ローカルニッポン

カラフル(多様)な笑顔が、輝く世界へ。

書き手:木場千絵
プランツショップon the leaf代表
福岡県福岡市在住 『植物を暮らしに取り入れる楽しみを売る』をモットーに、豊かな時間を作るお手伝いをしています。レインボープライドやLGBTQのブライダルの装飾を担当。
http://ontheleaf.com

2021年1月に行われたその結婚式はたくさんの祝福と喜びの涙に包まれていました。
結婚式は、和やかな雰囲気で終了し、今までたくさんの結婚式に携わってきた私には、いい意味で『普通の』結婚式でした。しかし、二人は『本当に』結婚することは出来ません。なぜなら二人は、同性のカップルだからです。後日、二人は自宅の庭にタイムカプセルを埋めました。タイムカプセルを開けるときに、『本当に』結婚出来る日が来ていることを願って。

この二人の結婚式のサポートをしたのは、「Marriage Rings 4LGBT」というLGBTQの結婚サポートを行うチームです。2015年に福岡市で設立されました。

設立者は、同じ年に博多区冷泉公園で開催された「九州レインボープライド」の実行委員長、2018年に設立したLGBTQに関する啓発活動を行うNPO法人「カラフルチェンジラボ」の代表を務める三浦暢久さんです。

三浦さんは、宮崎県日向市に生まれ育ちました。自分自身の性を自覚すればするほど、地元が窮屈に思えて、福岡という新しい場所に身を置くことを選びました。個人的な見解ではありますが、福岡という場所は、韓国や中国など、アジアの国とも近いこともあり、九州の拠点としてのみならず、アジアの玄関口として、人種や文化を柔軟に受け入れられる街なのではないかと感じます。三浦さん自身も福岡の人たちは、思いを理解してくれる人が多く、差別や偏見が起きにくい街なのではないかと話します。

レインボープライドは、全国各地で開催されていますが、福岡で開催される『九州レインボープライド』は、ひと際温かくアットホームな雰囲気なんだそうです。それは、福岡という街の土地柄なのかもしれません。福岡で開催するイベントではありますが、『九州レインボープライド』という名前をつけたのも、福岡だけではなく、自分のように違う地域にも当事者はいるのだと、そんな風に感じて、九州全体を巻き込むイベントにしたいという思いからです。

あなたの性は、いろんな性のほんの一部です

LGBTQとは、Lesbian(レズビアン)、Gay(ゲイ)、Bisexual(バイセクシャル)、Tranagender(トランスジェンダー)、Queer(クイア)やQuestioninng(クエスチョニング)の頭文字をとった言葉で、性的マイノリティを表します。どこかで聞いたり、見たりしたことのある言葉ではないでしょうか。日本におけるLGBTQの人口は、約9%(11人に1人)と言われています。これは左利きの人とほぼ同じ割合です。その中で誰にもカミングアウトしていない割合は6割~7割と言われています。意外に多いなと感じたのではないでしょうか。『見えない』=『いない』ではないことを意識してみてください。

あなたが知れば、安心が生まれる

先述の三浦さんが代表を務める「カラフルチェンジラボ」は、福岡県を中心にたくさんの教育現場で、LGBTQを正しく理解してもらうための講演会を行っています。    

三浦さん:
「LGBTQ当事者達のほとんどが幼少期から思春期に苦しい思いを抱えた経験を持っている。自分もゲイだと自覚したときは、学校にも家にも居場所を感じることができず、生きることにすら、迷いがありました。もし両親や学校の先生にLGBTQの知識があったら、あんなに苦しまなくて済んだのかもしれない…そんな思いがこの活動の背景にあります」

大人には、違和感や抵抗感があることも、思い込みや偏見が少ない子供たちには、その意味を柔軟に理解し、当たり前のことと考えられる素地があります。三浦さんの話に真剣に耳を傾け、たくさんの質問をしてくれるのだそうです。他人事ではなく、自分自身や自分の大切な人の問題としてどう取り組むべきか、考えるきっかけとなるこの講演活動は、地道ではありますが、確実に私たちの意識を変えていくことに繋がっています。

真剣な表情で、話を聞く子供たち。質問も多く積極的な姿勢に感動することも。

真剣な表情で、話を聞く子供たち。質問も多く積極的な姿勢に感動することも。

これまでは、触れにくかった性に関する話題ですが、性のあり方に関する理解や知識がアップデートされ、教育現場や職場、家庭など多くの場所で多様な性について考えることや、誰もが自分らしく生きていける社会の実現が当たり前のように求められるようになってきています。教育現場でも「〇〇ちゃん」、「〇〇くん」という呼び方から、「〇〇さん」という区別のない呼び方になったり、制服を男女の区別なく選べるようになったり、LGBTQについての授業が取り入れられるなどの変化が生まれています。

福岡市のWEBページ。レインボーに染まる市章

福岡市のWEBページ。レインボーに染まる市章

レインボーシティを目指して

福岡市は、LGBTQの人たちが普通に暮らせる「レインボーシティ」を目指し、2018年4月に性的マイノリティのカップルをパートナーとして認めるパートナーシップ宣誓制度を導入しました。その導入の影には、カラフルチェンジラボをはじめとする当事者団体の働きかけがありました。自治体としては7番目、政令都市としては札幌に続く2番目の導入となり、2021年6月までで100組のカップルがこの制度で公的に認められました。この制度の導入で、パートナーと認められたカップルは、市営住宅の入居や市立病院での病状説明、手術の同意などができるようになりました。これを機にカミングアウトして受け入れてもらったというカップルもいるそうです。長い間苦しんできた当事者達にとっては、公的に認められるという安心感は大きなものであることは確かです。宣誓制度を導入する自治体も増えて、今は制度を導入している自治体(※協定を締結している自治体に限る)への転居の際に受領書を返還せずに、転居先で継続使用できる都市間相互利用も可能になりました。

三浦さんたちと福岡市との取り組みは、これにとどまらず、LGBTQの相談窓口の開設、交流会の実施などに及んでいます。「市職員の為の性的マイノリティハンドブック」の作成、市職員の制服の共通化、パートナーシップ宣誓をした職員に対しては、結婚休暇に準じるパートナー形成休暇が取れるようにもなりました。一歩ずつですが、この取り組みがレインボーシティのモデルケースとして、国内やアジアの都市にも広がっていくことを期待しています。

住まい探しという大切な場面でも、三好不動産(福岡市)との取り組みが進んでいます。福岡市で創業71年の三好不動ですが、「超・不動産宣言」というビジョンのもと、不動産の管理や仲介という枠を超え、それまでも高齢者や外国人、DV被害者や被災者などの住宅支援に取り組んできました。2016年よりLGBTQ向けの賃貸物件の紹介をはじめ、住宅ローンや住宅の相続の問題解決のためのセミナーなどを福岡市の支援を受けてスタートしています。住まい探しの壁を解消する「みんなの住まい」というLGBTQの住まい、引越しをサポートするプロジェクトに発展し、その一連の活動は同性カップル向けの住宅ローンを取り扱う金融機関の増加に繋がり、さらなる安心を生んでいるのです。LGBTQの取り組みが評価され、PRIDE指標2021で最高評価の「ゴールド」を受賞しました。

しかし、こうした取り組みがあっても、まだたくさんの問題が残されています。
福岡市のパートナーシップ宣誓制度には、法的な効力はありません。異性であれば、問題なく認められる、「婚姻」という制度。そもそも婚姻の制度自体必要なの?と思う人もいるでしょう。しかし婚姻という制度で、認められる権利や保護は、70以上にも及びます。異性のカップルであれば当たり前の権利を、婚姻が認められない同性カップルは、享受できないのです。現在、同性婚が認められている国は、2021年9月に国民投票で認められたスイスを含め30か国にのぼるそうです。なぜ日本ではいまだに同性婚が認められないのか?住まい探しなどもなお法律や制度における難しさがつきまといます。法律を変えることは、とても時間のかかることですが、LGBTQへの理解を深めていくことで、理不尽な法律に疑問を感じ、少しでも早く改善しようという機運が盛り上がることを願います。

レインボーフラッグは世界中の人たちの「ひとりじゃないよ」というメッセージです。

レインボーフラッグは世界中の人たちの「ひとりじゃないよ」というメッセージです。

11月には「九州レインボープライド」がオンラインで開催されます。例年であれば、たくさんの参加者たちがレインボーの旗を手にパレードを行いますが、コロナ渦では叶いません。開催に先立ちウェブ上では、「レインボーマッピング」という企画が始まっています。LGBTQ当事者が、自身の住む場所にレインボーフラッグを立てます。支援者が、応援のコメントを添えてフラッグを立てることも可能です。お互いの存在を確認しあい安心感を持ってもらう取り組みです。

この夏に開催された東京五輪は、『レインボーオリンピック』と海外で称賛されているそうです。その理由は、180人以上もの選手がLGBTQを公表したからです。これは、前回大会の実に3倍にも及びます。LGBTQを公表した選手たちの思いも、この「レインボーマッピング」と同じく、『ひとりじゃないよ』『もう出てきていいんだよ』というメッセージなのです。

いつか『本当に』結婚しようと誓い合った二人。

いつか『本当に』結婚しようと誓い合った二人。

冒頭の結婚式を挙げた二人は、「同性を好きと感じる子供たちが、一生の孤独を覚悟しなくていい社会が来るまで、自分たちにできることをしたい。」と決意しています。

三浦さん:
「国籍、ジェンダー、年齢など偏見や差別は、至る所に存在します。LGBTQの啓発活動は、それらに包括的なアプローチができる活動だと思います」

三浦さんの目は、LGBTQという枠を超え『すべての人がありのままの自分で生きられる社会の実現』という目標に向けられています。そんな三浦さんの思いに背中を押された二人の結婚式は、またほかの誰かの勇気の一歩に繋がっていくのです。

文・写真:木場千絵 (冒頭と末尾の写真 マスダヒロシ)

リンク:
NPO法人カラフルチェンジラボ