笑顔はたのしい畑から!
平日は中央省庁へ勤務、休日は農ライフサークル「NINO FARM」で野菜作り。フードアナリスト、 野菜ソムリエ等の資格を活かし、食生活ジャーナリストとして新聞・雑誌の記事執筆やレシピ作成などを通じて、全国の美味しい食材の魅力を発信している。note:https://note.com/junko_matsumoto
埼玉県草加市。農園「チャヴィペルト」は東京のベッドタウンとして発展してきた街にあります。草加駅から徒歩で7〜8分歩くと、住宅街にぽっかりと畑が広がっているのです。農園のオーナーは中山拓郎、かんな夫妻。私たち『NINO FARM』はこの畑の一角をお借りして、仲間と週末農業ライフを楽しんでいます。
まずは『NINO FARM』の自己紹介から。
『NINO FARM』とは「NI=日本の、NO=農業について考える、FARM」。発起人は農林水産省に勤務する二宮聖也(初代農園長、現在は海外赴任中)。消費者は日々の食について考えることがあっても、その “向こう側” にある農について考える機会は少ない。私たち自身も農について考えるのに、自分たちが体験しなければわからない!と感じていました。
そうしたなかで2017年、NINO FARMは ”普段、土に触れない人たちでも気軽に楽しく、関わり合う場を東京につくろう“ というコンセプトで発足しました。現在の農園長は同じ農林水産省に勤務している二代目の大城秀斗で、主に毎週末の土曜日に活動しています。
Facebookなどを通じて週末農業を発信するとすぐに「自分も参加したい」という声を多くもらいました。官公庁やIT企業で働いている人、料理人、学生など、参加者の背景は様々。千葉や埼玉の棚田で米作りをしたり、料理イベントを通じて収穫した野菜を楽しんでもらうなど、活動内容は多岐に渡ります。
メインの活動は野菜作り。参加は基本的に自由。主要メンバー数人+参加したい人に自由に来てもらう、という仕組みです。敷居を下げるために服装も汚れてもいいものであればOKとしています。1年目は世田谷、2年目はJR恵比寿駅の屋上にある「ソラドファーム」さんの一角を借りて活動を行っていました。
一般的な農作業のイメージは “大変そう” 。私たちもはじめる前はそう思っていましたが、実際にやってみるとその認識は変わりました。もちろん、生業としての農業ではないからですが、楽しむための農であれば “意外とできるな” という印象です。農業の魅力は言葉では伝わらず、体験してもらうのが一番。
NINO FARMでは野菜づくりから食卓までの流れを大切にしています。収穫した野菜をみんなで食べるイベントや棚田で収穫したお米を食べる「Black rice party」など集まれる機会を作っています。
3年目にあたる去年、借りていた農園との契約が切れ、今後のことを検討していたところ、農園「チャヴィペルト」のオーナーである中山夫妻から声をかけていただいたことがきっかけで、NINO FARMは草加に引っ越しました。
はじめて畑を訪れた時の印象は、「絵本に出てくる畑みたい」。畑には野菜や調味料、お惣菜が買えるお店が併設されていて、お昼時には近隣の方々で賑わっていました。お惣菜やお弁当を作っているのは奥様のかんなさんで、このお弁当が絶品!今は午前中に集まって農作業をし、お昼はこのお弁当をみんなで食べて解散という流れです。
チャビベルトがある草加市は都心に近く、アクセスのいい場所です。農業の形態としては最近、注目されている都市農業にあたります。都市農業とは「市街地及びその周辺の地域において行われる農業」(都市農業振興法第2条)のこと。農林水産省の「都市農業の情勢」という資料によると都市農業の機能は
1 消費地に近いため、新鮮な農産物を供給できる
2 農業体験、交流活動の場
3 心やすらぐ緑地空間
4 都市住民の農業への理解の醸成
5 国土・環境の保存
6 災害時の防災空間
などとされています。
チャビベルトの畑の一角にあるNINO FARMの話をすると「駅から5分で畑があるなんて」とみんな驚きます。近くに畑があっても身近過ぎるがゆえに気づかないのかもしれません。 NINO FARMの活動を通じて、食と農の距離について私たちが気づいたことがあります。
例えば、都心から1時間あれば千葉や埼玉の畑や棚田に足を運べるのです。つまり、遠いのは距離ではなく、精神的なハードル。接点さえできれば心の距離は縮まるのではないでしょうか。NINO FARM×チャヴィペルトでつくり続けていきたいのは、みんなが集まれる畑です。
NINO FARMのコアメンバーには農林水産省の職員がいますが、参加者には他省庁の職員もいて、共通の課題について語り合う場にもなっています。もちろん、無関係な仕事をしている人たちとプライベートな話もしますし、草加市の方が訪れ、オススメのお店などを教えてくれたこともありました。さきほど都市農業の6つの機能について触れましたが、それだけでなく、畑はコミュニケーションの場として適しています。
農園長の大城に今後の取り組みについて聞いてみました。
「つくる野菜については食卓=料理までを念頭においてやっていきたいですね。例えば〈カレーをつくる〉という風に掲げてそれに適した野菜を作付けし、みんなで食べるという風です。もうひとつは農業×アウトドアという切り口にも注目しています」
農の魅力は言葉では伝わりません。体験してもらってはじめて「いただきます」の向こう側を感じることができます。それ以上に都市の暮らしのなかに農を取り入れると「たのしい!」のです。草加市にあるチャヴィペルトの畑の一角から今日もそんなことを発信しています。
文・写真:松本純子
リンク:
チャヴィペルトHP