ローカルニッポン

カフェから広がる学生の挑戦~好きなことで日向の魅力を表現する~

書き手:五十嵐洸太
山形県出身。東北公益文科大学4年。
大学2年次に大学のプログラムで日向地区に関わり始める。
Praxisのメンバーとして、地域の魅力発信のために雑誌や写真集を企画している。

「カフェをつくりたい!」
ある学生がニュージーランドでの留学中に、現地で出会った時間を忘れるほどゆったりとしたカフェの雰囲気やコーヒーの魅力に惹かれ、それをきっかけに抱いた夢からこのプロジェクトが誕生します。

2018年山形県酒田市八幡の日向(にっこう)地区でカフェオープンに至るまでの道のりを、このプロジェクトの中心人物である東北公益文科大学4年の加藤雄大さんと改めてふりかえってみました。

学生の挑戦と地域の寛大さが融合

留学後、大学生活に疑問を持ち始めた加藤さん。「単位や資格のために通っている自分は、将来何ができるのだろう」。その問いと向き合う中で、公益を実践している社会起業家に憧れを抱くようになったといいます。その想いとカフェ開業の夢を織り交ぜた活動に地域滞在型の大学プログラムの中で挑戦していきました。その名も「場づくりプロジェクト」です。

このプロジェクトでは、〈地域の文化伝承・自然資源の利活用・関係人口の創出〉を軸にした活動を実践し、カフェはそのうちの〈関係人口の創出〉を目的に地域の人と観光客が集まれる場を生み出すことを目指しています。

やりたいことや活動目的は明確にありましたが、重要なカフェの場所はまだ決まっていませんでした。そんな時、フィールドワーク中の滞在先であり、地域で蕎麦屋を営んでいる小松幸雄さんが加藤さんの話を耳にし、「うちの2階、空いてるから使っていいぞ」という言葉をかけてくれたそうです。幸雄さんがこのプロジェクトに興味を持ってくれたことで、快く挑戦の場を与えてくれたのです。そんなことで急速的に話が進んでいき、カフェをオープンすることが出来ました。

学生は地域の寛大さを感じて、地域の人は学生の夢にほんの少し期待を寄せたことで、この活動に地域づくりの可能性が芽生え始めました。

当時の想いを語る東北公益文科大学4年加藤さん

当時の想いを語る東北公益文科大学4年加藤さん

加藤:
「やりたいことができるワクワク感と、地域の人も手伝ってくれる環境もあり、ここにいた時間が、自分に自信を持たせてくれました。自分の想いを地域の人、幸雄さんが受け入れてくれたおかげで活動が出来たと思います」

仲間を巻き込んで繋がる活動

プロジェクトを始めるにあたり、仲間を探していた加藤さん。そこで、前年度彼と同じプログラムで日向に関わり、何度も地域のイベントに参加していた学生3人と偶然居合わせた1人に声を掛けます。加藤さんの想いを聞いた4人が次第に同じ夢を抱き始め、場づくりプロジェクトを通して、それぞれ好きなことで地域づくりにアプローチしていく学生活動団体「Praxis(プラクシス)」が出来ていきました。

この団体はカフェの運営を中心に、動画や雑誌、写真集を制作して地域のPRをしたり、地域の人の似顔絵を描いたり、メンバーそれぞれが好きなことを実践しています。それが小さなアクションだとしても、地域にとって希望となるように「今、自分にできること」で地域づくりにアプローチしています。そしてこの活動は、一人ひとりが“何か”に挑戦して自分の可能性を感じるきっかけづくりにもなっています。

地域のPRのため、湧き水のCM撮影をするメンバー

地域のPRのため、湧き水のCM撮影をするメンバー

当初、団体をつくる意識は全くなかったという加藤さん。仲間を巻き込んだ当時の想いを聞きました。

加藤:
「自分のやりたいことに巻き込まれた仲間がいて、それがいつの間にか団体になっている感覚です。
今は皆を巻き込んで良かったと思います。『この人、これやっている時楽しそうだな』、『この人はこういうことやりたいのかな』などと思った時、仲間でやっていることの意味を感じました。
地域のために何かしたいっていう気持ちは皆がもっています。この活動をしていて、他に自分のやりたいことが見つかればそれでもいいと思います。活動をしていて一瞬でも楽しいなって思えたなら、それが地域のためになることだと思います。これは仲間ができて気づいたことです」

幸せのヒントはホットコーヒーとホットな空間から

様々な活動の中で、お客さんとの出会いが素敵な時間だといつも感じます。コーヒーを提供してお話するその時間が悠々としていて、なんだかあったかい空間に包まれているからかもしれません。こうしたお客さんとの関係性が自然と出来上がる空間はこのプロジェクトならではだと感じます。

また、地域に関わっている学生自身が関係人口になっており、地域間を繋ぎ、外に発信する媒介者になっています。学生をきっかけに地域を知ってもらうことで、関係人口創出に繋がると信じて活動しています。

子ども達とカレー作りや星空観賞をする「星空キャンプ」

子ども達とカレー作りや星空観賞をする「星空キャンプ」

実践して考える

さて、地域の人はどのように感じているのでしょう。そこで、カフェの場所を与えてくれた小松幸雄さんに改めてインタビューを企てました。
しかしインタビューをお願いした時、「話すことなんて何もないよ」と断られてしまいました。すると幸雄さんは続けて、

幸雄:
「俺の理念は一つだけ。場所を提供して、皆とお客さんの交流の場になればそれでいいの。だからインタビューも何も、その考え、その役目しかないんだから。
後は自分で考えれ」

「自分で考えれ」
活動中に幸雄さんから何度も言われた言葉です。「人に頼ってばかりではいけない。自分で挑戦してみろ」という意味が込められたこの言葉から、自分の可能性を信じることを教わりました。その後、初めて活動に参加した学生を見て、「ほら、また新しい子来た!こういうことだよ」と、嬉しそうにこちらを見ました。
「頭で考えるよりも、まずはやってみること」。幸雄さんのこの理念は、実践を通して学ぶPraxisの在り方に深く通じています。

お客さんと学生の会話を眺める幸雄さん「学生の声が聞こえるだけで安心する」

お客さんと学生の会話を眺める幸雄さん「学生の声が聞こえるだけで安心する」

今、自分に出来ること

現在は仲間も活動内容も増え、この団体が徐々に地域以外にも認知されてきています。 しかし、それに伴い新たな課題も出てきました。

加藤:
「一番避けたいのは、形骸化されたメンバーで続けていくことです。それぞれ自分のやりたいことがなければ、意味がないと思います。
勿論、カフェの運営が好きで参加してくれている子もいます。だからその子たちには、今自分が出来ることを教えていきたいです」

現在、加藤さんは後輩にコーヒー焙煎講座を開いています。ただプロジェクトのためだけにコーヒーを淹れるのでは、彼の言う形骸化された活動になってしまいます。
「今、自分に出来ること」として、先輩から後輩へ自分の好きなことを伝えていく。続けていくうえで、これも一つの小さなアクションかもしれません。

後輩にコーヒーの焙煎と奥深さを教える

後輩にコーヒーの焙煎と奥深さを教える

私たちはカフェの店員でも、地域課題解決に取り組む研究者でもありません。ただこの地域、この活動が好きな学生です。地域の人との会話、四季折々の景色、美味しい料理。そんな地域のありのままな姿を、自分の素朴な感性でもって活動に取り組んでいます。その中で仲間それぞれの歩幅の違いを知り、お互い補い合って学んでいます。
大きな一歩より確かな一歩。地域の幸せを願い、自分の成長を信じ、これからも少しだけ地域に面倒をかけます。

文:五十嵐洸太
写真:佐藤萌
山形県出身。この活動や地域のイベントの様子を、趣味のカメラでいつも記録してくれているPraxisのメンバー。雑誌や写真集制作にも参加している。

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