ローカルニッポン

地域に生き、地域を生かす人たち

書き手:大久保美海
宮城県在住。大学生。生活と犬が好き。
散歩をしたり川を見たり、暮らしの何気なさを大切にしています。普段は大学に通いながらちいさな詩や音楽を制作する日々。無印良品の「素」にこだわる姿勢をヒントに、生活の礎を築いています。

仙台市の隣町、豊かな風土と豊かな農水産物を誇る名取市。東北の空の玄関口である仙台空港も所在しているなど人の往来が多くある街でもあります。

東部は太平洋に面しており、毎日新鮮な海産物が水揚げされています。特にしらすは名取が誇る海産物の1つで、多くの人から愛されています。さらに、この地域が誇るのは海産物だけではなく、内陸部における農業や古くからある歴史遺産など、かけがえのない地域資源が数多く残っています。

そのような恵まれた土地で、その土地で生きるモノ、人にスポットライトを当て続ける人に出会いました。 地域という舞台上で、それぞれの個性を持った生産物をジェラートという媒体で輝かせたい。そう語るのはジェラート店Natu-Lino(ナチュリノ)を経営する鈴木知浩さんです。

「Natu-Lino」とはNatural(自然で飾り気がない)とLino(ハワイ語で光輝き未来へつながる)の造語で、その語源はここ、名取からきています。

鈴木さんがその土地で生まれたものに対して、どうして光を当て続けるのか、その意味とNatu-Linoの在り方を伺いました。

名取、そしてあたたかい人

実際に私が取材に伺った時のことです。
「ごめん、ナン作ってた」と笑いながら、ある男性が出迎えてくれました。強そうな見た目で、でも優しい笑顔でくしゃっと笑う方。Natu-Linoの社長である鈴木知浩さんです。

鈴木さん:
「今日はスタッフが多いからみんなにまかない作ってあげようと思って。カレー作ろうと思ったんだよ。午前中のうちに作ろうと思ってたんだけど、思ったより生地が粘っちゃって」

手にナンの生地を握って歓迎してくれた鈴木さん。きさくな笑顔で出迎えてくれた鈴木さんの表情を見て、私はすぐに人柄がわかってしまいました。きっと誰かのためになることに生きがいを感じ、それが楽しいと感じることのできる人なのだなと。

作れるものはなんでも作ってしまう勢いや、美味しいと食べてくれるのなら喜んで働きますよ!という威勢の良さはとても頼もしかったです。

Natu-Linoは地域の小さなジェラート屋さんです。
その素材のほとんどは地元宮城県の県産品を用いており、契約農家さんはよく顔の知れた人たちであるといいます。地場産作物を自身のジェラートという媒体に積極的に使うことで、ジェラートを食べに来たお客様へ、ジェラートを食べること以外の付加価値を提供しています。その付加価値というのは、こだわり抜いてつくられた作物の魅力やそれを生産した人達の想いです。Natu-Linoでは、ジェラートを通して、その価値を伝えたいと考えています。それは生産者の顔や想い、こだわりの詰まった個性豊かな作物の魅力をお客様に届かせたい、という鈴木さんの想いからでした。

お店の中心には個性あふれるジェラートが並びます。

お店の中心には個性あふれるジェラートが並びます。

わたしたちは、田舎ものであり続けたい

鈴木さん:
「ここは田舎ということもあって、生産者が身近に存在しているのは何も特別なことでは無く、むしろ大前提なんです。だからこそ僕たちは生産物を店で買う必要もないと思っています。生産者独自の手法や思い入れは、生産者さんの持つ愛情や人柄として大切にして発信していきたい。生産者さんからしたら自分の作物がその性格を知られず、流通することに一物の寂しさみたいなものを持っていたと思うんです。だからその役を僕らが買って出ました。

そこでユーザーの皆さんには、生産物は一つの作品であってその作品は作る人によってまるで別のものになるということを知ってほしいんです。派手さはなくとも実直にものと向き合う東北人の人柄も含めて知ってほしい。そういうものを食を通して伝えていくのが僕たちにできることなんじゃないかな」

その場所でじっと、あるものを信じ続ける強さ。派手さはなくとも実直で、頑固で、勤勉であること。
東北人のこういう朴訥さというものも誇れる一種の強みであると鈴木さんは語ります。そしてそういう東北人の生き様を感じてもらいたい。そのような想いでジェラートづくりに励んでいます。

ジェラートという媒体は目新しいものに感じますが、本質は「ジェラートの外面だけではなくてその味に秘められた内面を見てほしい」というNatu-Linoの想いが込められているのです。

僕らは決して主役になりたくない

鈴木さん:
「元々僕はアイスクリームの卸売業をしていました。でもそこで仕事をしている中で、どうしても生産者の方の個性が流通経路の中で失われていることに気づいたんです。だから僕はジェラートという媒体を選びました。味が素直に伝わりやすいというのもあるし、生産者のこだわりをダイレクトにお客さんに伝えることもできるのがジェラートでした。今はジェラート1つに焦点を当てるだけではなく、地元のパンセさんというパン屋や、宮城県農業高校さんと共同で新しい製品開発も行っています。そんなふうに、その土地にある良いもの、良い人達と僕らの考え方を共有できることはすごく意味のあることだと思っています。そうすることで僕らの関わっている生産者さんの想いも相手にしっかり伝えることもできる。そしてそれが自然と地域に広まっていく。そして生産者さんは僕らのところじゃなくて、生産者さんそれぞれの場所で花開いています。僕はそれを見るのが本当に嬉しいんです」

嬉しそうに話してくれるNatu-Lino社長 鈴木知浩さん

嬉しそうに話してくれるNatu-Lino社長 鈴木知浩さん

自分たちはあくまでも主役を引き立てる役であり、光を灯す存在なのだということを鈴木さんは大切にしています。しかし、そのように考えられるということは、主役である生産者と生産物に愛情を持ち、心から共感しなければ成し得ないことではないでしょうか。

Natu-Linoの地域に対する向き合い方は地域コミュニティを構成する一員として非常に大事な役割となっています。地域のリーダーになるというわけでもなく、あくまで自分たちはジェラートという形をもって、土地柄や生産者の人となりを表現しています。

鈴木さんは自身のことを「コンポーザー」として位置付けています。コンポーザーとは編集者や指揮者という意味で、生産者を主役とするならば、Natu-Linoはその主役を引き立てる照明係のようなポジションです。名取という資源豊かな素晴らしい舞台上で、コンポーザーが主役を目いっぱい輝かせる。そうすることでそれを見た観客(消費者)はその作品を好きになり、地域をもっと知ろうとする。このサイクルが自然に人と人とを繋ぐきっかけとなっています。

鈴木さん:
「僕らは決して人を意図的に集めようと思ってはいないんです。人が集まる時って魅力のあるものを信じている人が少しずつその良さを共有しあって広がっていくものだと思う。だから自然に人の輪って広がっていくものだと僕は思います」

集客という言葉がありますが、Natu-Linoは人を集めるのではなく、集まってくるのをじっと待つというあり方をしています。そして望み続けていることは、自分たちの製品から地域の良いものをお客さん自身が「良い」と感じてもらうこと。生産者を知り、そしてその土地を好きになってもらうということです。ここにお客さんが集まってくるのは、ジェラートという一つの食事体験を通じてお客さんが味だけではなくNatu-Linoの思いに共感しているからなのではないでしょうか。そしてそれはNatu-Linoが届けたい生産者の想いも一緒に、消費者に伝わっています。そのような、ジェラートを食べて満足するということだけではない付加価値をNatu-Linoは体現しているのです。

実際にジェラートをいただきました。

Natu-Linoのジェラートは、素材そのものの個性がそのまま味に反映されています。そのものの味を引き出すことを最優先に、無理な手を加えない。そうすることで生産者が望んだ「作物の個性を発信したい」という想いごとジェラートで表現されていると感じます。

実際に食べてみると、不思議なことですが、このジェラートができるまでに関わったあらゆる人の想いが感じられ、「美味しい」という言葉が自然に発せられました。本当に果物をそのまま食べているかのような、シンプルで繊細な味わい。使われている果物や牛乳、野菜などはこだわりを持った生産者からの貴重な素材であり、その素材がダイレクトに主役として顔を出す不思議なジェラート。この一口に様々なメロディーや物語が浮かび上がってくるように感じられ、特別な体験をしているような気持ちにさせてくれます。

実際にいただいた宮城県登米産のパッションフルーツのジェラート。

実際にいただいた宮城県登米産のパッションフルーツのジェラート。

鈴木さん:
「作る人によって作物は全く別のものになるんです。同じ種から作っても、育った先には別の個性をもった顔がある。そういうものをわかってほしい。私たちの契約農家さんたちは本当にたくさんのこだわりを持って作られているので、そのこだわりを皆さんにも知っていただけたら嬉しいですね」

人の手によって握られたおにぎりの味がそれぞれ違うように、同じ品種であっても最終的な産物はまるで別物です。Natu-Linoが伝えたかったのは、その人の思いがそのまま作物の性格になっていくということです。どんな生産物も、辿っていけば生産者にたどり着きます。だからこそ生産者の想いを大切にしているのです。

玄関先の鈴木さんが仕入れたメロン。とてもいい香りがしました。

玄関先の鈴木さんが仕入れたメロン。とてもいい香りがしました。

Natu-Linoが目指すもの

鈴木さん:
「僕たちがやっていることとか想いはやっぱり途絶えさせたくないと思っています。だから今この地域コミュニティの中で僕たちの仕事がいつも魅力的じゃなきゃいけない。子どもたちにもそういう仕事もあるんだということを知っていてもらいたいし、将来僕たちのような立場に立ってここのいいものを発信してほしい。そして僕たちもこれからこの地域にとって無くてはならないものとしてあり続けたいです」

地域の宝を守り、発信してゆく。
Natu-Linoはここ名取で、派手に着飾ることをせず、人に誠実に、生産者と素材の良さを発信していきます。そしてその一つ一つのかけがえのない作品を照らし続ける地域の灯台としてあり続けます。

文・写真:大久保美海

リンク:
Natu-Linoホームページ