再び大谷エリアに活気を。ひとりの想いからはじまった復活ストーリー。
株式会社ビジュアル代表取締役。地域媒体の発行、デザインや販促のお手伝いをする会社を経営して32年になります。プライベートでは2児の母。犬飼い。自然と動物を愛しています。
上級愛玩動物飼養管理士、栃木県動物愛護推進員
https://www.visual.co.jp/
栃木県宇都宮市の中心部から車で約30分。大谷資料館(大谷石の地下採掘場跡)を中心にした “大谷エリア” が、今観光スポットとして人気です。
「大谷石」とは、栃木県宇都宮市大谷町付近で採掘される凝灰岩のことで、古くは江戸時代から採掘され地元産業として発展してきました。最盛期には、年間89万トンを出荷していたそうです。
アメリカの建築家フランク・ロイド・ライトの最高級傑作だと云われる、旧帝国ホテル本館に大谷石が使われたことも有名です。しかし、大谷エリアは観光地としては地味で、採石産業の衰退とともに活気を失っていきました。この地に再び人を集め、街を生まれ変わらせたのが高橋智也さんです。
ちょっとマニアックでお洒落な観光スポット。
現在の大谷エリアは、数年前とは違って、若者が行ってみたいお洒落スポットとしての地位を確立しています。持っているだけでもお洒落感が漂うショッピングバックやテイクアウトの珈琲カップ…等、周囲の野趣溢れる自然の景観とスタイリッシュなカフェのミスマッチが、どこか大人なマニアック感を演出しています。
都心からも車で2時間程度と日帰りできる観光地として、カップルや若い女性、シニアのお友達グループなど、多世代が訪れる場所になりました。
また、観光客だけでなく、これまで大谷エリアに行くことのなかった地元の若者も、休日にランチを楽しみにカフェに行くようなエリアとして人気です。
高橋さん:
「2015年頃、大人になって久しぶりに訪れた大谷は、あまりにも廃れていて驚きました。人も少なく暗くて、まるで廃墟のようで。ちょうど遠足で来ていた幼稚園児たちを見かけたのですが、なんだかつまらなそうな顔をしていた。これはまずいと思ったのです。そこからこの場所をどうにか復活させたいと本気で考えるようになりました」
栃木の大切な観光資源「大谷」を生まれ変わらせる。
高橋さん:
「大谷資料館のオーナーはたまたま地元繋がりで知っていましたので、資料館の照明を無償でもいいからリニューアルさせてもらえないかというお願いをした所からスタートしました。
次に取り掛かったのは、古いお土産物屋さんの改革。大谷石のお土産といえば、カエルや灯籠など、どちらかというと玄人好みのものが多かった。それが悪いという訳ではありませんが、そもそもすごいポテンシャルを持つ素材である大谷石の魅力を伝えながらも、もっと若者や女性に好まれるデザイン性の高い商品も置きたいと考えました」
ロックサイドマーケットのスタートは、2016年4月。
大谷石で作った雑貨を中心にした品揃えと飲食で、土産店を改装したお店はたちまち人気に。高橋さんは地元の若手作家さんを募り、新たな大谷石グッズのデザインを集め、その制作を職人さんに依頼しました。しかし最初は「そんなもの売れない」、「そんな難しいことはできない」等、なかなか取り合ってもらえません。しかし、根気強く話し合いを進め、理解が得られる方々に出会い、前に進むようになったのだそうです。
観光で訪れた場所のお土産は、思い出とともに何かしら買って帰りたいと思うもの。「どうせなら素敵なもの、誰かに差し上げても喜ばれるものがいい。そして手が出るサイズや価格帯で」そんな観光客のニーズに応えながらお店を発展させていきました。
これを生業としている職人さん達にとっても、より売れる商品を作ることは、仕事(収入)が増えることに繋がるし、充実感や喜びにも繋がる。そして、世代の継承にも繋がると高橋さんは信じていました。
さらに考えていたのは、地元作家の活動拠点をつくることです。店舗を持たない作家さんの商品を扱うことで、彼らの活躍の場を広げること。また、東京を拠点に活躍する栃木県出身の作家さんに向けて、地元でも活躍できる場所をつくること。
一旦は都会に出てもいずれ戻ることのできる場所、そんなステージをこの大谷に作ること、を目指しました。高校時代に強豪校野球部のキャンプテンをしていた経験、商社勤務で鍛えた営業力や交渉力。高橋さんは自身の経験すべてを動員して次々と想いを実現していったのです。
起業の夢は実は中学時代から。
なぜそう思ったのかは分からないが、将来起業したいという夢は中学生の頃からあったのだそうです。地元商社に勤務していた頃にも、サラリーマンをしながら飲食店経営をしたり、直接社長にプレゼンをしたり…いわゆる普通のサラリーマンが発想できないような行動をしていたそうです。そして、「いつかは何かで起業しよう」と思い描きながらタイミングを見ていた時、東日本大震災が起こりました。
高橋さん:
「震災の時、本当に『死ぬのかもしれない』と思いました。『後まわしにはできない、今やらなければ』という気持ちに後押しされて、何をやるかもまだ決まってないうちに会社をやめました。今思えばそれもベストなタイミングだったのかもしれません」
高橋さんが経営するもう1つの店舗、「アイランドストーンコーヒーロースターズ」は、生豆の選別から焙煎までこだわり抜いたスペシャルティコーヒーショップ。美味しい珈琲だけでなく焼き菓子やデザート、オリジナルのデザインのタンブラー等の雑貨も人気のお洒落なカフェ。築70年の空き家をフルリノベーションしてオープンさせた店舗です。
この「アイランドストーンコーヒーロースターズ」を作ったのも、大谷観音から大谷資料館までの間に立ち寄れるスポットが必要だと思ったから。高橋さんはあくまでも大谷エリア全体を視野に入れていらっしゃいます。大谷エリアにはまだまだ空き家になっている場所も多いし、多くの人に集まって満足してもらえるスポットが足りないのだとか。
高橋さん:
「大谷エリアでは、まだまだやれることがあります。ここで自分が出来ることをやり尽くしたいと思っています。東京からの注目を集める為に、全国規模で有名なセレクトショップやアパレルブランド、コーヒーショップと企画を組み立てたり、栃木県内では、『餃子組合』、プロサイクルロードレースチーム『ブリッツエン』、プロバスケットボールチーム『ブレックス』…等とも連携をしています。
大谷町の人達がこれまで繋がりにくかった人達とつながり、地域内の事業者さんと各所を繋ぐための潤滑油の役割を担っていきたいと考えています。地域としてこれまで出来ている部分は出来ている方に完全にお任せして、私達は+αで地域の価値が上げられるように新しい情報発信網を構築して行く、その結果、今まで知らなかった方が大谷を知ることになり、大谷を訪れる事で既存の文化+新しい発想=過去と現代が融合した面白い町が出来るのではないかと考えています。
5年間やり続けたことにより、大谷自治会の集まりが初めてISLAND STONE COFFEEで開催される等、地域との距離も縮まり少しづつスタートラインに立つ準備が整ってきているなと実感しています」
豪快なようでいて繊細。
大谷エリアの改革という夢に向かうひとりの人間としてだけでなく、高橋さんには多くのスタッフを抱えるご経営者としての立場もあります。「今、縁あって一緒に働いてくれているスタッフをどこに行っても褒められる位まで教育したい、私にはその責任もあるし喜びもあるのです」
高橋さんは少し照れながらそうお話してくださいました。
溢れるセンスやアイデアだけでなく、行動力・実行力・打たれ強さ・粘り強さ…、誰もが憧れても実行できないことをやってのける「強い」イメージとは裏腹に、実はとても繊細なハートの持ち主である髙橋さん。
強さと優しさが同居した高橋さんの魅力がとても印象的でした。
文:深澤明子
写真:渡辺綾乃
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