ローカルニッポン

今ここで、できること。 東京都豊島区

書き手:藤岡 麻紀(株式会社良品計画 「ローカルニッポン」編集担当)

コロナウィルスという見えないものに対峙し、当たり前が当たり前でなくなった今、改めて働き方や暮らし方を考える方も多いのではないでしょうか。
何が必要で不必要なのか、本当に好きなもの面白いと思うモノコトは何なのか。こんな時におたがいさま、おかげさま、お疲れ様と伝えあえる相手は誰なのか、を立ち止まって考えること。

一方で、様々な地域の個人商店や顔なじみの飲み屋さん、自然と人が集まるシェアスペース等、今まで当たり前に訪れていた場所が危機に直面して困窮していることに心が痛みます。

集まろう、集まろうとしていたことができなくなった今、活動がシェアされることで、じんわりと広がるエネルギーになればという想いをこめて“ローカル”で行われている「今ここで、できること」を少しずつご紹介していきます。

地域のハブを守るために

今回は東京の豊島区における3つの取組みをご紹介します。
豊島区というと池袋のイメージが強いかもしれませんが、大塚、巣鴨、雑司ヶ谷に目白、長崎…等 個性豊かなエリアが混在している場所です。高層ビル群をちょっといくと、唐突に昔ながらの住宅街や個人商店が立ち並んでいるといったギャップも楽しめる、味のある都会ともいえるでしょう。

良品計画の本社も実はここ豊島区に位置していて、池袋界隈の飲食店には常日頃大変お世話になっています。いつも、好んで通っていた飲食店がいまどうなっているのか、何かできることはないか…そんな思いをもちながらこの場所を拠点にした活動を紹介していきます。

まずは、池袋駅に程近い南池袋公園を拠点にした”nest marche”でおなじみの株式会社nestの飯石藍さんにお話しを伺いました。

飯石さん:
「池袋、要町、千川、椎名町、雑司ヶ谷、東長崎…などなど、このあたりには地元の人に愛されるお店がたくさんありますが、今こういった状況の中、営業存続の危機に追い込まれているところも多いです。小さいけれど地元に根ざして活動しているお店は絶対なくなってほしくない!そういった想いを地元の仲間と形にすることにしました」

飯石さんは、地元の飲食業を営む友人たち、そしてご近所の仲間と一緒に池袋周辺でテイクアウトを実施しているお店の情報発信をするInstagramアカウント「TOGO IKEBUKURO」を立ち上げました。

飯石さん:
「お店の多くは、開け続けることもリスクになる今、少しでも多くの人にテイクアウトで届けるという選択をしています。そういった場所の力になれればと思って、日々情報収集&発信をしています。また、Instagramで“togo”をテーマに全国で同じような活動をしている地域は増えているので、様々な活動を知っていただける機会となるかもしれません。ぜひチェックしてみてください」

いつも通っていたなじみのお店を応援したい、そんな時は“情報をシェアする”という方法で気軽に、だけども確実に力になれるのではないでしょうか。そして、ここでの情報共有がまた誰かにとってヒントとなるかもしれません。

いつも通り、街のために

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次は、南池袋あずま通りを中心に様々な業態の飲食店を展開する株式会社グリップセカンドの活動をご紹介します。焼きたてパンがおいしいRACINESや、北海道から九州まで全国各地の魚介類を愉しめるカジュアルイタリアンGRIPをはじめとしたお店の数々は、いつも“生産者との強い関係”をもとに“地域のハブ”となることを目指しています。株式会社グリップセカンドの代表 金子信也さんが考える「今ここで、できること」とは。

金子さん:
「私たちが出した答えは、“この街で出来るコトをする!”です。このような状況下で4つのコトを守りながら、変わらず応援していただける場所を目指していきます。食材産地との流通を止めないコト、街の舞台装置を止めないコト、自宅での素敵な日常を後押しするコト、そして私達も自宅で出来る限り休むコト、です」

グリップセカンドでは、全国67の農家さんから厳選した農産物を仕入れています。驚いたことに料理に合わせて仕入れるのではなく、仕入れた野菜に合わせてメニューをきめていくそう。“家庭の冷蔵庫と同じ感覚かもしれません”と金子さんは言います。

様々な業態の店舗を展開しているのは、こうやって仕入れた新鮮な野菜を“絶対に無駄にしない”ためでもあります。働くみんなが、入ってくる食材を気にして、メニューを日ごとそれぞれの立場で考える。ひとつに注目をするこの仕組みがあることで、“フードロスをださない”という思いをチームでしっかりとでも自然と共有していけるのです。

そして、もう一つ、普段から季節の有機野菜や自家製調味料などをはじめとした食材庫として営業しているGRIP PROVISIONも求めているお客様に野菜を届ける大切な拠点となっています。 今回、こういった自分たちのもつリソースをどうやったら街に還元できるかを軸に今できることをチームで考えました。

金子さん:
「私は、レストランのオーナーという立場を通じて “まちづくり” に携わりたいと考えてきました。何もなかった場所に人が集ってコミュニティが形成されたり、経済循環が生まれたり、そういった作用を生み出したいんです。そのために、こんな時だからこそ、求められているものに答え、地域と会話しながらひたすら“感謝される”ことを目指しています」

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現在、前述のGRIP PROVISIONを拠点に各店舗のテイクアウト可能な”食”を集結させた『GRIP market』をスタートしています。時間で区切り、RACINESの焼きたてパンやお弁当、人気の前菜/旬野菜のサラダ/手打ちパスタ.自家製パスタソース/お肉料理/デザート…等の販売をしています。他にも契約農家さんの新鮮野菜、いつも通りドレッシングなどの人気商品も取り扱っています。

店頭でのお客様との会話や反応を見て、新しいメニューが登場することもあるそうです。今だからこそ、愉しめる限定メニューに出会えるかもしれませんね。

必要としている人へ届ける

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最後は、普段 ”こども食堂”や”プレイパーク”などの運営を行っているNPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワークの栗林知絵子さんに、こんな時だからこそ行政と区内のNPO、企業と一体になって行っていることを伺いました。

栗林さん:
「現在、感染拡大による休業や休校の影響で、お仕事のシフトを減らされたり失業するなどで収入が減ったり、また子どもの給食が途絶え家庭の負担が増えるなどして、仕事と食の両面から困窮している子どもを持つ世帯が増えています。私たちがいつも行っている活動も一時的に休止してしまっているので、“集まる”支援が実施しづらい状況ですね。そのため、お困りの方とつながることが難しくなり、これらの世帯の社会的孤立が深まることを懸念しています」

そこで、栗林さんたちは“子供たちのために何ができるか”を軸に2月の終わりにすぐに動き始めました。休校によって、3食の内の1食である給食がなくなることで、就学援助を受けている多くのひとり親家庭において、経済的にも労力的にも負担が増えることが予想されます。そこで、まずは豊島区在住で小中学校が休校となった214世帯に対して休校や休業が家庭にどのような影響があるかアンケートを行いました。その結果、多くの家庭が食の支援を必要としていることが認識されたのです。

栗林さん:
「この状況をみて、これら社会的孤立を深める子どもを持つ世帯へ向け、食料支援をおこなう“緊急フードパントリー”として『としまフードサポートプロジェクト』の開催を決めました。豊島区行政や社会福祉協議会、区内のNPO、また企業が協賛し、2日間を1セットとして3月に2度実施しています(第1次実施:14,15日・第2次実施:28,29日)。

休校中の登校日に公立学校内でチラシを配布し、豊島区内にて9カ所のピックアップポイントを設置し、実施日に食料を取りに来ていただきました。第1次2次ともに、それぞれ216世帯のみなさまに、食料をお渡し出来、またお声がけもすることが出来ました」

今回、地域の事業者として、私たち無印良品からは商品のレトルトカレーとつながりのある千葉の農家さんからのいちごを提供しました。いちごは普段であれば、いちご狩りで食していただくものですが観光客が激減し行き場に困っていたもの。喜んでいただける場所へ届けることができうれしく思います。3月中に設けていたピックアップポイントはなくし、緊急事態宣言が発令された4月は宅配に切り換え、食料を261世帯に届けたそうです。

栗林さんたちの取り組みを伺い、まずはスピード感に驚きました。休校が始まってすぐにチラシを配布し必要なところにきちんと情報を届けること。普段、行っている活動が地域にどう作用し、どう連携すれば届くのか、それらを理解しつくしているからこそ、変化に合わせ柔軟にスピーディーに対応できるのでしょう。栗林さんは言います “これからも豊島区の多様なステークスホルダーがつながり、支えあう関係性を醸成したい”、と。活動を点から面に広めていくことを今後も行っていきます。

リンク:
TOGO IKEBUKURO Instagram
GRIP PROVISION Instagram
NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワーク