“捨てる端材”を“良質な商品”へ 小さい木製品に込める希望
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徳島県在住。ライター。英語の通訳として日本の企業をはじめ、海外のデザイナーやメーカーをサポートする。全国通訳案内士などの通訳ガイドの資格も保有。数年前に一度結願した四国八十八カ所巡礼を、今年は逆打ちお遍路中。
木製品の代表例として挙げられるものの1つが家具。製作に関わる技術が向上し、良質でデザイン性の高いシェルフやテーブル、チェアなどが多く生み出されています。そんな木製家具を製造する会社が多く、木工が地場産業となっているのが四国・徳島。その製造現場で職人として働き、今は独立して木工所を営む小石宗右(そうすけ)さんの挑戦をご紹介します。
徳島にJターンし木工文化と生きる
小石さんは兵庫県の淡路島出身。妻の地元でもある徳島で「小さくても存在感のある良質なモノをつくりたい」と、2018年8月に“小さな木製品をつくる木工所”として『小石製作所』を一人で立ち上げました。その看板商品が、子どもがおもちゃとして使うのはもちろん、インテリアを飾るオブジェにも最適な小さい木の車『THIS IS VEHICLE』シリーズです。
実はこの商品、家具製造の現場で切削されて不要になる端材から生まれたおもちゃなんですが…、その商品化に至るまで、小石さんはさまざまな悩みや想いを抱き、最終的には徳島の地場産業である木工業の継承を決意します。徳島という地で木工と生きることを決めた小石さんが、自身の想いを実現すべく取った行動の源には、長い紆余曲折の日々と大きな希望がありました。
「自分は何がしたいのか」を探った日々
子どもが好きだったことから教師を目指していた小石さん。高知大学の教育学部で学ぶなかで、「自分は教えるということで子どもたちに関わるのではなく、モノを作って残すことで子どもたちに携わりたいのではないか」ということに気づきます。大学卒業後、千葉大学の大学院で環境計画学を専攻、公園やランドスケープについて学ぶのですが、ここでもまた自分がやりたいことと、これから先の進路について悩むことになりました。
小石さん:
「公園や空間といった大きいスケールのものをつくるとき、自分が関われるのは“設計”という一部分だけ…。そこにジレンマを感じたんです。何かを作って残したいという気持ちは変わらない。でも、そして、図面からモノの完成まで…つまり、ゼロから10まで全部自分でやりたいと思ったんですね。」
実は、東京で就職が内定していた小石さん。しかし、修士論文を書きながらも、まだ自分の進路については悩んでいたそう。卒業を待つだけだった2007年の3月に、とある雑誌で木製家具を製造する徳島県の『宮崎椅子製作所』が工場でデザイナーと職人が“ワークショップ”でチェアの開発をしていることを知り、「ものづくりに最初から最後まで携わる…それができるのは家具だ!」と小石さんはひらめきました。宮崎椅子製作所に直接連絡をすると、なんと即採用。小石さんは、申し訳なさを痛いほど感じながら東京の会社の内定を辞退し、徳島で椅子職人としての道を歩むことになりました。
椅子職人として働いた11年での気づき
小石さん:
「宮崎椅子製作所に入社してからは、チェアというものにどっぷりとハマりました。デザイナーとのワークショップに参加することで、いろんな新しい考え方に触れ、デザイナーたちが提案する無理難題にも「やってみましょう」と社長が柔軟に応えるところにも刺激を受けました。ただ、チェアを開発・製造するにあたって、デザインの美しさだけではなく、製造のスピード感、強度や安全性なども考慮しなければならない難しさも知ることになりましたね。一方で、製作の過程で難題を突破することにときめいたんです。製造方法を技術的に解決できたり、新しい方法を編み出したりしたときにたまらなく嬉しかったんですよね。」
また、それとは別に入社当初からずっと気づいて思い悩んでいたことが小石さんにはあったのです。それはチェアの製造過程でどうしても出てしまう木の端材がすべて捨てられてしまうこと。「もったいない」と日に日に思い、小石さんは「この端材を何かに使えないか…」と考えるようになりました。
起業のはじまりとなった小さな木のおもちゃ
入社から数年後のある日、家庭を持つ小石さんは、工場に残された端材を利用して自身の子どものために、丸みをおびた車のおもちゃを作ります(宮崎椅子製作所では、業務時間外に会社の機械を使うことが許されていました)。自分が納得する子どものおもちゃが少なく、「ないのであれば、自分で作ってみよう」と思ったからです。
小石さん:
「子どもが生まれて初めていちばんに触る良質なおもちゃを自分で作る…、しかも、木の端材を使って作れるんですから願ったりかなったりです。」
木の魅力と愛らしさが凝縮されたようなこのおもちゃは、小石製作所の原点となり、誕生したときから年月を経て、小石製作所の最もアイコニックなプロダクトへと成長することとなります。
最先端の機械を「手の延長」として使う
木のおもちゃを作ってから数年後、小石さんは独立を見据えて小さい端材でも切削することができる最適なCNC(コンピュータ数値制御)加工機を探し始めました。3次元CADとCNC加工という先端技術を取り入れて加工を行うことは、小さな木製品を生み出すには必須のポイント。それは、形状にばらつきが出ないようにしつつ、小さい部材加工の物理的リスクを減らし、高いデザイン性と品質をキープするためです。
小石さん:
「すでにほかの木工所にある機械を導入するのでは意味がない。これまでの木工所にはなかった機械が導入できれば、独立に挑戦する意味と価値があると考えていたんです。かつ、木端のような小さいモノの加工に特化することができる機械でなければならない…。最終的に探し当てたのが、高い精度で部材を切削することができる(主に携帯電話のボディの切削に使われている)最新の機械でした。」
宮崎椅子製作所での経験から、小石さんはCNC加工機と3DのCADを駆使できます。ただ、これらの先端技術はあくまでも小石さん自身の“手の延長”となる“道具”。そしてこの“道具”が、小石さんが何年も頭を悩ませ続けていた、端材の活用というテーマを実現させてくれるというわけです。
木工の文化が脈々と受け継がれる徳島
ここまで小石さんの話を聞きながら「小石さんの中で生まれた疑問は、徳島でなくても思いついたのでは…?」と筆者は思います。その問いをストレートに小石さんに投げかけてみると、「徳島という木工製品の産地があって、そこで木工製品をつくる会社で働いたからこそ、端材をどうにかできないかという発想が生まれたんですよ」と、小石さんは即答しました。
徳島には昔から木工産業が根付いています。古くは奈良・平安時代から木材資源が利用されたと記録が残っているほど、徳島は林業がさかんでした。また、全国屈指の海軍力を誇った徳島藩の阿波水軍の船大工たちが端材を使って生活雑貨や建具をつくり、のちの木工家具製造へと発展したという経緯があるのです。
小石さん:
「時代は流れ、作るモノも製造工程も違うのは当然ですが、現在の徳島の木工業は地域に古くから根付いた産業と文化が脈々と受け継がれたものと言って間違いはないでしょう。徳島の木工産業は全国的にはあまり知られていないかもしれませんが、船大工のものづくりが、現在の家具づくりへとつながっています。機械を導入することも、伝統に逆らうのではなく、新しい力になると考えて取り入れたから、時代の変遷にも取り残されることなく、小さい産地ながら生き残ったと思うんですよね。最新鋭の機械がある木工メーカーで勤めたからこそ端材の再利用という発想が生まれたのであって、他の場所で別のものづくりをしていたなら気づかなかったと思います。」
徳島のものづくりを後世に伝えること
現在、小石製作所では、先に紹介した木のおもちゃ『THIS IS VEHICLE』シリーズの生産だけでなく、木製家具のパーツ製作を請け負ったり、特注品の小物の製作を手掛けたりするほか、宿泊施設のドアハンドルや、寝室やリビングの照明なども製作。さまざまな業種とのコラボレーションを実現させています。“小さな木製品をつくる”という限定的でありながらもこだわったコンセプトのもと、小石さんの力を存分に発揮していると感じます。
小石さん:
「小径木の国産広葉樹や製材・家具工場などで出る端材など、未活用のまま処分される木材にも新しい価値を見出すこと。“小さい”から、できること。その可能性を突き詰めたいので、機械加工と3次元CADをうまく使って、住宅のなかの人が触れるところをもっと心地よいものにしたいと今は考えています。例えば、ドアノブや照明のパーツなど、量産品のプラスチックでしかなかったものを木で作りたいんです。人の手が触れて気持ちいいもの、また、今までなかった形を取り入れていきたいですね。」
また、地域資源の活用についてなど、地域課題の解決につながるために自分に何ができるか、についても小石さんは先を見据え、希望にあふれた笑顔でこう語ってくれました。
小石さん:
「いまの徳島の木工所や家具を製造する企業は、地域の産業を引き継ぐ役割を十分に果たしていると思います。自分はその次世代の一員になりたい…つまり、徳島で木を使ったものづくりをすることを後世に引き継いでいきたいんです。これからも徳島から家具が羽ばたいていってほしいですし、自分はものづくりの過程で生まれる木の端材をあますところなく使っていきたい。この想いはこれからもブレることはありませんね。さらに、将来的なビジョンとして、徳島産のスギやヒノキを使ったものづくりも手がけたいと考えていますが、材料ありきではなく、やはり製品ありきでものづくりを考えないといけないというのが持論です。サステイナブルな方法で、そして、この場所で、徳島のものづくりを次の世代に伝えていきたいです。」
これから『小石製作所』が手掛け、生み出されてゆく製品の一つひとつに期待せずにはいられません。
文:板東悠希 写真:小石製作所
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