ローカルニッポン

ものづくりとひとづくりが息づく、富士山の街。

書き手:赤松智志
千葉県柏市出身。学生時代に富士吉田市の地域活性プロジェクトに参加したことを機に、地域おこし協力隊として同市に移住。
空き家利活用プロジェクトや宿泊施設の立ち上げを経て、現在は一財)ふじよしだ定住促進センターでまちづくり事業を展開。
個人事業として、行政と連携したイベントの企画運営等も行っている。

富士山の北麓斜面にはりつくように広がる山梨県富士吉田市は、1000年以上続く織物産地です。ここ数年は、代替わりや産地に移住してくる新たな世代によって、産地全体のイメージが変わり始めています。さらに、織物分野以外でも若者によるまちづくりが活発化してきています。新陳代謝しながらめぐる、富士吉田市。その中で人が育ち、街が変化してきている様子をご紹介していきます。

若者がその気になれる街

富士山に見守られながら、この地域ならではの営みが暮らしとなり産業となった富士吉田市。富士山のように大らかな人々にいざなわれ、特にここ数年は若者たちが移住し、地域の元気な方々と共に魅力的な活動が進んできました。

これまでも多様なまちづくりが行われてきましたが、特にここ10年の中で欠かすことができないのが大学との連携です。全国的にも域学連携と称して自治体と大学または学生とが協働して色々な研究・実践が行われています。そして、富士吉田市の場合は、慶応義塾大学(まちづくり)や東京造形大学(テキスタイル)、東京理科大学(建築)との連携が特に盛んで、多くの学生が学びの場として同市に足を運んでいます。

テーマの1つであった「富士山信仰を活かした観光施策づくり」の舞台となった街並み

テーマの1つであった「富士山信仰を活かした観光施策づくり」の舞台となった街並み

まず、2007年に慶應義塾大学と山梨県、富士吉田市の三者間で連携協定が締結され、2011年からは4つの専門分野に分かれて学生が主体となり市内をフィールドに研究・実践活動が行われてきました。そうして、活動が具体化すると、主体的に事業を運営する「一財)富士吉田みんなの貯金箱財団」という財団法人が富士吉田市と慶應義塾大学の共同で設立されるに至ります。

さらにその後、この団体の運営に関わる大学側のメンバーが移住したことや、プロジェクトに参加していた学生が卒業後も市の事業に関わるための受け皿として、地域おこし協力隊制度が導入されたこともとても大きな意味をもたらしました。これまでに3名の学生が卒業後に富士吉田市に協力隊として移住しています。

*一財)富士吉田みんなの貯金箱財団は、2018年に名称変更し一財)ふじよしだ定住促進センターとなっています。

コラボ10周年を記念した展示会の様子

コラボ10周年を記念した展示会の様子

2009年からは、東京造形大学テキスタイルデザイン学科と山梨ハタオリ産地(富士吉田市/西桂町)が産学官コラボレーション事業「富士山テキスタイルプロジェクト」を進めています。

これは、地場産業を未来に残していくために、世代交代した後継者たちが学生たちと共に学ぶことを目的としたプロジェクト。毎年、10数名の学生と地域の織物会社がタッグを組むことで、独創的なアイデアと高い技術力が掛け合わさり新たなプロダクトが生まれています。これらの中には商品化されてオリジナルブランドとして独立しているものも多くあります。

前述の慶應義塾大学の場合と同様に、学生たちがタッグを組んだ織物会社にそのまま就職し、産地に移住するというケースが増えてきているのは面白い流れといえるかもしれません。

最後に東京理科大学との建築を介した連携について。
前述の一財)富士吉田みんなの貯金箱財団が2015年に企画した「富士吉田地域デザインコンペ」は、富士吉田市の資源をデザインの力でリブランディングした提案を募集するというもの。

物件改装部門、プロダクト部門、プロジェクト部門の3つの部門でアイデアを募り、最終的な応募総数は国内外から307件にものぼりました。その内、物件改装部門約120件の応募の中から最優秀賞を獲得したのが東京理科大学の坂牛研究室の学生チームでした。竣工までの期間、地域との関係はより一層深まっていき、その当時リーダーを務めていた学生もまたその後地域おこし協力隊として移住しています。そして、まちと大学の共同研究事業の橋渡し役としてだけではなく、市内のリノベーションプロジェクトを学生と一緒に手掛けるなど、年々そのつながりは広がりを見せています。

ここまで、富士吉田市がいかにして若者たちとの接点を築いてきたのか、そのきっかけを簡単にご紹介してきました。ここからは、ひょんなことから関係が生まれ、移住した若者たちが中心となって動いているプロジェクトをお伝えします。

元製氷工場を出会いと創造の場へ

元製氷工場のエントランススペース

元製氷工場のエントランススペース

慶應義塾大学の連携から始まったふじよしだ定住促進センターが2014年から事務所を構える元製氷工場があります。約20年前まで氷屋としての営業を続けていましたが、その後廃業し空き倉庫として残されていました。空き家利活用の中でも最大規模のこの物件をおよそ4年かけて、少しずつリノベーションを重ねてきました。

この建物のはじまりは、「富士吉田地域デザインコンペ」を通じた東京理科大学との連携です。物件改装部門の対象物件となっていたのが、この元製氷工場の一部である3階建ての建物であり、現在の定住促進センターの事務所なのです。

そして昨年度、製氷工場の大きな氷室(倉庫)スペースと元住居棟のリノベーションが決まり、設計は必然的に共同研究事業を進める東京理科大学の坂牛研究室に依頼することとなりました。2018年末から設計に関する打ち合わせがはじまり、約6ヶ月で竣工までこぎつけたのです。天井高約5mにもなる大きな氷室は全4部屋あり、その気密性の高さから美術館のような独特な雰囲気を持っています。そういった個性を活かせるようにと、用途はギャラリーをはじめ、スタジオやアトリエなど、創造的な場となりました。

約5mの天井とスノコ板が貼られた印象的な氷室空間/内覧会には多くの人が集まった

約5mの天井とスノコ板が貼られた印象的な氷室空間/内覧会には多くの人が集まった

今後は、イベントや体験を通して様々な刺激や発見に触れられる広く地域に開いた場として、また、引き続き若い世代が多くの学びとチャンスが得られるようなはじまりの場所を目指しています。施設の名称は「FUJIHIMURO」。「いつかどこかで、泉になる」というコンセプトの元、この場所での“出会い”がいつかかけがえのないものになるように、まずは多くの人の日常に寄り添った場所に育てていきます。

先月7月20日、21日の2日間、FUJIHIMUROの内覧会が開催され、県内外から200名近い方々が来場。元製氷工場という空間的な魅力と今後の運用への期待から、早速「こういう企画やりたいね!」「こういう人紹介するよ!」など多くの声が上がり、改めて関わる人によってその様相を変えるような、懐の深い場所になりえると感じています。

産地のイメージを変えたハタオリマチのイベント

ハタフェスのメイン会場となっている神社

ハタフェスのメイン会場となっている神社

地域の日常に根差した場づくりの一方で、このまちをより多くの人に知ってもらう取り組みも始まっています。東京造形大学とのコラボレーションをきっかけに各織物会社がオリジナルブランドを持つようになり、産地としての知名度が少しずつ上がってきました。そんな中、実際に産地に足を運んでもらえるイベントとして、「ハタフェス」がスタート。

2016年から富士吉田市が主催となってはじまった秋のお祭りが、ハタオリマチフェスティバル(ハタフェス)です。織物工場を見学したり、ハタオリが根付いた街並みを歩いたり、たくさんの出店が並ぶマーケットを眺めたりと、まさにハタオリマチを体感できるイベントです。

今年で4回目を迎えるハタフェスは、10月第1週の2日間開催でおよそ1万人が県内外から訪れます。富士吉田市を代表するイベントになったハタフェスの企画運営も、行政と協働で民間の若者が中心となって担っています。主役となる各織物会社にも、代替わりした若手の代表がいたり、移住してきたデザイナーがいたりと、その連携は取って付けたものではなく、確かにこれまでの取り組みの積み重ねの賜物と言えるでしょう。

ハタフェスで子ども向けのワークショップを行う移住組のテキスタイルデザイナーの女性

ハタフェスで子ども向けのワークショップを行う移住組のテキスタイルデザイナーの女性

今年は、10月12日(土)、13日(日)にハタフェスの開催が決定しています。例年通り、山梨ハタオリ産地や全国各地から集まった生地製品や古道具のマーケットをはじめ、おいしい飲食出店や音楽会、ワークショップ、まち歩きなど、住んでる人も外から訪れる人も楽しめるお祭りになります。

そして、今年は8月17日(土)に「ハタオリマチフェスティバルのSUMMER PARTY」と題してプレイベントを開催することとなりました。日中は、屋外会場にて個性豊かな出店者が揃う、ハタフェスマーケット。夜は屋内会場に移動して、様々なイベントで人気を博す「Irish Music Party」が行われます。演奏者を中心に参加者が周りを囲み、アイルランドのパブを彷彿させるような音楽と雰囲気を演出します。夏の暑い夜、ビールを片手にみんなで楽しく踊って、心地よいアイルランドミュージックに耳を傾けてみてはいかがでしょうか。

さらに、富士吉田市では毎月第3土曜日は各織物会社が工場とそれぞれのショップを開けるオープンファクトリーを開催している日。8月17日(土)も開催されるのでぜひ合わせてお出かけしてみてください。

モノとコトの上にヒトがいる

ここまで、大学連携を中心としたプロジェクトやイベントについてお伝えしてきました。ここ数年の濃密な富士吉田市の動きにはまだまだ面白い一面があります。そして、間違いなく言えることとしては、富士吉田市のモノやコトの上には必ずヒトがいること。つまり、「あの人のため」と言えることが多いのです。まちづくり、ものづくりの隣にはいつも「ひとづくり」があることを、この街の人たちは知っているのです。

文・赤松智志
写真:ふじよしだ定住促進センター / ハタオリマチフェスティバル実行委員会 / ハタオリマチのハタ印  

リンク:
ハタオリマチフェスティバルのSUMMER PARTY
オープンファクトリー
FUJIHIMURO