ローカルニッポン

世の中をあったかくする 買物のかたち「風土市」

書き手:後藤エミ
福岡市在住。クリエイティブディレクター、コピーライター。広告代理店や事業会社でのプロジェクト推進経験を活かして、主に企業のブランディングを手がけています。
https://kichi.design/

買物の原点。それは、人が “実り” を交わしあう活動なのかもしれません。売る人が誠意をこめて生みだしたモノと、買う人が日々の努力で手にしたお金を、互いの “実り” として交換する。もちろん現代ではこうした直接のやりとりは少なくなり、卸売りや小売りなど間を取りもつ人々のはたらきも加わってくるのですが、誰もが大切な “実り” を交わしあっていることは、いまも変わらないように思います。

私がこんなことを考えたのは、今回おじゃました「風土市」に買物の原風景を見たからでしょう。

買物は、人づきあいに似ている。

風土市は、エコ&オーガニックな食べものや生活用品を日常に気軽に取り入れてもらえるようにと、主催者である佐野朝子さんが2016年6月から始めたマルシェ。福岡最大の商業地・天神エリアから少し南に位置するお寺、妙静寺で年2回開催されています。毎回20店舗ほどがお店を出し、赤ちゃんから高齢の方まで、さまざまな年代のお客さまで賑わいます。オフィスビルや住宅が建ち並ぶ都心の一角にありながら、その雰囲気はまるで昔からの地元の祭りのよう。お店の方とお客さまとのやりとりも、ご近所さんのおしゃべりみたいに明るく弾んでいきます。

例えば、ローカルな食材と毎日手作りにこだわる【ケンジーズドーナツ】では「ウチは使用済みの揚げ油を配達用エコカーに使っているんですよ」といったステキなお話を聞くことができたり。ベランダでできる家庭用コンポストを提供する【たのしい循環生活】の方からは「現代人は食事が豊かなので、生ごみで堆肥づくりをすると栄養バランスのいい土ができるんです」と教えてもらうことも。また自家製オーガニック酵母でパン作りをする【トランテトロワ】では、オーナーが考え方をシフトし、パンの大量製造をやめて5種類のみのパンづくりに切り替えたことで、食料廃棄がなくなりワークライフバランスもとれるようになったなど、深く考えさせられるお話も聞かせてもらえました。

楽しい会話が広がっていく、風土市のようす。

楽しい会話が広がっていく、風土市のようす。

お店の方とおしゃべりしながら買物をする。普段の生活を振り返ると、そんな素朴な時間は、ずいぶん失われてしまった気がします。だから風土市の人間味が特別に感じられるのでしょう。この温もりの根っこにあるのは、風土市を生みだした佐野さんのまっすぐな思いです。

佐野さん:
「風土市では、自ら商品を作って販売する方だけに出店してもらっています。なので、お客さまは商品の説明をしっかり聞き、信頼して買うことができます。お買物に使うお金は、その人の大切な時間やエネルギーがカタチになったもの。だから、その価値に見合う、満足感や喜びの交換となるようなやりとりにできたら楽しいだろうと思ったんです。私自身、作り手が見えて、ちょっと知り合いになれる距離感の買物のほうがハッピーだと感じていて、それでこういうスタイルになりました」

商品の信頼性をわざわざ謳わなければならないこともある昨今ですが、本来、ものの取引で交わされるのは、人と人との誠実なやりとり。佐野さんのお話を聞きながら、お買物は人づきあいと同じかもしれないと、ふと思うのでした。

風土という、日本らしいサステナブルのありかた。

佐野さんが風土市を構想するにあたって影響を受けたのは、2011年の東日本大震災を機に関東から九州へ移住してきた人々の活動でした。彼らが九州に根づき、マルシェを開催するなどして地域を活性化していくようすを見て、佐野さんは「こうして新しい風土は作られるのだ」と感じたそうです。福岡で生まれ育ち、九州の風土を知る一方で、数々の海外生活も経て俯瞰的視点をもつ佐野さんは「昔からあるものと新たなものが交じり合い、しなやかに変化しつづけることで、折れることなく持続できる」と考えるようになります。それはある意味、日本人らしいサステナブルのありかたかもしれません。

また「風土市」という素朴な響きをもつ名前には、佐野さんが20代の頃、日本発祥の食養生「マクロビオティック」を学ぶ中で気づかされた日本の感性が活かされています。

佐野さん:
「マクロビオティックでは『風土』という言葉をよく用います。『カラダを新しい土地に適応させるには、風土のものを取り入れましょう』などと説明するのですが、このように言い表すと、風土と人は切り離されているように感じられますよね。しかし、その土地で活動するとき、人は風土に影響を与える側にもなっているはずです。風土は、さまざまなものと融和しながら変化し、栄えていくもの。このマルシェも、そうやって栄えていきますようにと願い、風土市と名付けました」

中でも大事にしているのは、“変化しつづける” ということ。風土市では出店者を変えていくことで新しい風をもたらし、マンネリや馴れあい、内輪の集まりのような閉塞感が生まれないように配慮していると言います。風土市は、こうした変化を大切にしているから、新鮮さを保ちながら続いているのでしょう。

前出のベーカリー【トランテトロワ】も、今回が初出店。

前出のベーカリー【トランテトロワ】も、今回が初出店。

本当にいいものは「好き」のチカラで広まっていく。

ご自身でも100%植物性の焼き菓子を製造・販売している佐野さん。これまで仕事を通して、志を同じくするたくさんの人たちと巡り会ってきたそうです。

佐野さん:
「私が焼き菓子の仕事を始めたのは2015年の春。多くのイベントに出店する中で、魅力的な人たちと出会い、移住者の方々ともつながっていきました。こうした個性ある人たちが集まったら素晴らしい化学反応が起きそうだ、という思いが私の心に芽生えたんですよね。そして、その年の秋にはもう『風土市』の構想が膨らんでいました。好きな人には、好きな人を紹介したくなるでしょう? そんな感じで、とっておきの人たちを、多くの人に紹介したくなって。でも、言葉で『あの店、いいよ』と紹介するより、みんなを集めてマルシェを開き、お客さまに好きになってもらうほうが自然ですよね。好きになってくれれば、人は自ら周りにシェアしていくもの。そういう穏やかな流れをつくって、好きを分かちあいたいと思いました」

風土市の雰囲気が穏やかな理由は、開催場所がお寺ということもあるでしょう。もともと風土市に場所を提供してくれていたのは、天神エリアにある専立寺。そこは佐野さんの幼馴染がいるお寺で、佐野さんも子どもの頃によく遊びに行っていた場所でした。その後、専立寺の建て替え工事によって同地での開催が難しくなったのですが、「みんなを歓待している風土市の雰囲気が好き」と共感を寄せる妙静寺の住職からお誘いを受け、開催地を移します。

妙静寺の住職の笠賢信さんは小さいお子さんのパパでもあり、「お寺にみんなが来てくれるとうれしい」と、普段からジャズコンサートなどを行っておられる方。風土市では、ご自身のお子さんを遊ばせながら、みんなのようすを見守っています。

そういえば、風土市のチラシの絵の世界観は、この境内に広がる光景そのままです。

子どもたちがイキイキ遊べるのは、大人たちみんなの見守りの目が優しいから。

子どもたちがイキイキ遊べるのは、大人たちみんなの見守りの目が優しいから。

佐野さん:
「デザインはイラストレーターのYoneさんによるものです。『エコやオーガニックをテーマに、人々が賑やかに集う都会のオアシス的なマルシェを』と依頼して、この絵になりました。開催当初からたくさんのお客さまに来てもらえたのは、このデザインのおかげです」

マルシェの空気感がにじみ出るようなそのイラストからは、佐野さんの「好きを分ちあいたい」という気持ちが、じんわりと伝わってきます。

イラストは、街の中で開かれる風土市の温かな雰囲気そのままに。

イラストは、街の中で開かれる風土市の温かな雰囲気そのままに。

自分の “実り” をふるまって、みんなで豊かに。

風土市を運営する中で、佐野さんが感じるようになったこと。それは、「お金は、ほしいものを手に入れるための便利なチケット。でも、お金を使わなければ、人は何も所有できないのだろうか」ということでした。人々が、いいものを分かち合い、響きあうように豊かになる。自らの願いの根源がそこにあることに気づいた佐野さんは、風土市スタートから5年が経った2021年、「ギフトエコノミー」の考えを取り入れてみようと思い立ちます。

ギフトエコノミーとは、自分にできるコトやモノを誰かのためにギフトとしてふるまい、一人ひとりのそのはたらきによって経済を循環させる仕組み。ものづくりが得意な人ならモノを、何かのノウハウを知る人ならその知識をふるまっていきます。ポイントは、お返しをしようとしないこと。AさんがBさんにふるまっても、BさんがAさんにお返しをする必要はなく、Bさんは自分の能力をCさんやDさんにふるまえばいいのです。そうやってモノ・コトが巡り、経済の大きなサイクルが生まれる。つまりお金を介さない “実り” の循環で、人の暮らしを豊かにする方法です。

この優しい経済システムの考え方をベースに、佐野さんが「風土市」と同じ妙静寺で開きはじめたイベントが「ふふふ」です。ふりま+ふるまい+ふりーだむの頭文字をとった、このイベント。特にギフトエコノミーの考え方を取り入れているのが“ふるまい”の部分です。

佐野さん:
「人は良心に従った行動をとることが喜びになるという本能があるそうです。だから、人と一緒に『おいしい』『たのしい』『うれしい』を分ちあうことは、単純に喜びになると思うんです」

主催者の佐野朝子さん。

主催者の佐野朝子さん。

筆者の私も「ふふふ」に足を運んだことがありますが、お金を使わないことで気づいたことがあります。それは、等身大の自分になれるということ。ふるまいを受けたあと、自分にできることを考え、「ささやかでいいから、何かやってみよう」と思いました。自分が素になれる「ふふふ」の空間。こんなに心が軽くなる経済システムがあるなんて、ちょっぴりうれしかったです。

「ふふふ」は、まだトライアルの段階だそうですが、2021年は毎月第4日曜日に開催されました。ギフトエコノミーに関心がある方は、ぜひチェックしてみてください。

文:後藤エミ
写真:後藤エミ、Issei Manabe、古田伸彦

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