ローカルニッポン

今ここで、できること。 福岡県久留米市

書き手:秋山フトシ
久留米市役所職員。元広報担当で700以上の記事を制作。編集や写真講座の講師も務める。オフではチエツクプロジェクト主催の”地域の編集と書く仕事”編集長を拝命。”ペンとカメラ(取材・執筆、撮影)”をライフワークとしている。

大人数で集まることが難しくなった今、活動がシェアされることで、じんわりと広がるエネルギーになればという想いをこめて“ローカル”で行われている「今ここで、できること」を少しずつご紹介していきます。今回は、福岡県久留米市で始まったオンラインでの取り組みを紹介します。

新型コロナウイルスの流行拡大で公共施設が休館し、市民活動の舞台が奪われました。そんな中、久留米で活動する2人のまちびとが新たな拠点を造ります。それは、「オンライン公民館」。ビデオ会議アプリを使い、5月4日、5日から外出自粛期間を想定した5月末まで、毎週日曜にどんなことが行われていたのでしょうか。

きっかけは街の機能不全

公民館がスタートしたゴールデンウィーク開催時の登壇者パネル

公民館がスタートしたゴールデンウィーク開催時の登壇者パネル

「オンライン公民館」を始めたのは、久留米で様々なプロジェクトメイクを行う2人のまちびとです。館長を務めるおきなまさひとさんと、事務局長の中村路子さん。2人の思いやオンライン公民館ならではの魅力を聞きました。

おきなさん:
「コロナ禍で、街に現れていた機能不全がきっかけでした。『今、機能しないといけないのはどこか』と考え、思い当たったのがコミュニティセンター。自治の拠点である公共施設の休館で、こんなに地域の動きが止まるんだと実感しました。そんな中でもネットワークコミュニティは動いていて。河川敷で中村と話してて、思いついた瞬間に一気に企画書を書き上げました(笑)」

中村さん:
「ネーミングは大事にしました。久留米では公民館をコミュニティセンターって言うんです。でも、他の地域にも広がって欲しかったし、”オンライン”と”公民館”って組み合わせが面白いでしょ」

こうしてはじまった久留米の「オンライン公民館」では、実に多彩な企画が終日催されています。

会えなくても、つながれる。「オンライン公民館」

お経から始まる一日。開館直後にお経を上げ、質問に答える仏滅坊主の佐々木さん

お経から始まる一日。開館直後にお経を上げ、質問に答える仏滅坊主の佐々木さん

朝一、ユニークな企画から「オンライン公民館」はスタートします。”仏滅坊主”の異名で登場する佐々木信行さん企画の「オンライン寺院 ONSEN寺」。実家のお寺で僧侶をしながら、公民館の運営メンバーとして活躍しています。朝の気持ちの良い時間に響くお経が好評。お経の後には佐々木さんがあらゆる質問に答える時間が続き、珍回答に笑いが起こります。

オンライン公民館のコンセプトは「ローカルを、まじめにエンターテインメントする」「きょりを保つ時代に、こころの距離がぐっと近まる」。
1日に並ぶ企画は10数個。初めましてから1時間で「友達の友達の友達とトモダチになれるのか」、久留米絣を愛する3人のトークコーナー「カスリトーーーク」、家族の絆について考える「ファミリータイズ」、企画者が本を紹介し、魅力を語る「のらくらブックス」。他にも室内でできるダンスや料理教室など、様々な人が企画者として登壇します。

そして、参加のスタイルは緩やか。顔を出して企画に参加するスタイルだけでなく、顔は出さずラジオのように楽しむ”耳だけ参加”もOK。途中の入・退室も自由。各企画の冒頭には、運営メンバーがタイトルコールと館内のルールをアナウンスし、途中からの人も楽しめるようにしています。また、開館時間に来られない人向けに、一部の企画をYouTubeで公開しています。

初回の企画ラインナップ。

初回の企画ラインナップ。

地方都市に起こったやさしい革命

「オンライン公民館」事務局長の中村さんは、地方都市の課題を解決する一手になり得る”新しい居場所の誕生”だと感じています。

中村さん:
「魅力は100個くらいありますね(笑)。一番は、地域との関わり方に起こる革命。地域や人と関わる入口が一つ増え、そして、関わり方の幅が広がった。リアルの場より気軽に企画者になれるし、顔を出さずに参加できるから、”透明人間”として場に居られる。今まで地域と関わる機会がなかった人でも関わりやすいんじゃないかな。
久留米くらいの規模だから実現できたのかも。思いついて3日で開館できたのは、日常の活動でつながった仲間が居たから。リアルの関係性がオンライン公民館のベースになったと思います」

普段、様々な地域プロジェクトに関わる中村さん自身も、家で参加できる良さを実感しています。

普段、様々な地域プロジェクトに関わる中村さん自身も、家で参加できる良さを実感しています。

全国でオンライン建設ラッシュ。参加世代も広がる

オンライン公民館建設(?)は、全国各地に広がっています。
もともと久留米と交流のあった兵庫県尼崎市や愛知県豊田市。そして、この取り組みに興味を持った人が同じ福岡県の福津市でもスタート。様々な街のプレーヤーがこの場に魅力と可能性を見出しています。久留米の次に建てられた「とよたオンライン公民館」を運営する西村新さんは、次のように見ています。

西村さん:
「初日にお邪魔して、すごく雰囲気が良かったのを覚えています。僕も、ステイホーム期間に何かやっておきたいなと思っていて。前代未聞の事態をみんなはどう思って過ごしているのか、生の声を共有しようと思い、5月17日にスタート。月1で開いています。企画がずらりと並んでるのがポイント。興味のある企画の前後も、流れで聞いちゃいますよね。そこで自分が知らない新しいことに出会う場になります。
僕はここが”リアルとオンラインの架け橋”になると思っています。他の地域の人も、SNSから気軽に覗いてくれています。そこで興味を持ってくれた人が、豊田に来てくれることもあると思うんです」

このように、久留米で始まった新しい繋がりづくりの場が各地に広がっています。 また、オンラインと縁遠かった世代にも輪が広がっています。

認知症の家族の会で活動している江上憲一さん、79歳。Facebookでこの場を知り、「認知症という病気の事知っていますか」を企画、登壇しました。江上さんは、「当日26人が参加してくれました。若い人の参加も多く、まだまだ無関心な年代の皆さんと話せました。しかも、3人も認知症サポーターになりたいと言ってくれまして、嬉しくて2回目も企画したんですよ」と話します。

江上さんの企画では、参加者からの質問が多く、時間内で答え切れないほどでした。

江上さんの企画では、参加者からの質問が多く、時間内で答え切れないほどでした。

6月以降も継続して開館。参加者の期待高まる

5月末までの予定だったオンライン公民館は、6月以降も継続することに。それは参加者の広がりと期待の高まりから。運営メンバーの増加がそれを表しています。2人ではじまった活動も、現在は12人で運営。6月からは週替わりでメイン担当を回しています。運営メンバーが増えるほど、それぞれから同心円状に輪が広がる。まさに公民館的と言えます。

6月からは企画の並べ方も工夫しました。柱となる三つのコンテンツを設定。一つ目は先述の“友達の友達の友達とトモダチになれるのか”をテーマにした繋がりを生む企画です。二つ目は ”今自分が勝手に熱狂していることを3分で語る” 参加型企画。そして、三つ目がテーマを決めて議論を交わす ”ガチ会議” です。

おきなさん:
「5月最終日に『公民館どうする』って議論を投げかけてみたんです。すると、意外にたくさんの人が議論に入ってきてくれて。ここで6月以降の継続も決めたんです。まさに”みんなで作っていく”という感覚でした。この枠が、企業さんのマーケティングができるくらいのコミュニティになる可能性もあると思います」

さらに、“子ども” “高齢者”をテーマにした枠を用意。こうしたラインナップの整理で、企画に挑戦する人にも、初めて参加する人にも優しい場になりました。

オンラインの新たな可能性 ”近くの人と繋がるきっかけ”

中村さん(左)とおきなさん(右)は、イベントやコミュニティ、プロジェクトを創る会社「visionAreal」の共同代表。

中村さん(左)とおきなさん(右)は、イベントやコミュニティ、プロジェクトを創る会社「visionAreal」の共同代表。

オンラインは、距離を超越できるツール。でも、ここは多くの久留米の人たちで賑わっています。
近くに居ながらも繋がりきれてなかった人たちの壁。「飛び込むには敷居が」「出るのが億劫」「暇が無い」。リモートツールを介することで、状況や時間、世代や関係をも超越し、今まで会った事のない ”ご近所さん同士” が繋がっています。オンラインの新しい可能性ではないでしょうか。

この取り組みは、「日本公民館学会」も注目。7月に開かれる集会の課題研究の題材に選ばれました。2人にとって今までの公民館は日常使いとまではいかない場だったけれど、こうして新たな公共的施設の形を生み出すことができました。これからの広がりが楽しみです。

リンク:
オンライン公民館サイト
「まちびとレーベル」YouTube(オンライン公民館のアーカイブはこちら)
「ローカルニッポン」過去の記事