ローカルニッポン

今ここで、できること。 福島県南相馬市

書き手:林 美里
早稲田大学社会科学部1年。2001年長野県東御市生まれ。18年間田舎町で育ち、この春上京したものの、4月から1度もキャンパスに行けず。大学が夏休みの期間、さとのば大学というプログラムを通して福島県南相馬市小高区に地域留学中。

コロナウィルスという見えないものに対峙し、当たり前が当たり前でなくなった今、改めて働き方や暮らし方を考える方も多いのではないでしょうか。集まろう、集まろうとしていたことができなくなった今、活動がシェアされることで、じんわりと広がるエネルギーになればという想いをこめて“ローカル”で行われている「今ここで、できること」を少しずつ紹介していきます。

新型コロナウィルスが日本国内でも猛威をふるい始めた4月、私は大学に入学しました。しかし、入学式や新入生歓迎会などの行事やイベントはすべて中止、授業はオンラインとなり、家にこもりきりの息のつまる生活。そんな中講義で知った「さとのば大学」という、オンラインで全国の仲間と授業を受けながら地域に留学し、プロジェクト実践を行うプログラムに参加することに。留学先は、福島県南相馬市小高区。

東日本大震災と原発事故により一度人口が0になった小高では、住民自らの手でまちづくりに取り組む機運が生まれ、小さくも多様なプロジェクトが進んでいます。
馬事文化の息づく地域で、馬を活用したビジネスを立ち上げようと活動する方や、復興交流拠点でマルシェイベントを企画する方が、コロナ禍のいま「ここで、できること」を実践している姿をお伝えします。

変化する “馬の事業”

「相馬野馬追」という伝統祭礼が根づく南相馬市。地域では数多くの馬が飼われ、まるでペットのように子どもの頃から馬に親しんできた家庭もあると聞きます。そんな南相馬で、馬を活用した事業の立ち上げを目指す、Horse Sharingプロジェクト立ち上げを推進するNext Commons Lab 南相馬ラボメンバーの神瑛一郎さん。2019年12月に着任後、地域に人を呼びこみ、馬を活用したアウトドアアクティビティを体験してもらう事業案を実践すべく準備を進めてきました。

相馬野馬追2日目に行われる甲冑競馬。はためく旗指物と蹄音の迫力に圧倒される。

相馬野馬追2日目に行われる甲冑競馬。はためく旗指物と蹄音の迫力に圧倒される。

神さん:
「僕が南相馬で馬の事業を進めているのは、『馬術をメジャースポーツにしたい』という目標を実現するためです。その目標に近づくためには、馬の文化が根づく南相馬で事業を行っていく必要があると考え、Next Commons Lab 南相馬にジョインしました。事業としては大きく分けて3つの軸で進めています。1つ目は南相馬市内で馬主さんが飼っている馬の調教。2つ目は『ウマツリ!!』という、乗馬体験や飲食、馬術の大会を合わせた、馬づくしのイベント企画です。3つ目は馬を活かした観光の仕掛けづくり。例えば、小高のまちなかを馬で散歩して小高神社まで行ったり、トレッキングに使ったり、海で乗馬をしてそのまま旅館で宿泊したり、観光とアクティビティをパッケージ化したものを企画しています」

事業準備を着々と進めていた矢先の、世界的な新型コロナウイルスの大流行と、それに伴う緊急事態宣言。事業の大きな方針転換を余儀なくされたと神さんはいいます。

神さん:
「まず働き方が変化しました。僕はビフォーコロナでは2拠点居住をしており、月の半分は南相馬でHorse Sharingプロジェクト、もう半分は千葉県等でもともとやっていた調教の仕事を続けていました。しかし新型コロナの流行により、首都圏と東北との行き来はリスクが高いということで、千葉での仕事をやめ100%南相馬でのプロジェクト実践に舵を切りました。もちろんプロジェクトへの打撃もあります。先ほど紹介した3つの事業以外にも、東京のコスプレイヤーさんをターゲットにした乗馬撮影サービスを企画していたのですが、中止となってしまいました」

しかし神さんは、この状況だからこそできることを、と “馬術をメジャースポーツに” というビジョンはそのままに、事業内容を変化させているようです。

神さん:
「今はYouTubeで『Wooma TV』というチャンネルを動かし、馬に関する面白い動画コンテンツを作成、公開しています。アクティビティ体験以外でも、より多くの人に馬を身近に感じてもらえるといいなと思って。不測の事態が起こると、どうしても悲観的になったり、振り回されて疲弊したりすることもあると思うのですが、先んじて状況に応じたアイデアを具現化できれば、むしろチャンスにもなりえる。僕は今の状況を良い機会と捉えて活動していますね」

小高パイオニアヴィレッジでYouTubeの動画を撮影する神さん

小高パイオニアヴィレッジでYouTubeの動画を撮影する神さん

なるほど、YoutTubeの撮影であれば、密やクラスター・感染拡大地域との行き来など関係ありません。確固たるビジョンがあれば、そこに至るまでのアプローチは状況に合わせていくらでも変化できるのだと感じました。コロナ禍でも歩みを止めることなく、柔軟にやり方を変えながら前向きに活動している神さん。今後、事業を進めるにあたって色々な壁にぶつかることもあると思いますが、今回のように自由な発想で乗り越えながら、ぶれないビジョンに近づいていくでしょう。

工夫をこらして関わりしろを増やす

Next Commons Lab 南相馬では他にも、過去主体となって始めたイベントを異なる形で工夫しながら継続する活動をはじめています。2019年4月、南相馬市小高区において無印良品の「つながる市」のノウハウを生かしたマルシェ「小高つながる市」(小高はここから始まる「小高つながる市」)を開催しました。第1回が大盛況で幕を閉じたため、「もちろんやろう!」と2019年秋に計画された第2回は台風19号の影響で中止に。2020年春の開催を計画していた矢先、新型コロナウイルスの影響で実施が見送りとなりました。

この状況がいつまで続くのだろうと先が見えない中、「そもそもイベントを通じてどういうまちを実現したいのだろう」という視点の変化が生まれ、何度も会議を重ねてきました。そのような中で、この話し合いの場そのものがまちのこれからを考えるきっかけになり、たくさんの方に参加してもらえたら面白いのでは、という想いがメンバーたちに芽生えていきます。オンラインでも小高というまちや取り組みへの関わりしろを作り、この場をオープンにすることで面白がってもらえるのではないか、という意図から、オンライン配信をメインに据えた「小高つながる市【準備室】」が始動しました。

イベントがない時にもワクワクできる

小高つながる市【準備室】のテーマは “日々を楽しくする、つながりをつくる” です。SNSのページにはステートメントとしてこう記しています。

「小高つながる市【準備室】」は開催できない今だからこそ、まちやイベント、コミュニティ、やってみたい事を多様に考えて、できる事から実行していく場です。
「小高つながる市」というイベント(お祭り)は、365日のうちの1日しかない “ハレ” の日です。しかし、イベントをみんなで考えたり、作っている日々は、アイデアや夢、あったら良いなという未来のまち、デザイン、地域や都心とのコミュニティのつながりにまで話が広がり、365日のうちの364日である “ケ” の日を楽しく過ごすきっかけになっている事に気が付きました。
私たちは、「小高つながる市」を開催することが目的で発足しましたが、「小高つながる市」をみなさんと一緒に考える事で、日々を何倍にも楽しむ ”つながり” ができる事が大切だと考えています。

このように、【準備室】メンバーは「小高つながる市」を皆さんと ”一緒に” 考えることで、”日常” につながりやワクワクが生まれることが大切だと考えています。みんなで考えている今この瞬間も楽しいし、考えていることがどこかでなにかにつながるのだと思うと、モチベーションも上がるのではないでしょうか。では、小高つながる市【準備室】にとっての「今ここで、できること。」は具体的にどういったことなのでしょうか。下記の2つのオンライン配信が軸になっているようです。

① 準備室トーク
会議をオープンな場として開き、多様な人に参加してもらいます。例えば、様々なイベントが中止となり、今後の方針を再考せざるをえない状況になった他の地域の方々とも一緒に考えていくことを目指しています。準備室メンバーのオンラインミーティングをYoutubeでライブ配信し、同時視聴いただいた方々のコメントを拾いながら “みんなでの” 会議が進んでいきます。

② コミュニティ倶楽部
「コミュニティとはなにか」「どんなまちに住みたいと思う?」などなど、メンバーそれぞれが話したいことを持ち寄り、あるいは話したい人を呼びトークセッションをします。「小高つながる市」を始めとしたイベント開催に限らず、これからの暮らしや仕事のあり方、カルチャー、デザイン、建築などについて話すことで、どんなまちの未来を思い描けばワクワクするのか、コミュニティ、ひいてはまちのあり方を考えてみる場です。

今までのアジェンダに沿って具体的に解決策を見出していく会議とは違い、議題を柔軟に変化させ、意見交換の場として遠隔でも参加できるオンラインのメリットを大いに活用する等 “新しい会議” の形を感じます。社会の変化に応じてあり方を変えつつ、自ら新たな別の変化を創り出すことで、“状況に変化させられた” ではなく “状況をきっかけに一歩進んだ” と言えるような活動だといえるでしょう。

第1回小高つながる市【準備室】オンライン配信の様子

第1回小高つながる市【準備室】オンライン配信の様子

ゼロリセットこそチャンスに

ここまで紹介した2つのプロジェクトに共通するのは、社会の変化に嘆いたり絶望したりするのではなく、その先に可能性がたくさん埋まっているということに目を向けて、変化を前向きに捉えている点です。
神さんは新型コロナウイルスの影響で南相馬のプロジェクトに100%コミットできるようになったことを前向きに捉え、いまできることを日々実践しています。

小高つながる市【準備室】のメンバーは「新型コロナウイルスのせいで会議もオンラインになってしまったというより、地元の一部の人だけで会議をしなくてはいけないと言う概念が変わってよかった」と語っています。さらに、もともとはイベントの開催にあたって来場者や出店者の売上を目標にしていましたが、今は「物理的に来られないとしても小高の魅力を知ってもらいたい」という考えに至ったそうです。オンラインには無限の可能性があり、実際に集まるよりも広いネットワークができる可能性もあるのではないでしょうか。

2つのプロジェクトに共通して関わるNext Commons Lab 南相馬が掲げるヴィジョンには、そうした考えが表れています。

予測不能な未来を楽しもう
今、わたしたちは予測不能な未来に向かって生きている。だからこそ、先の見えない不安よりも、限りない可能性を楽しみ、想像力と実践をもって、望ましい未来をつくっていきたい。だれもがアイデアをカタチにし、挑戦できる場をつくる。ひとつひとつの行動が次世代へと続き、新たな社会への道筋となっていく。この予測不能な未来を楽しもう。自分たちの手で未来を発明しよう。

Next Commons Lab 南相馬のトップ画像とビジョン

Next Commons Lab 南相馬のトップ画像とビジョン

南相馬市は、2011年3月の東日本大震災・原発事故により“来るはずだった未来”が突然奪われ、特に南相馬市小高区は避難指示区域に指定されたため一度人口が0になりました。しかし、そんな状況を前向きに捉え、ゼロから創り上げようと起業家の誘致・サポートや独自イベントの開催などを行ってきた結果、新型コロナの状況でも柔軟に変化できる人が集まる地域になってきています。

私は、3ヶ月間一日中オンライン授業を受けるという閉塞的な学生生活を送っていましたが、南相馬市に滞在してみて、この逆境をチャンスと捉え、毎日楽しそうに仕事をする人の姿に感銘を受けました。そのパワーを受け取り、今の私の心の中は多くのワクワクで溢れています。また東京に戻っても、今までの自分とは違うマインドでものごとを捉えていけそうです。

文:林美里
写真:井上雄大・黒澤蓮南 

リンク:
小高つながる市【準備室】facebook
Next Commons Lab 南相馬
ローカルニッポン 小高ワーカーズベース 和田智行さん