ローカルニッポン

ヒトやモノが集い、面白いコトを生み出す場所「ROCCO」

書き手:木村裕子(アンカルク)
埼玉県宮代町出身。旅行会社のツアーコンダクターとして国内・海外50か国をめぐる。その時の経験を活かし、世界各地で愛される軽食をお届けする「世界のSnackごはん」を開始。シェアキッチンやマルシェでの出店、異文化交流のイベントなどを主催。地元のデザイン会社 アンカルクに勤務し、町内の情報を発信している。

新興住宅街と農地が混在した程よく田舎なエリア、都内から電車で約40分の距離にある埼玉県宮代町と隣接する杉戸町。ここで暮らす人の多くが口にする町の特徴は“空が広いこと”。晴れた日はついつい空を見上げたくなります。

このエリアには“地元を盛り上げよう”と愛着を抱くプレーヤーが存在し、町も創業支援に力を入れています。自分の好きなことを表現できる場があり、応援してくれる仲間が多くいるこの地域にできた宮代町のセレクト横丁ROCCO(ロッコ)。

住宅街の真ん中に突如現れる白を基調とした「ROCCO」は、2022年10月に町内出身の3兄弟が手掛けた話題のスポットです。どんな想いでこの場所を作ったのか、その成り立ちから今後の展望まで中村3兄弟にお話を伺いました。

ROCCO建設のきっかけは、兄弟のたわいもない会話から

左から長女幸絵さん・長男 英基さん・次男 和基さん。ROCCO5番シェアキッチンにて

左から長女幸絵さん・長男 英基さん・次男 和基さん。ROCCO5番シェアキッチンにて

創業130年以上にも及ぶ、地元に根付いた建設会社「中村建設」社長の長男英基さん、1級建築士の次男和基さん、デザイナーとして独立されている長女の幸絵さん。中村3兄弟のみなさんは地元宮代町に対してどんな印象を抱いているのでしょうか。

英基さん:
「宮代町は近隣の市町村と比べると結構控えめというイメージでした。最近は色々なことにチャレンジする面白い方が増えていて、以前とは町の様子が変わりました」

幸絵さん:
「子供の時は何も感じていなかったのですが、長年離れて暮らしてみてはじめて宮代町の良さに気づきました。程よい自然、誰もが目を惹く名建築物、東武動物公園、都心からもアクセスが良く、色々なシーンで楽しめます。以前は住宅地が今ほど多くなかったので人も少ない印象でしたが、人が増えることでコミュニティができ、町内での人と人のつながりができることで住み心地の良い町になっているのかもしれません」

何もない、昼間は閑散としているというマイナスなイメージから人が増えることで賑わいがでて、プラスのイメージに変わったこと。この町の変化に感じた可能性と各自が抱いていた町へのイメージに加えて、どのようなきっかけでROCCOが誕生したのでしょうか。

ROCCOの様子 左:他県のおいしいものを販売するマルシェ 右:絵本カフェを展開

ROCCOの様子 左:他県のおいしいものを販売するマルシェ 右:絵本カフェを展開

英基さん:
「4年ほど前から、父の看病をきっかけに兄弟で集まるようになりました。ある日、スーパーへ3人で買い物に行ったとき、すぐそばにかわいい平屋建ての家が6軒並んでいるのを見て『ここで何かできたら面白いのではないか』と話していたんです。誰も住んでいない古びた建物が並んでいるのを見ると、マイナスなイメージを抱くこともありますが、なぜかあの場所には明るいイメージしか湧いてこなかったんです!」

振り返ればこの時すでに、看病を通じて兄弟間の仲を深めることができていました。ポジティブに物事を捉え、どちらに転んでもおもしろいと受けとめる和基さん、突き詰めていいものを作り出す幸絵さん、どっしり構える大黒柱の英基さん。3人共に性格が違うからこそ、この大変な時期も乗り越えることができ、自然とチームワークを高める練習ができていたのかもしれません、と3人は顔を見合わせながら話します。

また、進めるにあたっての実務的な面では、建物を作るうえでの知識や経験は充分にあったので、ROCCOを完成させることはできる、とハード面のことは全く心配していませんでした。

ただ、場所を作ったとしても、誰がこのROCCOで出店してくれるのか、どうやって出店者を募集したらいいのか、という運営面を考えるところで行き詰まります。この時相談を持ち掛けたのが、隣の杉戸町で活躍する矢口真紀さんでした。

矢口さんの存在がROCCOを確かなものへ

中村さんのことを「なんでも言い合える親戚のような存在」と話してくれました

中村さんのことを「なんでも言い合える親戚のような存在」と話してくれました

矢口真紀さんはお隣の杉戸町で、女性のためのビジネス講座” わたしたちの月3万円ビジネス”(通称3ビズ)の講師として活躍しています。自分の好きなことや特技を活かして小さなビジネスを始めるために、受講生の “好き” を徹底的に探り出し、一歩踏み出すために背中を押しています。3ビズの卒業生は他の地域を含め全国で300名以上、ROCCOのシェアキッチンで出店している卒業メンバーもいます。そうして仕事を生み出した人たちの拠点として、駐輪場をリノベーションした“しごと創造ファクトリー ひとつ屋根の下”(通称 ひと屋根)の運営もされています。

矢口さんと中村英基さんが最初に出会ったのは、再開発される道路空間をどのように活用したらよいか、という会議が地域で催された2020年秋。地域の事業者も呼ばれ、矢口さんはスピーカーとして、中村さんはお話を聞く側として出席したのが始まりです。

英基さん:
「矢口さんが仲間と一緒に堂々と、エネルギッシュにご自身の活動を紹介している様子に『杉戸町にこんな人がいるとは』と、すっかり引き込まれてしまいました」

宮代町と杉戸町、川を挟んで見える距離にお互い拠点を構えていますが、“地域でのしごとづくり×建設業”という全く違う立場では、それまで顔を合わせる機会はなかったそうです。

矢口さん:
「『ひと屋根』をリノベーションする際に、顔が見える地元の事業者にお願いしたほうがいい、と建築士にアドバイスをもらいました。あの日、目を輝かせて誰よりも前のめりで話を聞いてくれていた中村さんの顔が真っ先に思い浮かび、連絡したんです」

一つの場所を一緒に作り上げることでそのプロセスを共有し、互いに近くにいることで活動をより理解してもらい、新たな関係性を構築していった中村さんと矢口さん。

中村建設では、それまで新築の物件しか手掛けていなかったため、大工さんも含め、今ある建物や古材を活かしたいという「ひと屋根」の工事は驚きの連続だったそうです。リノベーションという新しい分野に踏み出すきっかけにもなった矢口さんとの出会いはその後も途切れることなく続き、ROCCO建設にあたっては矢口さんがソフト面でのアドバイザーのような存在になっていきます。

ROCCOのコンセプトを決める

矢口さんの問いに対して、3人で話し合いプレゼンした資料。何度か提出したそう

矢口さんの問いに対して、3人で話し合いプレゼンした資料。何度か提出したそう

幸絵さん:
「『ROCCOのコンセプトは何ですか?』と矢口さんに聞かれたときに、そこまで考えられていないことに気づきました。どんな人に出店してほしいのか、どんな場所にしたいのか兄弟3人で考え抜いた答えが『宮代町のセレクト横丁』でした」

セレクトというと“厳選された”などちょっと贅沢なイメージがありますが、ROCCOではそういう意味合いではなく、「こだわりや想いをもった人たちがお客様に喜んでもらえるようなものを提供する」という意味をこめているそうです。宮代町や近隣に住み、自分の商いだけではなく周りとも連携してROCCOを盛り上げてくれる人。このコンセプトを携え、矢口さんの拠点「ひと屋根」を借りての説明会を開催しました。

和基さん:
「ROCCOに出店したい、と手を挙げてくれる人は本当にいるのだろうか、と不安な気持ちのまま当日を迎えました」

説明会での質問に真正面から誠実に向き合う運営のみなさんの姿勢に、安心感を覚えた方も多そうです。説明会を重ねるうちに出店者が決まり、その後毎月1度は定例会議で顔を合わせるようになりました。

新たな人とのつながりが人生をより豊かに

和基さん:
「ROCCOをつくったことで、今まで出会うことのなかった人たちとできたつながりは何物にも代えがたいと思っています」

現在も継続している定例会議では、お客様に喜んで頂けるようなイベントの企画などお客様からの意見をもとに色々なことを取り決めています。ここで矢口さんから、いつ頃から出店メンバー同志のコミュニティができたのか、という問いかけがありました。

幸絵さん:
「オープン後、出店メンバーの皆さんがどんどん和やかな雰囲気になり、定例会議でも積極的に発言してくれるようになり、真のコミュニティになったなぁと思いました」

幸絵さんは嬉しそうに話します。

2022年10月のオープン初日、予想以上の方がこの場所を訪れました。出店メンバー同士、声を掛け合いながら一緒に頑張り、心が通いあったことが今の関係性へと変化するきっかけとなりました。

月1回の定例会議ではみんなが意見を出し合う

月1回の定例会議ではみんなが意見を出し合う

和基さん:
「これからも定例会議などの場で、反対意見がでても全く気にせず、もっと色々なことを発言してほしいです」

一つの問題に対してとことん話し合い、より良い方向になるように決め事を作ったり、新しいイベントを提案したり…出店者と運営メンバーである英基さんたちみんなで作り上げているのがROCCOなのです。

実は、筆者もROCCOのシェアキッチンで月に2回程出店しています。まだ経験は浅いのですが、セレクト横丁という名のついた場所で挑戦させていただけることに本当に感謝しています。

運営メンバーのみなさんが頻繁に顔を出して、気さくなコミュニケーションをとったり、提供している食事へのフィードバックをしたり、いつでも出店者を気にかけてくれているのが伝わります。こうやって、一緒に盛り上げていこう!という一体感が生まれているのは、中村3兄弟のお人柄の影響も大きいのではないでしょうか。

どんな目的でもいいから、色々な人に来てほしい

ROCCO目当てに町外からも多くの人が訪れ、宮代町に行ったら必ず訪れるべきスポットの一つになりました。今後目指したい姿を伺ってみました。

お互いを信頼しあう矢口さんと中村さん兄弟はいつも笑顔が絶えません

お互いを信頼しあう矢口さんと中村さん兄弟はいつも笑顔が絶えません

幸絵さん:
「地元の方にも気軽に来てほしい、ちょっと時間があいたときにROCCOへ行こう!と言ってもらえるような場所になったらいいなと思っています」

和基さん:
「暗かった道にROCCOができて空気が明るくきれいになりました。今後は気軽にお酒が飲める場所として、5番のシェアキッチンをぜひ利用してもらいたいです」

矢口さん:
「ROCCOができたことで宮代町に来たい、宮代町で何かをやりたい!という人が今後増えていくと思います。実はROCCOに出店するのが夢で3ビズを受講したメンバーもいます。夢を叶える、という憧れの場所になりましたね。中村3兄弟みなさん自身がこの場所をもっと良くしたいと運営に力を注いでいるので、民間だからこそできることに挑戦してほしいです」

英基さん:
「2023年の1月にROCCOがある地区の餅つき大会の会場として活用いただけました。近隣にお住まいの方もこの日は多く訪れてくれました。老若男女問わず楽しめる地元の方によるイベントなどにも利用してほしいです」

1月に行われた餅つき大会の様子と地元の大学生がつくったインスタレーション

1月に行われた餅つき大会の様子と地元の大学生がつくったインスタレーション

“6月6日ROCCOの日” にちなんで、6月3日(土)に「ROCCO Night」というイベントが開催されます。中村3兄弟とROCCO出店メンバーの「地域の方に喜んでもらいたい」という想いがたっぷり詰まった、一足早い夏祭りのようなイベントになりそうです。

オープン前から注目され、あっという間に話題のスポットとなったのは、中村3兄弟みなさんの並々ならぬ努力と陰で支える仲間たちがあってこそ。美味しいモノから自然と生まれる笑顔、ヒトとの会話からできるつながり、自分のやりたいコトが表現できる場所として、今後この場所がどのような変貌を遂げていくのか楽しみです!

文:木村 裕子
写真: 五十嵐 真由美・ROCCO

リンク:
宮代町のセレクト横丁ROCCO HP