ローカルニッポン

被災地奥尻で紡ぐ未来の可能性 ~島の緑・守られる自然の与える豊かさ篇~

書き手:北海道奧尻高等学校OID 生徒のみなさん
北海道南西沖にある奥尻島の高校生たち。2018年に「部活動を支援する部活」として、オクシリイノベーション事業部(Okushiri Innovation Division)、通称『OID』が誕生しました。活動の中で芽生えた「奥尻高校だけではなく、奥尻島の秘めたる魅力を様々な人に知って欲しい。」という想いから、奧尻島の紹介も記事としてお届けしています。

奥尻島はかつて「宝の島」と呼ばれ、現在でも豊かな自然に囲まれ、海、山から沢山の恵みを与えられています。奥尻島と言えば海と答える方が多いですが、その海を豊かにしているのは島に自生する木々です。今回は奥尻島の森林、自然資源についてその魅力と、人との繋がりに迫っていきます。

奥尻とブナ

奥尻島は島の面積の約8割が森林です。そして、その内の約6割が国有林となっています。多くの種類の木々が生い茂っていますが、奥尻の木と言えばブナが代表に挙げられます。ブナは森の植物や動物だけでなく、人間にとっても大切な役割を果たしています。

「山の王様」とも「森の女王」とも称されるブナの役割の1つが、土砂崩れの防止です。葉は寒くなり地面に落ちて土に混ざり腐葉土になりますが、その腐葉土は他の木の葉に比べてはるかに保水力が高いのです。また、幹の太さが約130cmにもなるブナは、120人の人間が使う酸素を供給しているとも言われています。

しかし、日本全国を見ると、ブナの森が見られる場所は少なくなってきています。なぜ減少しているのか、それは、ブナは加工が難しく商品として売るにはあまり効率が良くないからです。戦後、国の復興のために木材の需要が急増した日本では、スギやヒノキ、カラマツ、アカマツなど比較的成長が早く、経済的にも利用価値の高い木々を多く使用した人工林を作ってきました。

このような経緯があるにも関わらず、奧尻島には現在もブナ林が多く残っています。それは、かつて島にあった硫黄鉱山において、硫黄を精錬するための燃料として多くのブナを生育、管理していたためです。その時、伐採されなかった若い木々が生い茂り、今は豊かな水資源を作り守っているのです。

さらに、海水が蒸発して雲になり雨が降ると、その水が山に、森に浸み込み、ブナの木や土によって浄水され、川や小さな水流としてまた海に戻っていきます。多くの生物が繁栄する美しい海がある奧尻にとって、ブナの木や山などの森林資源を守ることはとても重要な意味を持つのです。そして、漁業を生業とする人が多い奧尻島にとって、森を守ることは人々の生活を守ることにもつながっています。

ブナの木漏れ日

ブナの木漏れ日

ボランティアログハウス

そんな奧尻ですが、1993年に発生した南西沖地震による被害で、海も山も昔の美しさは一度失われてしまいました。海は津波によりかき乱され、森林は土砂崩れにより被害を受けました。荒廃した森林を見て、当時の株式会社工藤組社長の工藤実さんは、「島の復興と水産資源の回復には森林の育成が大切だ」と実感し、同時に子どもたちに山で遊ぶことの楽しさや山の大切さを伝えたい、そう考えたそうです。そこで、自然を取り戻しながら、自然の中で体験学習ができる場や憩いの場を作りたいという想いから、「奧尻21世紀復興の森」が作られました。

夏の「奧尻21世紀復興の森」

夏の「奧尻21世紀復興の森」

復興の森は、奥尻町市街から西側の神威脇へ続く道の途中にあります。その森の中には、マザーツリーと呼ばれる大樹、ログハウス、炭焼き小屋、きのこ園があります。この森のほかに、森林研究の交流の場としても利用することのできる福利厚生施設の「風地庵」などがあります。森の中はブナが繁茂しており、ブナの腐葉土のおかげでふかふかとしていて踏み心地の良い道が続いています。また、天気の良い日には、澄んだ空気とブナ林の隙間からの木漏れ日が訪れた人を癒してくれます。夏には緑があふれ、青い空と美しい色のハーモニーを見せてくれます。また、秋には素晴らしい紅葉を見ることができる、奧尻島の中でも魅力の多い場所となっています。

秋の「奧尻21世紀復興の森」

秋の「奧尻21世紀復興の森」

この復興の森にあるログハウスについては、完成にあたり不思議な縁があるそうです。復興の森を開設した1995年の10月頃、前述の工藤実さんの元にひょっこりとお客さんが来ました。彼らは北海道大学農学部の学生たちで、工藤さんの家に泊まり込み、島の人たちと協力しながら一冬かけてログハウスを組み立てたそうです。中心となって活動をしていた男子学生は「奥尻産の杉を最大限に生かして作りたい」と意気込み、島の道南スギ約120本の皮むきから切り込みまで、手作業で組み立てて作ったそうです。すべて大学生がボランティアで立てたログハウスなのです。現在では、訪れた人の心を癒やしてくれる休憩所とその落ち着く雰囲気からツアーなどで多く利用されています。

他にも魅力的な場所として、風地庵があります。ここは、森林学習などで多く利用されています。風地庵の「風」は旅人や転勤族として島にやってくる人たち、「地」は大地や地元の人という意味を持っており、両者が交流する拠点にしたいという想いから名付けられました。風の人、土の人とよく聞きますが、両者が交流して意見を交える場所があることは、双方にとってとても良い環境だと感じます。両者が関わっていくことで、風土が作られ奧尻島のこれからの歴史を作り続けていくのです。

マザーツリーを抱きしめる人たち

マザーツリーを抱きしめる人たち

木から学ぶ再生可能エネルギー

また、風地庵は森林について学習できる場所でもあり、多くのイベントを行っています。これまでに、様々な人が集まり森を舞台に語り合い、自然に対する想いを深めてきました。特に、奥尻島では、「木とふれあい、木に学び、木と生きる」を基本とする木育や、健康づくりを目的とした取り組みを行っています。現在、その学びの中心にいるのは、島に住む小学生たちです。地元の小学生たちは復興の森で行われる木育の授業を通して、森の豊かさや大切さを学んでいます。

さらに、小学校では木質チップボイラーを導入し、これまで未活用となっていた木質バイオマスの有効活用を始めています。木質バイオマスは、木材に由来する再生可能エネルギーの1つです。化学燃料とは違い、大気中の二酸化炭素濃度に影響を与えないカーボンニュートラルという特徴を持っています。

奥尻小学校にある木質チップサイロ

奥尻小学校にある木質チップサイロ

また、森林は手入れを怠ると荒廃が進んでしまいます。木質バイオマスという木材活用方法は、余ってしまう木材を減らすことはもちろん、森林荒廃の阻止にもつながっています。さらには、木質バイオマスが身近な小学生たちは再生可能エネルギーへの興味関心を高めています。こうした若い世代の関心が林業などの森林資源に向いていることは貴重だと感じます。

実は、私たち高校生も奥尻の環境や第一次産業について学ぶ機会があり、奥尻の第一次産業における人手不足など深刻な課題に触れました。奥尻高校には、地方創生について考えを深める取り組みとして、「町おこしワークショップ」があります。この取り組みでは、地域の各分野の専門家を招き、専門家の方々と一緒に課題について話し合い、企画を作っていきます。課題には自然はもちろん、防災や観光、農業、漁業など、奥尻島を取り巻く幅広いテーマを扱います。今年度は、企画した内容を実際に島の方々と協力し、行動に移していくグループも出てきました。

美しい景色を見せる奥尻の自然は、課題を抱えながら新しい道に進んでいます。現在、世界的にも注目されている再生可能エネルギーや、森林資源の有効活用と維持については、これから若い世代が担い手として力になっていくのではないでしょうか。

奧尻島は青く透き通る海が有名ではありますが、その海の美しさを支えているのは、今回紹介したブナの木をはじめとする山や森です。そしてこれら自然の中にも、奧尻島の人たちの想いや人の繋がりを感じることができます。ここまで守られ続けてきた歴史を感じながら、この奧尻島の自然に囲まれゆっくりと過ごして欲しいと思います。

これからも奥尻の秘めたる魅力やこの地をより楽しむためのコツ、穴場スポットを発信していきます。是非次の記事で、そして奥尻島でお会いしましょう。

文・写真:北海道奥尻高等学校 オクシリイノベーション事業部(OID)
写真協力:奥尻町観光協会

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