ローカルニッポン

今ここで、できること。 徳島県徳島市

書き手:藤岡 麻紀(株式会社良品計画 「ローカルニッポン」編集担当)

コロナウィルスという見えないものに対峙し、当たり前が当たり前でなくなった今、改めて働き方や暮らし方を考える方も多いのではないでしょうか。
何が必要で不必要なのか、本当に好きなもの面白いと思うモノコトは何なのか。こんな時におたがいさま、おかげさま、お疲れ様と伝えあえる相手は誰なのか、を立ち止まって考えること。

一方で、様々な地域の個人商店や顔なじみの飲み屋さん、自然と人が集まるシェアスペース等、今まで当たり前に訪れていた場所が危機に直面して困窮していることに心が痛みます。

集まろう、集まろうとしていたことができなくなった今、活動がシェアされることで、じんわりと広がるエネルギーになればという想いをこめて“ローカル”で行われている「今ここで、できること」を少しずつご紹介していきます。

“体験” を届ける

日本全国には、地域の特性にあわせたボランティアや活動等を通じて、社会的課題に取り組みながら社会貢献に力を注ぐ “青年会議所” があります。徳島県内でその青年会議所での活動経験を活かし、結成した「一般社団法人SMASH ACTION」の専務理事を務める宮本全人さんにお話しを伺いました。SMASH ACTIONが今まで行ってきた取り組みを見ていきましょう。

宮本さん:
「SMASH ACTIONは、青年会議所での活動を通じて得た経験を活かし、“地域の(日本の)課題を発見し、まちづくり、ひとづくり、観光発信、イベント企画を通じて、徳島発の新しい地域の(日本の)未来を創っていく” 団体です。2020年6月に有志10名で設立したばかりですが、メンバーの活動実績は様々です。例えば、中四国初の花火競技大会『にし阿波の花火』や云わずと知れた『阿波おどり』の実行委員会の中で主要メンバーとして携わり、他にもとくしまひょうたん島水都際、とくしまeスポーツフェステバル「闘電街」、とくしまスポーツフェスティバル等々、多くの事業やイベントに関わってきました」

SMASH ACTIONのメンバー(真ん中右が宮本さん)

SMASH ACTIONのメンバー(真ん中右が宮本さん)

宮本さん自身は、このほかにも実行委員長として、2017年から「AWAODORI CAMP」を主宰しています。毎年8月のお盆の時期に開催される「阿波おどり」は動員が100万人を超える徳島の大切な地域資源。徳島県民にとっては、心がざわめき、まち全体が熱気に包まれる特別な数日となります。このような、特別な行事でありながら “宿が取れない” が故に、もっと徳島をじっくり堪能して魅力を目一杯感じてほしいのに、むずかしい状況があったと言います。

宮本さん:
「こんなに楽しいお祭りなのに、多くの人が日帰りで帰ってしまう、また徳島に来ること自体を諦めてしまうという現状があります。そんな状況を打ち破り、阿波おどりの素晴らしさ、そして徳島の素晴らしさをもっと多くの人に知ってもらうために、私たちは会場からほど近い、街のど真ん中に期間限定のキャンプ場を作りました(2017年1日、2018年4日間、2019年4日間 *一部台風のため中止)。AWAODORI CAMPは、参加された方からはもちろん、市民のみなさんや行政のみなさんからも高い評価をいただいています」

AWAODORI CAMPでは、自然と来場者との交流も生まれる(撮影 左:千葉大輔 右:松田大輔)

AWAODORI CAMPでは、自然と来場者との交流も生まれる(撮影 左:千葉大輔 右:松田大輔)

遠い過去から積み上げられてきたすでにある徳島の魅力。宮本さんたちは、それらを最大限に活かし、多くの人に “体験の場” を提供しながら、一方で新しい価値を生み出す活動も進めてきました。今ここで、なにが始まっているのでしょうか。

宮本さん:
「現在、コロナウィルス感染拡大によりイベントはほとんどが中止・延期となっています。特に徳島県民の誇りであり、日本の宝とも言える『阿波おどり』の中止決定は、県民の、地域の人々にとって経済的にはもちろんのこと、精神的にも非常に大きなダメージとなりました。徳島県にとっては夏=阿波おどりといっても過言ではなく、飲食や宿泊業はじめ観光関連事業者の損失は図り知れません。また、昨年5万人を動員し、次回が熱望されている『にし阿波の花火』も開催がほぼ絶望的な状況です」

昨年の『にし阿波の花火』の様子

昨年の『にし阿波の花火』の様子

ローカルに向けて

愛着と誇りをもったイベントが軒並み中止とならざるを得ない今、その在り方を変化させ、新しいスタートをきることが求められています。今までと変わらず “体験の場” を通して徳島の魅力を届けるために、宮本さんたちはあることを始めました。

宮本さん:
「私たちは、おそらく世界で初めてとなる 『花火競技大会ONLINE』を実施することにしました。昨年開催した『にし阿波の花火』に参加いただいた花火業者さんをはじめ、県内外の花火師さんたちの窮地に役立てないか、世界に誇る日本の花火文化を守りさらに発展させることはできないか、コロナの影響に苦しむすべての皆さんに花火で元気を届けられないか、そんな想いのもと、オンラインで楽しめる花火競技大会を企画実施することにしました。参加15業者様から競技用の玉を購入し打上げを行い、視聴者からの投票により順位を決定します。またフィナーレに各社より2発ずつ無償で提供を受けた玉を含めた合計約2500発で音楽花火も披露します」

参加花火師からのメッセージが描かれた花火玉

参加花火師からのメッセージが描かれた花火玉

宮本さんたちは、共にイベントを盛り上げてきた仲間たちの想いと、楽しみにしていたお客様への想い、その両方にこたえるため「今できること」を実行します。実は、すでに6/9(火)国営讃岐まんのう公園にて非公開・無観客で花火の打ち上げは無事成功したとのこと。当日はドローンや360度カメラを含め様々なカメラで映像を撮影。それらを時間をかけて編集し、実況解説付きのライブ配信「花火競技大会ONLINE」を届ける予定です(6/28(日)20:00~)。

この「花火競技大会ONLINE」のあと、継続して花火師支援をおこなっていくため、「花火師応援プロジェクト」というクラウドファンディングも立ち上げました。集まった資金で参加花火師から花火玉を購入し、それらを使って再び花火を打ち上げる機会を創っていきます。

宮本さん:
「いちイベント運営者として花火文化存続の一助となること願い、“新しい花火の表現の場を創りだすこと” “世界に日本の花火を発信すること” にチャレンジしていきたいと思います。そのほかにも阿波おどりに関する新たな取り組みも企画中です」

まちの魅力を発見し、どのように編集し、つなげ、伝えていくのか。今まで、愛着ある徳島という地域を “体験の場” を通して発信してきた宮本さんたち。
宿がなければ、場をつくる。集まれなければ、こちらから届ける。
課題を見つけ、向き合い、柔軟に変化してきたからこそ、継続する難しさも知っているのだと感じます。徳島を知ってほしいという外へ向けたアクションとしてだけではなく、そこに住まう人々にもこの地に愛着と誇りを持ち続けてほしい、そういった場を絶やしたくない、という思いが汲取れました。これからの活動が楽しみです。

リンク:
SMASH ACTION HP

花火競技大会ONLINE配信チャネル *6/28(日)20:00~
花火師応援プロジェクト

にし阿波の花火HP
AWAODORI CAMP