ローカルニッポン

繋がる小さな経済循環5 木を活かす、木と暮らす

書き手:ミモデザイン
デザイン関連と写真関連、取材活動を行っている。
新井宿駅と地域まちづくり協議会会員。会のサイト運営者。

木は太古の時代から私たちの生活とともにあり、時代は変われど大地の恵みの自然素材は私たちの暮らしを豊かにしています。

都市化が進んだこの地域にも様々な木との暮らしがあり、木の歴史と文化が存在します。

今回は埼玉県川口市を舞台に、赤山の関東郡代3代「伊奈半十郎忠治」も奨励していたという地域の植木と地域の環境を考える木のある暮らしと木を活かす取り組みについてご紹介します。

枝ぶりなどは通常の盆栽と同じ小品盆栽。種類も豊富で手頃な値段もあり人気です。

枝ぶりなどは通常の盆栽と同じ小品盆栽。種類も豊富で手頃な値段もあり人気です。

手のひらの四季「小品盆栽」

在宅時間が多くなったコロナ禍に植物を育てる人たちが増えたといいます。でも手入れが難しくなく、出来るだけスペースを取らない方がいいですよね。そんな中、大人の趣味として「小品盆栽」がブームになっているのをご存じでしょうか。

日本伝統文化のひとつ盆栽。
樹齢250年以上というものもあり、丁寧に育てられた盆栽は完成のない生きた芸術品です。

川口市・安行は盆栽の生産が昔から盛んな地域。長い歴史の中、伝統技術を受け継いだ盆栽園が数多くあり、盆栽の様々な魅力の発信を続けています。初心者からベテランまであらゆる相談に対応できる専門家が多い地域としても有名です。

ベランダでも気軽に栽培できるサイズの小さな小品盆栽は、コレクションする人たちもいるほど人気があります。

新井宿駅と地域まちづくり協議会会員 秋元治久さん

新井宿駅と地域まちづくり協議会会員 秋元治久さん

近年は外国の方や若い人たちも盆栽を始める人たちが多いと聞きます。「新井宿駅と地域まちづくり協議会」会員、盆栽専門家秋元園芸の秋元治久さんに人気の理由を伺ってみました。

秋元さん:
「小品盆栽は手のひらの四季と呼ばれています。種類によっては花が咲くものや実をつけるものもあり、四季折々の姿も鑑賞できます。木の成長と向き合いながら個々の世界観にあわせ人間の手で作りこみ、過程を楽しみながら自分だけの作品に仕上げられることが魅力になっているのではないでしょうか」

つくり方は独特ですね。覚えるポイントなどあるのでしょうか。

秋元さん:
「盆栽は樹形が大切なので剪定や針金掛けしながら整えていきます。樹形を覚えながら、日々成長する盆栽に少しずつ慣れてみてください。想像した形に近くなってくると楽しいですよ。気軽にチャレンジしてみてください」

五葉松は成長が遅く木質が柔らかで手間がかからないので初心者にはおすすめだそうです。
日々変化する小さな鉢の中に雄大な自然を想像するのはアートな雰囲気でワクワクしますね。鉢選びや道具を選ぶのも楽しみのひとつだといいます。

生きた芸術品盆栽。海外では「BONSAI」と呼ばれヨーロッパやアメリカには盆栽教室があるほど人気が高まっているそうです。

日本の「わび・さび」を感じる木のある生活は暮らしに潤いを与えます。 樹木の強い生命力と向き合える、奥が深い盆栽の世界に挑戦してみるのはいかがでしょうか。

花植木の生産振興と都市緑化の推進。珍しい樹木もある花と緑の振興センター。

花植木の生産振興と都市緑化の推進。珍しい樹木もある花と緑の振興センター。

安行の植木

鋳物産業と共に埼玉・川口の2大産業として安行の植木は昔から知られています。

江戸に隣接していたこの地域は土地の起伏と土壌に恵まれていた為、樹木の産地として最適でした。
地理的にも日本列島のほぼ真ん中に位置するため、寒い地方の木、南国の木など様々な木の栽培も可能だったそうです。

安行の植木が発展したのは明暦3(1657)の明暦の大火がきっかけでした。
大火事で大半がなくなってしまった江戸の町に、安行村で植木の栽培をしていた「吉田権之丞」は植木や切り花を持ち込みました。これらは江戸の市場で大変人気となり植木の需要は増え続けました。

やがて近隣の農家も植木や花の栽培を行うようになり安行の地は植木産地の土台となりました。
草木や盆栽に興味を持ちこの地で栽培をした吉田権之丞は後に「安行植木の祖」と呼ばれています。

明治に入ると日本庭園の影響もあり植木は世界から大変注目を集めました。 その植木文化の技術は大変優れており、安行の植木ブランドとして広まっていったといいます。

そして昭和、高度経済成長の頃は緑化ブームが起こり樹木の需要が更に増え続け、植木のまちとして確固たるものになりました。

地域では植木産業の振興を目的とした施設植物振興センターが開設、植物園グリーンセンターも開園、緑化産業の総合拠点として川口緑化センターもオープンし植木の文化は市民にとってより身近なものとなりました。

時代は変わりましたが安行の植木の信用は今もなお高く、現在も植木の中心地として多くの人たちが集まっています。

(左)大きな木は薪割り機で薪に (右)繁殖力が強い竹は栄養分が豊富

(左)大きな木は薪割り機で薪に (右)繁殖力が強い竹は栄養分が豊富

一方で私たちの身近にある木、公園、緑地、街路樹、庭木。地域に木はどのくらいあるのでしょうか。
都市化が進んだ地域の暮らしですが、まだまだ風景には多くの木があります。

しかしこれらの木々は様々な理由でやむなく伐採されてしまうことがあります。

新井宿駅と地域まちづくり協議会では素材として、資源として、地域で木を活かす取り組みをしています。

木を土に帰すサスティナブルな取り組み

ここは地域の農地。剪定した木々を土に帰す取り組みをしています。
タケノコでお馴染みの竹は、1日で1メートル以上も伸びるほど生命力が強い木です。放っておくと周辺一帯が竹林になってしまい自然のバランスを崩す原因にもなりかねません。そこで増えすぎてしまう竹を再資源にして土に帰すという取組みをしていました。

竹は糖質を含む栄養分があり畑にまいた竹パウダーは土を豊かにし、作物を丈夫にする効果があるそうです。梅などの木々も樹形を整えて花や実の付きをよくするために毎年剪定します。そういった剪定枝も土の栄養分として利用しているそうです。

(左)梅の剪定枝 (右)土中の状態が良いとカブトムシもやってきます

(左)梅の剪定枝 (右)土中の状態が良いとカブトムシもやってきます

木材の成分の効果で土は柔らかくなり土中の微生物やミミズが増えるので土壌改良にとてもよいそうです。ふかふかになった土は生態系を豊かにするのでいつの間にか生き物が住み始め自然の状態を良くしてくれます。木の資源ウッドチップは雑草対策にもなるので公園や緑地に利用されるエコな素材としても知られています。伐採された大木の場合は薪ストーブの原料とし、出来る限り捨てない方法を実践していました。大地の循環を考えた木のリサイクル、環境にやさしい取り組みを続けています。

(左)地域で伐採された木の素材 (右)地域木材を利用した梁

(左)地域で伐採された木の素材 (右)地域木材を利用した梁

木のある生活

一方で、木工品として生まれ変わる木もあります。
ケヤキは雄大な姿の落葉樹ですが大木になるので住宅事情等で邪魔になり伐採されてしまうことがあるそうです。面積も広い木なので大黒柱や梁になり再び住宅の一部に加工されています。独特の杢はあるがままの姿で趣深い。

また地域木材の端材は木の香り漂う身の回りの品として加工されていました。
一輪挿しを飾る手のひらプレートや箸などの手しごと品として生まれ変わり、私たちの暮らしに潤いを与えています。これらは地域材を活用した加工品として地元の店で作られています。

地域木材のケヤキでつくった手のひらプレート。地域の店で販売中。

地域木材のケヤキでつくった手のひらプレート。地域の店で販売中。

地域の木を地域で作られているところにも愛着がわくのではないでしょうか。
新井宿駅と地域まちづくり協議会では「木と暮らす、こんなものがあったらいいな」というテーマで地域の木を使ってできるアイデアも募集しています。

今回は何気ない日常の中に多くの木との関りがあるということを改めて意識する機会になりました。これからは生活の中で木について、ふと考えることも増えそうですね。そして木の循環については未来に繋がる私たちの課題になってほしいと思いました。

次回は、6次産業で地域を活性化。地産地消への道をお送りします。

文・写真:ミモデザイン

リンク:
新井宿駅と地域まちづくり協議会