コロナウィルスという見えないものに対峙し、当たり前が当たり前でなくなった今、改めて働き方や暮らし方を考える方も多いのではないでしょうか。
何が必要で不必要なのか、本当に好きなもの面白いと思うモノコトは何なのか。こんな時におたがいさま、おかげさま、お疲れ様と伝えあえる相手は誰なのか、を立ち止まって考えること。
一方で、様々な地域の個人商店や顔なじみの飲み屋さん、自然と人が集まるシェアスペース等、今まで当たり前に訪れていた場所が危機に直面して困窮していることに心が痛みます。
集まろう、集まろうとしていたことができなくなった今、活動がシェアされることで、じんわりと広がるエネルギーになればという想いをこめて“ローカル”で行われている「今ここで、できること」を少しずつご紹介していきます。
自然がもたらす安心感を
今回の「今ここで、できること。」は三重県菰野町での活動をお届けします。
無印良品近鉄四日市で実施されている様々なイベント、その中で2018年のオープン当初からつながりのある「森の暮らしデザイン集団 kicoris(キコリス)」(以下 kicoris) のメンバーのお一人であるヤマモトアイさんにお話しを伺いました。kicorisは “地域の森を良くしていきたい。森と暮らしをつなげたい” という想いから、それぞれの仕事や育児といった生活の延長上で、三重県菰野町の森の中に入り、手入れに携わる活動をしている団体です。
ヤマモトさん:
「kicorisは、それぞれが何かのきっかけで “森” に目を向けるようになった女性たちで構成されています。地元に昔から住む方たちの協力を得ながら、かつて植林され、今は時代の流れとともに手が行き届かなくなった森に入り、気持ちの良い光と風が入る森になるように手入れをしています。また、そんな森を身近に感じてもらえるように、子供たちでも参加できるワークショップを考えたり、プロダクトを作って青空市で販売をしてきました。私は、数年前にkicoris代表の小林明子から声をかけてもらって森に入るようになりました。自分が携わる花への視点に森の目線が加わって、それが新鮮な感動だったんです。表現の幅も広げてもらったように感じます」
ヤマモトさんは、ご自身で「vigil(ヴィジル)」(以下vigil)という花屋を営んでいます。花屋といっても店舗があるわけではなく、お客様からのご相談を受けてから、仕入れを行う完全オーダーメイド。鈴鹿山脈の麓、三重県菰野町にある小さな小さなアトリエで作業をしながら、ひとりひとりのご要望を受けてのウェディングや各種パーティ用のアレンジメント、移動花屋での対面販売等を行っています。今、ヤマモトさんはどのような日々を過ごされているのでしょうか。
ヤマモトさん:
「自分自身の生活としては、子供の学校が休校になり、毎日家から半径数メートルも出ないような生活が続いていました。身近なところでも、なじみのミニシアターやちいさな書店が休業していて、改めて “不要不急” と呼ばれる営みは、自分の輪郭を作るような大事な要素だったのだと気付きましたね。私は現在一人で活動をしていて、元々お受けする件数を限定したこともあり、大きな影響はありませんでしたが、周りではウェディング関連や学校行事の中止で花が売れずに余ってしまったり、と物的にも心情的にもつらい状況が続いていました。ただ、彼らも前を向くためのアイデアを次々と出しています」
そこでヤマモトさん自身も、新しい取り組みを始めました。
ヤマモトさん:
「SNS上で、“不要不急のアレンジメントデモンストレーション” として、散歩中の道端で見つかる身近な野草や、スーパーやホームセンターの花コーナーで買い物のついでに気軽に買えるパッキングされた花を使って、日常を楽しめる動画を投稿し始めました。できるだけ身近に手軽にできることを大切にしています。ただ眺めてもらえるだけでもいいし、真似して楽しんでもらえたらもっと嬉しいです。だけど、自分では教える立場で始めたというよりは、自分自身の不安定さを、いつも手や目にしてきた花の力を借りながら、チューニングしている、という部分が大きいですね。花があればやっぱり明るい気持ちになるし余裕が生まれます。なにより、この季節が来れば必ずこの景色に出会える、というような自然の花がもたらす安心感を近くに感じられることが、いつも通りにはいかない今の状況で、特別貴重だと感じます」
kicorisでの活動で感じた “森に入って感じる気持ち良さ” を森からおすそわけしてもらった素材で、森から遠いところにいる人たちにも感じてもらいたい、というヤマモトさんの想いがまさにこの活動にも込められていますね。