奥尻で紡ぐ、未来の可能性 ~奥尻ワイナリーの挑戦篇~
北海道南西沖にある奥尻島の高校生たち。2018年に「部活動を支援する部活」として、オクシリイノベーション事業部(Okushiri Innovation Division)、通称『OID』が誕生しました。活動の中で芽生えた「奥尻高校だけではなく、奥尻島の秘めたる魅力を様々な人に知って欲しい。」という想いから、奧尻島の紹介も記事としてお届けしています。
前回(日本酒「奥尻」の誕生編)では、奥尻島を支えてくれている“人”について紹介し魅力を伝えてきました。奥尻島には、美しい奥尻ブルーに携わる人、奥尻の魅力を多くの人へ発信する人、様々な人たちで支えられています。今回は、奥尻島で島のために活動し、奥尻ワインで島を支え続ける、菅川仁さんを紹介いたします。
奥尻ワイナリーの始まり、こだわりの葡萄
菅川さんは奥尻島の出身で、現在、奥尻ワイナリーの常務取締役を務めています。大学卒業後、独学で経営を学びワイナリーでのワイン製造を任されました。奥尻高校とのつながりは、インターンシップの受け入れや私たちオクシリイノベーション事業部(以下OID)が函館で行う販売イベント「奥尻マルシェ」での商品提供などにご協力していただいていることです。
奥尻ワイナリーは、奥尻島の西端にある神威脇に工場があり、海老原建設の子会社として2008年に創業しました。日本で初めての島のワイナリーでもあります。果実酒の製造・販売を主に行っており、ワイン以外にもワインアイスやワインシャーベットなどワインを使用した加工品なども販売しています。
奥尻ワイナリーで作られているワインは、100%国産の葡萄を使用し国内生産をしている “日本ワイン” に振り分けられます。まず、ワインには主に3つの種類があり海外の葡萄を使用し現地で製造される “海外ワイン”、海外から輸入した葡萄や濃縮果汁を使用して国内で製造される “国産ワイン”、そして、奥尻ワインの種類である日本の葡萄を使用して国内で製造される “日本ワイン”の3つに分けられます。日本全体で国産ワインに注目が集まる中、日本ワインである奥尻ワインを作っている奥尻ワイナリーはとても貴重な存在であるといえます。
奥尻ワイナリーでは、ワインに使用するブドウを自らの手で栽培、収穫しています。始まりは1999年、島に自生する山葡萄の苗木を植えたことがきっかけでした。その後、ワイン専用品種の栽培を本格的に開始し、今では約27ヘクタールの畑面積を持ち、約6500本もの葡萄の木が植えられています。品種もメルローをはじめ、シャルドネ、ピノ・ノワール、ピノ・グリ、ツヴァイゲルトレーベ、ケルナー、山葡萄など7種類ほどあり、ヨーロッパ品種の栽培にも成功しました。
収穫された葡萄は、ポンプに入れた後プレスを使い、タンクに入れて奥尻のワインが完成します。ワインはポンプ・プレス・タンクがあれば作ることは出来てしまうのです。非加熱のワインは加熱していなくても、製造段階の時点では虫も殺すほどの殺菌効果を持っており、種類によっては樽に入れて熟成を行うこともあります。
樽に入れ熟成中のワインを保管するための部屋である「樽室」はいわば人工的に作った地下のようなものです。樽に入れて熟成させるワインは、バニラやスモークのように木の香りをつけることが目的で味についての影響は特にありません。昔は、足で葡萄を踏む作業によって人の足についている菌をワインに付けたり、ご存知の方も多いと思いますが、口嚙み酒という米を口で噛み、それを吐き出して放置したりするような酒法が実際に行われていました。ですが、今では衛生面上の問題もあり、きれいな状態で造られたお酒が販売されています。
しかし、ワインの熟成に使う樽は値段がとても高く、使用することでその分ワインの値段も上がってしまうというデメリットもあります。菅川さん自身も樽で熟成したワインよりもそのままの味の方が好みで、そのような点から奥尻ワイナリーでは樽を使用する機会はあまりありません。また、白ワインには甘口、辛口がある一方で、赤ワインはほとんどのものが辛口であるため「ボディ」という専門用語を使用します。皆様もお聞きしたことがあるフルボディやミディアムというようにワインの濃さを表します。奥尻では、フルボディをほぼ作らないため、すっきりとした味わいのより奥尻らしいワインになります。
このような過程を経て作られたワインは、奥尻の海を感じることのできる味わいで、天然のミネラル分が豊富です。今年の葡萄は今まで12年間の中でもかなり上位に入るほど上手くいっているそうですが、今後天気が崩れ台風などによる影響を受けないかが心配だと言っていました。一番人気は白ワインの「ピノ・グリ」で、渋み・甘味・ミネラルの3つのバランスがちょうどよい一本となっています。
菅川さん:
「奥尻のワインに使用する葡萄は糖分と酸が高く、独特な味わいがあります。このような特徴を持った葡萄を使用しワインを作ることで、奥尻の葡萄を生かした透明度の高い、日本海側の潮風を受けミネラル感のあるワインが出来上がります」
今後のワイナリー
たくさんのこだわりが詰まった奥尻ワインをたくさんの人に知ってもらうため、奥尻ワイナリーでは工場見学を行っています。菅川さんの理解してほしいという思いから始めた見学も、今では小学生から大人、島内外関わらず幅広い年齢の方々が見学に参加しています。
このように丁寧に作られているワインですが、奥尻ワイナリーの従業員数は12人のみという非常に少ない人数となっています。また、奥尻島は海に囲まれ、特に神威脇では風が強く塩害に遭うこともあります。
菅川さん:
「奥尻という珍しい環境で葡萄を育てるため、リスクが大きいところがありますが、ここで働いていると色んな世界が見えてきます。たくさんの経験が出来るところがこの仕事の良いところで、お客さんがワインを飲んで美味しいと言ってくれる瞬間がこの仕事をしていてよかったと感じます」
また、菅川さんのお気に入りは、淡いサクラ色で苺・オレンジ・フルーツキャンディーのような香りのするロゼというワインです。菅川さん曰く、他にもこだわっていて美味しいワインがたくさんありますが、ロゼワインは特に飲んだ後の雑味が本当に少なく、全体のバランスが一番上手く出来たワインだと嬉しそうに話していました。
奥尻のワインも今では、函館空港・千歳空港・ワインの専門店など島外での販売もされています。最後にこれからもたくさんの方々にワインを手に取ってもらうために、奥尻島外での活動や新しく考えている企画また今後の奥尻ワイナリーの姿についてお聞きしたところ、様々な前向きな話をしていただきました。
菅川さん:
「現在、島外ではワインだけでの販売が多いですが、今後はワインだけでなく奥尻のワインと奥尻の食材を同時にPR出来る場を作りたいと思っています。今は特に新しい企画は考えてないのですが、ただよりよいワインを今後もたくさん作りたいです。これからも、奥尻島内・島外に関わらずたくさんの人が喜んでくれるような企業を作って行きたいと思っています」
インタビューを通して、奥尻ワイナリーは今後も島内・島外関わらず、たくさんの人が喜ぶ企業づくりを進めていくのだろうと強く感じることができました。菅川さんのような一人一人の小さな力からなる奥尻島は、たくさんの魅力であふれています。奥尻島では今後も離島というデメリットをメリットに変え、日々努力している方々の存在は欠かせないものとなるでしょう。是非次の記事で、そして奥尻島でお会いしましょう。
文・写真:北海道奥尻高等学校 オクシリイノベーション事業部(OID)
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