとコサージュに適したサイズに裁断されて洗浄にかけられますが、泥や埃などの汚れが繊維の間に入りこんでしまうと、完全に落ちません。乾燥すると繊維の間に残った汚れが浮いてきてしまうため、3度もの洗浄をかけて落としきります。この作業は洗浄と同時に、デニムのような色落ち効果や、風合いを際立たせる効果も兼ねています。

生地に個体差が生まれる

生地に個体差が生まれる

同じブルーシートでも色や風合いが異なっていて、個体差があることに気づきます。なかにはナンバーが書かれたものもあり、被災地で使われていたことを強く意識させられました。

被災の記憶を風化させることなく、活動継続を

今回、ボランティアとして参加したみなさんに話を聞いてみると、

「以前にBRIDGE KUMAMOTOに参加して、岡山でもすると聞いたので参加しました。楽しかったです。私は地元の広島でも団体に所属して活動していて、1年経っても活動のニーズはありますが、正直記憶の風化を感じています。売り上げが支援金になることはすばらしいですし、防災意識が向上すれば良いと思います」という声や

「作業は大変でしたが、大量のブルーシートが捨てられず、誰かに届けられることに関われてうれしかったですし、色んな人と話せて楽しかったです」等さまざまな感想がよせられました。

そしてこの日、東京から参加していた『BRIDGE KUMAMOTO』の酒井康宇さんは、こう語っていました。

「期間限定ではありますが被災地への関心、水害の記憶を風化させないためのひとつのツールとして、地元の方の努力でイベントが成功し、これからも継続してできたらと思っています」

バッグとコサージュを使い続けていく本人はもちろん、それを目にする人まで防災意識が高まり、他人事にしない活動「ブルーシード大作戦」。活動を通して自然と、地域のつながりも深まります。岡山に芽生えた「復興の種」の成長に、今後も注目です。

文 野鶴美和 写真 BRIDGE OKAYAMA

〈アイテム情報〉
コサージュ(大)(小):500円
ピンバッジ:200円
バッグ:3000円

リンク:
社会福祉法人 雪舟福祉会 facebook
BRIDGE OKAYAMA twitter
BRIDGE OKAYAMA instagram