ローカルニッポン

繋がる小さな経済循環6 6次産業で地域を活性化 地産地消への道

書き手:ミモデザイン
デザイン関連と写真関連、取材活動を行っている。
新井宿駅と地域まちづくり協議会会員。会のサイト運営者。

地元のお店やイベントでふと出会った地域の味、「そういえば初めて見かけたかも・・」という経験はありませんか。どこか懐かしい味は、地域の農産物を加工したものかもしれません。それらは6次産業品ともいわれ地域の特色と季節感がよく表れているのが特徴です。

それらを進める6次産業化とは、1次(生産者)×2次(加工)×3次(販売・流通)をかけて融合し、新たな価値をつくる取り組みです。飲食店、イベントなどを通して農産物の魅力を伝えます。

今回は、その6次産業化からまちづくりに繋げる「新井宿駅と地域まちづくり協議会」の取り組みについて紹介します。地域産の色々な農作物を材料にして様々な加工品にチャレンジしています。

ここ埼玉県川口市新井宿周辺には市街化調整区域があり、昔から農業を営む生産者が多い地域ですが、近年は高齢化や後継者不足から耕作放棄地が増えているという現状です。
※市街化調整区域:住宅やお店などを積極的に作らず都市化を抑えましょうというエリアのこと

地域の都市農家は、広い畑が必要な果物類栽培をして耕作放棄地対策をしてきました。柑橘類は立ったまま収穫や枝切りが出来て、草刈り機で雑草を除去できるという管理のしやすさがあったためです。

レモン・柚子・カボス・夏みかんなどの柑橘類はそのままでも十分に価値がありますが、加工品にすることにより新たな付加価値を生み出す可能性があります。そして「地域の人たちが喜んでくれればもっといいね」という思いから6次産業化がスタートしました。

取り組みはかれこれ8年ほど前から始まり、前向きな活動によって異業種の人たちとの地域コラボ商品を生み出しビジネスに繋がっています。地域で具現化された数々の商品から一部を紹介します。

夏みかんでまちおこし

こうして生まれた加工品はイベントやお店などで紹介を続けています。柑橘類はクセがなく爽やかなので、加工に向いた農産物だそうです。見た目も丸くて可愛らしい色ですよね。 川口・神根地区の農家の夏みかんは、幅広く、味わい深い加工品に変身しています。

左:夏みかん羊羹 右:新井宿散歩(和菓子 中ばし)

左:夏みかん羊羹 右:新井宿散歩(和菓子 中ばし)

新井宿駅と地域まちづくり協議会会員、和菓子の「中ばし」(桜町)では、地域の農産物で色々な和菓子を作っています。地元産の夏みかんで和菓子を作るきっかけはどのようなタイミングだったのでしょうか。昭和44年から続く老舗の和菓子店「中ばし」の店主近藤さんに伺いました。

近藤さん:
「『新井宿駅と地域まちづくり協議会』には地域の農家さんが多く参加していて、農産物を有効利用できればいいね、という何気ない話から自然に開発が始まりました。夏みかんの風味は甘味ととても相性がよく、羊羹・焼き菓子など夏みかんシリーズとして色々作っています。季節感が感じられるところも和菓子にあう素材ですね」

和菓子のデザインは和菓子職人の娘さんと相談しながら作ることもあるそうです。

夏みかんはパンにもよく合います。「hoppe*hoppe」(西新井宿)の季節限定の「なつみちゃん」は、夏みかんのほろ苦さと甘酸っぱさがちょうどいい人気のパン。2020年、パングランプリ東京のフルーツを使用したパン部門で優秀賞を受賞しました。そのままでも美味しいのですがメープルシロップをかけたり、フレンチトーストにしてアイスをのせたりするのもおすすめの食べ方だそうです。

パンといえば柑橘類ジャムは相性がとても良いですよね。「シュレットジャム工房」(北原台)は夏みかんジャムや柚子ジャム、ブルーベリージャムも開発し商品化しています。食品添加物を一切使っていない自然の甘味がやさしい手作りジャムは口コミで広がっています。

左:なつみちゃん(hoppe*hoppe) 右:夏みかんジャム(シュレットジャム工房)

左:なつみちゃん(hoppe*hoppe) 右:夏みかんジャム(シュレットジャム工房)

爽やかな香りの柑橘類はクラフトビールの素材にもよく合い商品化されています。
地域名がついた「神根セゾン」は夏みかん・柚子・青梅・カボスなどの季節限定クラフトビールとして販売されています。自ら現地に出向き、収穫した農作物を仕込み醸造する地域密着型のブルワリー「GROW BREW HOUSE」(西川口)と「川口ブルワリー」(幸町)で作っています。
※関連記事:「繋がる小さな経済循環 2 ━「ビールのまち、川口」のクラフトビール奮闘記━」

一方で、イベント向けに開発し、ヒットした夏みかん商品もありました。
新井宿駅と地域まちづくり協議会の”チームかき氷女史”による「かき氷夏みかん」です。

濃い味の果肉入り夏みかんソースと求肥の組み合わせがフワフワの氷になじみスイーツ感いっぱい。開発段階のエピソードで興味深いのは氷のクオリティまで追求したこと。事前に会員間で試食し、意見交換をするほどのこだわりだったそうです。ひんやりスイーツかき氷はシリーズとなり、梅・抹茶・マンゴーも登場しています。

左:八ツ頭イモ(石井栄作さん) 右:アイスプラント(高橋寿園)

左:八ツ頭イモ(石井栄作さん) 右:アイスプラント(高橋寿園)

個性派農産物で開発品

ちょっと面白い素材の6次産業品にもチャレンジしています。
八ツ頭イモはお正月料理などに登場する里イモですがあまり見かけることが少ない素材です。肉質がしっかりしていて味わい深い八ツ頭イモは「縄文の八ツ頭饅頭」という和菓子になりました。なぜ縄文という文字がつくのかというと、縄文時代の土偶の様な雰囲気を持った姿とこの地域に縄文時代の遺物が数多く出土されていたということに由来があるそうです。縄文土壌で育った八ツ頭イモということですね。

「縄文の八ツ頭饅頭」と並び、カリカリとした食感があと引く、「八ツ頭チップス」を開発した中ばしの近藤さんに伺いました。八ツ頭を使ったお菓子はなかなかありません。苦労した点などどんなことがあったのでしょうか。

近藤さん:
「まずごつごつした固いイモなので下ごしらえが大変でした。チップスにするにはイモの厚みも大事でちょうどよく仕上げるのに工夫が必要でした」

これらの八ツ頭イモのお菓子は、この地域に八ツ頭イモが多く生産されていることを改めて知ってもらえるきっかけなっているそうです。

その他、最近注目の野菜、アイスプラント。一見すると多肉植物のような見た目は、食感もやさしくほのかな塩味がある野菜です。キラキラとした粒も引き立つ「アイスプラント餅」は意外にも甘味とぴったりな和菓子になりました。

八ツ頭イモ、アイスプラントは川口市の農業ブランドに認定されている農産物です。
※川口農業ブランド:川口市内の農業者によって生産された特に優れた農産物のこと

イチゴ農園(くにちゃんふぁ~む)

イチゴ農園(くにちゃんふぁ~む)

春の訪れを感じさせる「イチゴ大福」は、和菓子の中ばしと、「くにちゃんふぁーむ」(東本郷)のイチゴがコラボして定番の商品になりました。
イチゴは紅ほっぺ、章姫、かおり野、やよい姫などの種類があり川口農業ブランドに認定されています。

「くにちゃんふぁ~む」は川口市初のイチゴ狩り農園で、都内から来る家族連れも多く季節毎に完熟イチゴを楽しめるようになっています。

地域開発品が定番商品に

季節ごとに行われる地域のイベントは、市外の方に向けて6次産業の開発品を紹介するよい機会にもなっているそうです。

この地域の農家は多くのショウガを生産しています。温暖な気候が適していること、八ツ頭イモ、里イモと同様に地域の低湿地の畑で栽培しているため、より良質で美味しいショウガになっているそうです。そして栄養豊富なショウガは多くの素材と相性が良くあらゆる食物にあう農産物です。地域イベントの際、ウインナーとコラボしたところ大好評。ショウガ味がピリッと効いた「東京ウインナー」(安行領根岸)の「神根生姜ウインナー」は地域の定番になっています。

左:神根生姜ウインナー(東京ウインナー) 右:ぼうふう餃子(道の餃子駅)

左:神根生姜ウインナー(東京ウインナー) 右:ぼうふう餃子(道の餃子駅)

一方、川口市の特産品として知る人ぞ知る、葉物野菜 ぼうふう。シャキッとした食感とほどよい苦みは大人の味で体に良い成分が豊富だそうです。
新井宿駅と地域まちづくり協議会会員「道の餃子駅」(安行領根岸)の沖田さんに「ぼうふう餃子」が誕生したきっかけを伺いました。

沖田さん:
「昔ぼうふうは日本料理の高級食材として使われ、一般的には出回ることがなく門外不出の野菜と言われていました。実は川口の特産品として地域で多く生産されていて、試しに地元のイベント時に具材として使ってみたところ餃子と相性がよく好評でした。現在は定番品として販売しています。ぼうふう餃子目当てで買っていくお客さんも少なくないですよ」

かつて高級料亭でしか使われていなかったぼうふうは、6次産業品として地域のお店に登場し、一般的にもその名前が知られるきっかけにもなっているそうです。

神根の季節野菜

左:かみね野菜弁当(こだわりとんかつ勝時) 右上:バジル(高橋寿園) 右下:バジルソース(シュレットジャム工房)

左:かみね野菜弁当(こだわりとんかつ勝時) 右上:バジル(高橋寿園) 右下:バジルソース(シュレットジャム工房)

地域の旬の農産物は、季節ごとに6次産業品化が続いています。手作りの開発品につき限定品が多いですが、作っている人たちも楽しんでいる様子が伺えました。

いずれも埼玉・川口の地域の農産物を使って地域のお店で開発した地元コラボ商品たちでした。

「地域で採れた農作物を地域の人のアイデアで加工品にし、地域の人が消費する」

どこの土地の農作物かわかり、誰が作ったかわかるということは安心感があります。 地域の6次産業化は流通コストや管理がしやすいという面からみてもメリットが沢山ありますね。

農作物の確保、販売経路を見出し、加工品の構想は一朝一夕というわけにはいきませんが、その過程で多くの仲間との連携が生まれ具現化されれば、結果として地域全体が発展していくのではないかと思いました。試行錯誤の賜物が地域ブランドとして今後たくさん登場するのが楽しみです。

「繋がる小さな経済循環」最終回をお読みになっていただきありがとうございました。
そして取材に協力してくださった方々へ感謝の気持ちを伝えます。
失敗談やここだけの話、思わず笑ってしまう場面、歴史と文化の側面もあり興味深く執筆させていただくことができました。

連載を通して、地域のまちづくりに頑張る人々の思いが皆様に伝わることができれば幸いです。

文:ミモデザイン
写真:ミモデザイン/新井宿駅と地域まちづくり協議会(3、7枚目提供)

リンク:
新井宿駅と地域まちづくり協議会HP

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