日南くらし02 今だからできる大学生と地域の新しい関わり方
1991年生まれ。熊本県出身。大学時代を過ごした宮崎に惚れ、宮崎で生きていくことを決意。東京で宮崎野菜の販売を行うベンチャー企業で働いた後、宮崎にUターン。日南市で地域おこし協力隊としての活動を経て、現在は施設運営やイベントの企画運営など、地域プロジェクトを複数展開している。
地域に通うことができないのであれば、地域に暮らそう。日南市で大学生のための地域留学プログラムが生まれました。2020年、大学生は新型コロナウイルスの影響で大学に通うことができなくなりました。
できなくなったことを悔やむより、今だからできることを考えて、動こう。そうやって生まれた「ヤッチャの学校」は大学生と地域に様々な価値を与えました。
ヤッチャの学校について
「ヤッチャの学校」は ” 地域に通うのではなく、地域に暮らしながら学ぶ ” をコンセプトにした最大5ヶ月間の地域留学プログラムです。コロナ禍で授業がリモートになり、大学生は学校に通うことができない日々を過ごしました。サークル活動や学生活動ができなくなり、鬱になる大学生が増加し、社会問題となりました。そんな中で、オンラインイベントが増え、地域に関わりたい大学生の相談にのることが増えました。多くの相談が「地域に関わりたいと思っているが、こんな状況でどうやって地域に関わればいいのか?」というものでした。そこで私から提案できる選択肢は大きく2つでした。1つ目は、フルオンラインで関われる地域を見つけること。2つ目は地域に通うのではなく、暮らすということ。
緊急事態宣言が発令され、地方では地域外からきた人を警戒するような雰囲気になりました。しかし、地域内の人に関しては、そこまで警戒をすることなく生活ができていたのが当時の日南市でした。通常であれば、大学の近くに住む必要がありますが、授業がリモートなのであれば全国どこからでも授業を受けることができます。今の状況を逆手にとって、地域に移住してみては?と大学生に提案する中で、私が住んでいる地域で受け入れる体制をつくろうと思い立ったのが、2020年の8月でした。
2020年度の後期授業が10月から始まるのに合わせてスタートさせようと、私が代表を務める日南市のローカルメディア「ヤッチャ!」の運営チームで動き始めました。私たちだけではリソース不足であることと、参加者の信頼を得ることが難しいのではないかと思い、行政関係者に相談し、日南市ローカルベンチャー事務局と協力してスタートさせることになりました。
必要なのは大学生が暮らす場所と、カリキュラムです。それがあればリリースして、大学生を募集できると考え、コンセプト設計から始め、ホームページ作成まで行い、着想から2週間でプログラムをリリースしました。これができたのはベンチャー行政と言われることもある、日南市のスピード感あってこそだと思います。
学生たちが取り組むこと
全国に募集を呼びかけ、多くのメディアに取り上げていただき、最終的に集まった参加者は6名でした。参加者はそれぞれ、北海道、東京(2名)、兵庫(2名)、沖縄の大学に通う大学生です。Twitterや、取材記事を読んで応募してくれた学生がほとんどでした。3年生が4人と1年生が2人。1年生は一度も大学で授業を受けたことがなく、学校に全く友達がいないという状況でした。大学に入って最初の同級生が日南でできるね、と学生たちに話をしたことを覚えています。
「ヤッチャの学校」に参加する学生は、それぞれの授業をリモートで受けながら参加するため、固定のカリキュラムはあまり多くはありません。地域で活躍する人から月に2回講座を受けることと、月に1回のフィードバック会以外はそれぞれ任意の活動です。フィードバック会とは、1ヶ月の振り返りと、残りの期間の過ごし方について、スタッフからフィードバックを受ける時間です。固定のカリキュラム以外では、地域の企業でのインターンシップ、アルバイト、地域イベントのお手伝い、地域の方との交流など、運営スタッフが持っている地域の繋がりを活かして、参加者が興味のあることに取り組んでもらいます。地域活性に興味があり参加している学生は、まちづくりに関わる会社でインターンシップをしたり、政治に興味がある学生が、市長選挙の公開討論会のスタッフになったり、様々な場所で活躍してくれました。
地域での住まいは、日南市の商店街の中にあるゲストハウスです。学生6人での共同生活です。コロナ禍において宿泊業は大きく影響を受けており、宿泊客が激減していました。利用者が減少しているゲストハウスを大学生の住まいとして活用することで、ゲストハウスとしても安定的な売り上げが生まれる仕組みです。
「ヤッチャの学校」は、地域での体験や、地域の人たちとの出会いが大きな価値ですが、それと同じぐらいか、一番大きな価値と考えているのが、この学生たちによる共同生活です。これまで実家でしか暮らしたことがない、あるいは一人暮らしはしたことがあるが共同生活をしたことがない、といった学生がほとんどでした。
共同生活の中では、人によって生活の基準が違うことが分かります。掃除の頻度や、共用スペースの使い方や、音の問題など、実際に学生たち同士で、不満が上がることもありました。普段家の外で会う友人であれば、多少気になることがあってもわざわざ指摘せずに、そのまま許容することが多いと思います。しかし、共同生活の中ではその不満をなくすために、自分の気持ちを伝え、相手の気持ちを考え、話し合いをする必要があります。必要があればスタッフが間に入り、それぞれの気持ちに向き合いました。
学生たちはこれまでの生活では考えられないほど、人と生き方の話をし、人の気持ちに向き合ったと言います。それぞれの経験を通し、プログラムの終盤には、学生同士で対話をするようになりました。人の気持ちに向き合うことは、自分の気持ちに向き合うことであり、「ヤッチャの学校」の本質はそこにあると思っています。
参加した学生の声
こうして、10月から2月まで開催した「ヤッチャの学校」。実際に参加した学生に話をきいてみました。 宮崎出身で、兵庫の大学に通う大学3年生の村田くんは、”むらたか”というニックネームでみんなに呼ばれています。村田くんは全期間参加した学生のひとりです。参加しようと思ったきっかけと実際に感じたことはどんなものだったのでしょうか。
村田くん:
「将来、都会に住みたいのか地方に住みたいのかが分からなかったため地域での暮らしを改めて体験したいと思い参加しました。実際に日南市に住んでみて、都会だとか地方だとかは関係ないなと思いました。ここでは東京で働いていた人の話も聞きましたが、都会は満員電車で、夜遅くまで働いて、そのあと飲んで、帰ってすぐ寝て、また満員電車…が続くと思っていたけれど、それは違うのかもしれない、というのが1つ。もう1つは、僕が暮らしたいのは、都会・地方に関係なく、“知り合いが住んでいるまち”に住みたいということでした。僕の中にあった地方のイメージは、挨拶をしたら返ってくる、まちの人たちを知っている、というイメージで、それが僕が求めていたもので、都会だからできないという訳ではないと知りました」
参加してみて得たたくさんの“気づき”はどうやってもたらせたのでしょうか。
村田くん:
「ヤッチャの学校では、とにかく色々な人と話をすることができ、多くの人と関わることが大事なんだと知ることができました。また、対話が得意な大人に出会って、みんなで対話を重ねるうちに、表面上の会話ではなく、心の中から話せる人の存在が自分の人生を良くしていく上で大事なんじゃないかなとも思いました」
大学生が地域で暮らすことの価値
参加した大学生達は「人生で一番濃い時間を過ごした」と言います。多くの人と出会い、経験をした時間は大学生にとって人生の財産になることは間違いないです。「ヤッチャの学校」は移住を目的としたプログラムですか?と聞かれることが多いですが、私はそうは考えていません。ただ、宮崎県日南市が彼らにとって大切な場所の1つになればと思っています。参加者の中の1人は、実家が東京で”ふるさと”と呼べるような場所がないと言っていました。少なくとも、その子にとっての1つの ”ふるさと”がここ日南市にできたと思っています。
また、「ヤッチャの学校」では地域の大人達が本当に楽しそうに、大学生と関わっていました。日南市には大学がありません。20歳前後の若者が地域に関わり、積極的に活動をしてる姿を見るだけで地域の大人達は嬉しい気持ちになります。最初は運営スタッフが繋がないと、地域との繋がりはありませんでしたが、プログラムが進むに連れ、私たちが知らないところで自ら繋がり交流をしていました。2021年3月で「ヤッチャの学校」一期生がそれぞれの場所に帰っていくのを、地域の大人達はとても寂しがっています。
コロナ禍で生まれた「ヤッチャの学校」。学生にとっても、地域にとっても大きな価値を生むことが分かりました。そして、まだまだコロナ禍は続きます。ヤッチャの学校は二期を実施することを決めました。地域で共に暮らして、共に学ぶ学生を募集しています。興味がある方はご連絡お待ちしております。
写真・文:杉本恭佑
リンク:
ヤッチャの学校
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