ローカルニッポン

ローカルエネルギーが暮らしにある未来 01 バイオマスで地域の熱をあげる。sonrakuの挑戦。

諸岡若葉
宮崎県出身。東京、岡山県西粟倉村を経て、2018年より鳥取県八頭町のコミュニティ複合施設・隼Lab.に勤務。コミュニティマネジメント業務として企画・広報・施設運営などを担うほか、個人ではライターとしても活動中。

レバーをひねればお湯が出る。コンセントにつなげば充電ができる。今や、熱や電気などといったエネルギーは、私たちの生活に欠かせないものであり、スイッチ一つで享受できる”当たり前”の存在です。しかし身近にあるがゆえに、私たちがエネルギーを享受するまでのこと、消費した後のこと、その前後にある問題や課題を見過ごしてしまっているのかもしれません。

そして、少し視点を変えることで見えてくるエネルギーの可能性もあります。株式会社sonraku(以下、sonraku)は、岡山県西粟倉村を拠点に、木質バイオマスを用いたエネルギー事業に取り組み、今年で9期目を迎えます。代表の井筒耕平さんにお話を伺いました。

民間企業×行政で取り組む西粟倉のバイオマスエネルギー事業。

2012年、井筒さんは当時地域おこし協力隊として活動していた岡山県美作市で創業しました。元々バイオマスエネルギーのコンサルタントをしていた井筒さんは、林業の現場を実体験を通して知りたいという目的で協力隊に参加。3年間の任期を経て次なる拠点として選んだのが、同県西粟倉村(以下、西粟倉)です。

2014年からは行政と連携しながら村内の温泉施設3カ所への薪ボイラーの導入を進め、その内「あわくら温泉元湯」は、2015年より完全独立事業としてsonraku(当時の社名:村楽エナジー)が運営を担い、宿と温泉・カフェを併設した地域住民や移住者、西粟倉を訪れる人々の集いの場となっています。2018年には、村全体で取り組む新たな試みとして、地域熱供給事業も始まりました。

井筒さん:
「地域熱供給というのは、まず一カ所でボイラーを焚いて、そこで熱したお湯を、地下を通る管を使って各施設に供給するという仕組みです。供給された熱(お湯)は、各施設で暖房に使われています。西粟倉では、保育園やグループホームなどで既に導入されていて、sonrakuではそのオペレーションを担当していました。温泉施設では”薪ボイラー”を使っていますが、地域熱供給では”木質チップ”を使っています」

取材日は、木質チップを乾燥させるための新たな機械の試運転が行われていました。

取材日は、木質チップを乾燥させるための新たな機械の試運転が行われていました。

近年、バイオマスエネルギーという言葉自体は様々なメディアで見聞きする機会が増え、実際に全国各地で取り組みが進んでいます。とはいえ、まだ私たちの日常生活の中で身近とは言えず、実際の現場の動きまでは想像ができません。sonrakuでは、どのような作業を担っているのでしょうか。

井筒さん:
「地域熱供給事業では木質チップ、温浴施設熱供給事業では薪を作って運び、機械を稼働させるところまで一通りの現場作業を行います。地域熱供給事業は、2018年に機械を導入し実際の運用も始まっています。事業としてスタートはできていますが、村内の木質チップの形状や乾燥度合いに課題があって上手く使えていなかったり、機械も細かな調整が必要だったりと現場の課題もあり、事業としてもまだ途中段階です。今後は、役場や小中学校にも導入していく計画です」

バイオマスエネルギー事業の先進地域である西粟倉でも、現場では日々試行錯誤が繰り返されています。井筒さんによると、薪を燃料として使う場合には、適正な大きさに割って乾燥させ、ボイラーの稼働中は火をこまめに管理するなど、作業が多岐に渡るそうです。こうしたバイオマスエネルギー導入の課題とその解決方法について、井筒さんはどのように考えているのでしょう。

井筒さん:
「バイオマスエネルギー事業はとても時間がかかります。順調に稼働させるためには、課題に対して向き合い続けなければならないのですが、そこまで行かずに諦めてしまう事例が多くみられます。専門の知識と技術が必要とされるバイオマスエネルギーを、たとえば行政の担当者一人で面倒を見る、というのは現実的ではありません。また、事業として黒字化することの難しさもあります。燃料の仕入れ単価や熱の販売単価を変えるのは容易ではないので、コストダウンするためには作業効率を上げる努力は必須ですが、投資も必要となるために難しい面もあります。

西粟倉の場合は2014年から、3年かけて3カ所の温浴施設に薪ボイラーの機械を導入する計画を立てて、その導入を進めながら次の動きとして2017年から地域熱供給にも取り組んできました。行政は機械の導入に投資し、民間企業である僕らはそのオペレーションを担うという役割分担です。設備が1つしかなければオペレーションも効率が悪いけど、行政が計画的に次の機械も導入してくれることで、少しずつではありますが事業性も上げることができます」

温泉施設に導入している薪ボイラーに薪を投入する井筒さん 写真提供:sonraku

温泉施設に導入している薪ボイラーに薪を投入する井筒さん 写真提供:sonraku

会社の変化と経営者としての葛藤、“新生”sonrakuとしての再構築。

バイオマスエネルギー事業だけではなく、そこから派生する宿泊・温泉事業、コンサルティング事業など様々な視点からエネルギー事業に取り組んできたsonrakuですが、2018年3月に、社名を「村楽エナジー」から「sonraku」に変更しています。昨年、社名の変更とともに、コーポレイトサイトも一新し、「火をおこし地域の熱を上げる」 というキャッチフレーズを掲げました。どのような経緯があったのでしょうか。

井筒さん:
「事業が成長し雇用するスタッフも少しずつ増えていく中で、宿の担当などエネルギー事業に直接関わらないスタッフも多くなってきました。社名に ”エナジー(=エネルギー)” と掲げていることが、実際の事業内容と合っていないような気がして。中身に合わせて、もう少しエネルギー寄りではない社名に変えようと思ったんです。結局はエネルギー事業をさらに進める方に舵を切ったので、今思うと変えなくてもよかったのかもしれません。でも、その時は悩んでいたんですね。

ちょうど自分自身も、家庭の事情などあって生活の拠点を神戸に移すという変化があった時期でもありました。このとき感じたのは、自分自身が現場にいないことの難しさです。西粟倉での地域単位で取り組む事業は、行政や現場で働く人など、いろんな関係者との協力体制が大事なんですけど、コミュニケーションが密ではなくなって、現場についてわからないことが増えました。そんな中で、西粟倉の熱供給の現場をスタッフに任せられるようになったことはすごく助かりました。現場担当のスタッフが、現場の生の声を拾ってオペレーションを効率化してくれたから、人件費も落とすことができて、事業としての利益の面でも改善されました。そして実は2021年1月に、西粟倉での“あわくら温泉元湯”の運営とバイオマスエネルギー事業全般を、新たに立ち上がった会社に事業承継を行いました。事業を引き継いだ(株)motoyuは、sonrakuの元スタッフが今回の事業承継に伴い創業した会社です」

温泉施設に導入している薪ボイラーに薪を投入する井筒さん 写真提供:sonraku

元スタッフが創業し、経営者として事業を引き継ぐという形はとても理想的であるように思います。事業とともに会社としても成長し次のフェーズを迎えているようですが、sonrakuとしてはこれからどのように考えていますか?

井筒さん:
「西粟倉での事業は、場をよく知り、責任を持って運営できる経営者にバトンタッチすることができました。sonrakuとしては西粟倉の現場からは離れることになりますが、全国を対象としたコンサルティング事業、さらには西粟倉や北海道をはじめ全国で、バイオマスコージェネレーションシステム(以下バイオマスCHP:Combined Heat and Power(バイオマス熱電併給の略称))事業にも挑戦し始めています。ある意味、第二の創業期というようなフェーズですね」

井筒さん自身も、また会社としても、変化の時期を辿ってきたんですね。その中で見えてきたのは、改めてバイオマスエネルギー事業を進めるという、創業期から変わらない姿勢です。

乾燥装置の実証実験に参加する井筒さん

乾燥装置の実証実験に参加する井筒さん

ビシネスとして成り立つバイオマスエネルギーが地域の熱を上げる。

今年から新たに取り組むバイオマスCHP事業、あまり聞きなれない言葉ですがどのような事業なのでしょうか。

井筒さん:
「これまでのバイオマスエネルギー事業では、薪やチップなどの木質バイオマスを使って、”熱”を生み出す事業に取り組んできました。今回新たに取り組むバイオマスCHP事業では、”熱”に加え”電気”を供給します。それを自治体と民間で協力して取り組んでいくのが、今回北海道厚真町や士別市で始める新たな事業です」

日本はまだLNG(液化天然ガス)や石炭火力に電力を頼っているのが現状ですが、特に2011年以降は再生可能エネルギーへの移行や併用の必要性も様々な場所で叫ばれています。社会的にも注目度が高まってきている中で、一民間企業であるsonrakuとしては、なぜ今バイオマスの発電に取り組み始めているのでしょうか。

井筒さん:
「日本はこれまで20年ほどバイオマスの熱利用に取り組んできましたが、自治体が率先して導入するモデルからは抜け出せていません。真剣かつ継続的に運営できる一部の自治体でしか導入できないことに限界を感じます。バイオマスエネルギー事業を広げていくためには、民間の資金を入れてビジネスとして成り立つ仕組みを作ることが重要です。

そこでビジネスとして考えたときに、熱の分野では灯油という圧倒的に低価格で取り扱いやすい競合の燃料があります。バイオマスが灯油に勝つのは価格の面で簡単ではありません。一方、電気は固定価格買取制度(*)があるので、固定価格で20年間売ることができます。化石燃料と価格勝負となる熱供給だけではなく、電気も発電させることで事業全体の売り上げが上がってくるので、民間が投資できるようになります。

しかし、木が持つエネルギーはバイオマスCHPでも電気20%、熱55%くらいの割合です。つまり、木質バイオマスの性質から考えると、本来は熱利用をメインに据えるべきなんです。熱プラス電気を発電することは今のルールの中で経済性を成り立たせるための一つの方法ですが、同時に電気だけでなく熱利用についても政策的にフォーカスしていく必要があると思います。

*固定価格買取制度(FIT)
太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスの再生可能エネルギー源を用いて発電された電気を、国が定める価格で一定期間電気事業者が買い取ることを義務付ける制度。「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(FIT法)」に基づき、2012年7月1日にスタートした。

2019年にイタリア・ボルツァーノを訪問した際に見学したバイオマスコージェネレーションシステム 写真提供:sonraku

2019年にイタリア・ボルツァーノを訪問した際に見学したバイオマスコージェネレーションシステム 写真提供:sonraku

民間企業の立場からバイオマスエネルギー事業の可能性を模索する中で、sonrakuが掲げるミッションが「火をおこし地域の熱を上げる」です。地域の熱を上げる、というのはどのような意味を表現しているのでしょうか。

井筒さん:
「地域が地域内の資源を最大限利用して温まる仕組みを作ろうということです。経済的にも精神的にも自立した地域の集合体としてのUnited states of japanが日本のサステナビリティ(持続可能性)を支えるはずと僕は考えているのですが、現状は全く逆です。もちろん地方創生に注目が集まっているのはいい流れですが、エネルギーの分野では電力にしても巨大な発電所に頼っていて、地域の外から買う燃料やエネルギーに頼っている状況です。一極集中ではなく、それぞれの地域内で資源を循環させる“エコシステム”としてのバイオマスエネルギー事業を育てていくことが必要だと考えています。

地域資源である木質バイオマスを使ってエネルギーを生み出し、地域内に供給することができれば、エネルギーをめぐるお金の流れを地域内の林業や製材業、エネルギー事業そのものに向けることができます。

地域資源と地域経済を同時に循環させることで、自立した地域を作ることができます。つまり地域の熱を上げることができる。それがバイオマスエネルギーの特性だと思います」

バイオマスエネルギーを手段に、新たなステージへ。

井筒さん:
「同じ再生可能エネルギーでも、太陽光、風力、水力等は資源の仕入れがありません。それに対してバイオマスはエネルギー源である木質燃料(チップや薪など)を仕入れないといけない。さらに木質燃料を仕入れるだけでも、林業の動きとエネルギーの動きの両方を見ないといけない。経済合理性だけの観点で言えば、再生可能エネルギーの中でも唯一仕入れが必要なバイオマスは、限界費用が高いということになり、あまりイケてるとは言えないんですよね。でも僕は、エネルギーだけの目線では見られないってところにこそバイオマスの面白さと大切さを感じています。エネルギーを生産した先にも、熱を使えば陸上養殖ができて水産業につながるし、集合住宅に熱供給すれば新たな不動産業にもつながる。つまり地域文化や産業を支えることにつながるのです。もちろん他の再生可能エネルギーを否定するわけではなくて、それぞれ強みが全く違うから、うまくミックスしていくのがいいと思っています」

バイオマスエネルギーは様々な分野とも重なり、人々の生活文化や産業にもつながる分、多方面の広い知識と経験、考察と実践の繰り返しが必要とされるエネルギー産業ですね。

井筒さん:
「例えば北海道だったら、まず北海道の林業、エネルギー事情を知らないといけないし、その上でじゃあどこに機械を入れてどんな仕組みを作るべきか考えないといけません。特に北海道の森林は、範囲も樹種も、本州とは全く違います。さらに、冬が長く平均気温が低い北海道では、本州とは比にならないくらいの灯油を使っているんです。住宅を暖める熱の需要がかなり高いと言えます。環境や産業、日常生活さえも本州とは異なる北海道は、特にゼロベースで考える必要があってすごく大変ですが、だからこそ面白いしやる意味があるとも感じています。最近は、改めて木や林業のことに想いを馳せるようにもなりましたね。バイオマスエネルギー事業に取り組むことで、北海道林業をよりよく変えることにもアプローチしたいと思っています」

岐阜県にて林業関係者への現場での取材 写真提供:sonraku

岐阜県にて林業関係者への現場での取材 写真提供:sonraku

これからますます事業の幅も広がっていきそうですね。エネルギーのことをやっているけれど、エネルギーだけじゃない。sonrakuという社名が今だからこそ馴染んできているようにも思います。

井筒さん:
「バイオマスエネルギー事業をやることは目的ではなく、手段です。熱のある自立した地域を作りたいし、そこで面白いことをしたい。今僕が経営者としてビジネスをしているのも、同じように手段です。別に僕が研究者であっても行政職員であってもよかったんだけど、たまたまビジネスという手段を選んでいるだけです。これからもバイオマスエネルギーやビジネスを手段として、そこから派生する事業をいろんな分野と関わり合いながらやっていきたいなと思っています。」

「ローカルエネルギーが暮らしにある未来」第2回目以降では、sonrakuが取り組むバイオマスエネルギー事業について、より詳しくご紹介します。

文:諸岡 若葉
写真:諸岡 若葉、sonraku

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