廃校になった小学校で “感謝” のウェディング

※旧老川小学校は2024年10月1日より、宿泊・物販・スペース利用の複合施設「MUJI BASE OIKAWA」として新にスタート致します。 歴史を感じる城下の町並みと、自然豊かな温泉郷・養老渓谷を抱く、千葉県大多喜町。房総半島の中央に位置する山あいの町には、のどかな里山の風景が広がっています。その一角にあるのが2013年に廃校となった「旧老川小学校」。美しく個性的なデザインの木造校舎は建築業界からの評価も高く、これまでに千葉県建築文化賞、文部科学大臣奨励賞を受賞してきました。 子どもたちの学び舎としての役割を終えた後は、地元住民を中心とした地域活動の拠点に。2017年からは株式会社良品計画が建物を借り受け、地域振興とコミュニティの活性化に取り組んでいます。 2023年5月。この場所でひと組のカップルが結婚式を挙げました。大多喜町の地域おこし協力隊として山林整備の活動を行い、この3月に独立した新郎・坂倉庸介さんと、近隣地区の児童福祉施設で働く新婦・美和さん。 大多喜町が縁で結ばれたふたり 庸介さんの仕事は「特殊伐採」。切り倒せない木を上から少しずつ伐採していく 大多喜町に越してくる前は地元・千葉市の建築事務所で働いていたという庸介さん。40歳を前にこれからの働き方、暮らし方を改めて見つめ直した時、デスクワークではなく自然の中で仕事がしたいと思ったといいます。 庸介さん: 「特に、当時大多喜町で機運の高まっていた自伐型林業に惹かれました。その年の地域おこし協力隊の募集要項に『自伐型林業の従事者』という記載を見つけて、これだと思ったんです。大多喜町に初めて来たのは面接の時。第一印象は『ここ、住めそう!』ですかね。林業の人材を募集していた他の地域にもいくつか行ったんですが、そんなふうに感じられる場所は初めてでした」 そして見事採用。旧老川小学校は大多喜町の地域おこし協力隊の活動拠点にもなっていたため、その日から3年間、庸介さんにとってここは職場になりました。事務所としてデスクを置き、仲間とさまざまな話をしたなじみ深い場所です。 庸介さん: 「ある日、通っていた現場で『彼女はいるの?』と聞かれたんです。『よかったら紹介したい人がいるんだけど』って。そこは塗装会社の社長さんのご自宅なんですが、それまでご夫妻にとてもよくしてもらっていたので、これも縁かなと思って『お願いします』と答えました。そうして出会ったのが今の妻です」 実はその社長さん、美和さんの働く児童福祉施設で長年にわたりボランティアで絵の指導をしていた先生でもありました。かねてから家の行き来をするなど親しくつき合ってきた美和さんに、誰かいい人がいたら。そんなふうに思っていた頃に知り合ったのが庸介さんだったそうです。 美和さん: 「結婚を決めましたとご報告した時も本当に喜んでくださって。最初は式をするつもりはなかったんですが、おふたりをはじめ、この縁をつないでくれた地域のみなさんにお礼を伝えたい、何か恩返しがしたいという気持ちが湧いてきたんです」 庸介さん: 「そこから結婚式のアイデアを考え始めて、ふっと思いついたんです。お世話になったこの旧老川小学校で結婚式をやるのはどうだろうって」 慣れ親しんだ大切な場所で、結婚式を挙げたい 上空から見た旧老川小学校。円形の屋根の建物が結婚式を行ったホール ふたりが相談したのは、旧老川小学校の管理運営を担当する良品計画大多喜チームの野村さんと安井さん。結婚式を企画するのはもちろん初めてのことでしたが、二つ返事で引き受けたといいます。 野村さん: 「坂倉くんから、大多喜町で出会ったみなさんに感謝の気持ちを伝えたいと聞いて、ぜひ協力したいと思いました。じゃあまずは実現するためのチームを作ろうと。そうしたらふたりが出会うきっかけを作った仲人さんが、僕たちもよく知っている町内の塗装屋さんだということがわかったんです」 安井さん: 「そこからは芋づる式に、各所で頼りになるメンバーが見つかりましたね。地元の人もいるし、移住して来て房総に住んでいる人や、房総が好きでよく遊びに来る東京の人もいる。 ウェディングプランナー、カメラマン、司会、着付け、ヘアメイク、ミュージシャン、フローリスト、植樹の手配をしてくれる植木屋さんから、ファーストバイト用のケーキを作ってくれるレストランまで、とてもスムーズに決まりました。それでキーワードは「つながる」だねって話になったんです」 みんなに感謝を伝えるための「つながる市」を同時開催 いくつも並んだ白いテントには飲食ブースがずらり。出店者も笑顔になるマルシェ 大多喜町という町とのつながりが、そこで暮らす人と人とのつながりを生み、さらにその思いがつながって、唯一無二のウェディングプランに結実していく。みんなでアイデアを出し合い、当日は結婚式と同時に「つながる市」と名付けたマルシェを行うことにしました。 参列者はもちろん、一般のお客さんも自由に出入りができるイベントです。出店に協力してくれたのは、地元大多喜町ではおなじみのおいしいもの屋さんたち。クラフトビールにコーヒー、おにぎり、チーズ、はちみつ、焼き菓子など、その場で自由に食べたり飲んだりできるものから、千葉にちなんだバラエティ豊かなお土産まで盛りだくさん。 美和さん: 「家族や親戚、友人、仕事で知り合った地元の方たちなど、約100名を招待しました。マルシェで買い物ができるギフトカードを渡して、当日はまず、つながる市を楽しみながら敷地内を散策してもらったんです。無印良品のミニショップあり、地元・いすみ鉄道と小湊鐵道のオリジナルショップありで、私ももっとじっくりマルシェを見たかったくらい(笑)」 庸介さん: 「一足早くビールで乾杯する親戚や、校庭で遊ぶ子どもたち、買い物を楽しむ友人もいて、自由にくつろいで過ごしてくれたのがよかったですね。僕も着替えを済ませてからは校庭に出て、みんなと話したりしていました」 庸介さんが切ったケヤキが結婚式場の美しいオブジェに レッドカーペットの先には手作りのステージ。会場の装飾もみんなで協力して行った いよいよ式本番。結婚式のメイン会場には多目的ホールが選ばれました。 真っ白な布をリボンのように張り巡らせた館内でひときわ目立つのは、庸介さんが自ら切り出してきたという、大きなケヤキを使ったオブジェ。布を巻きつけて天井から吊るし、白い花や緑の葉物の植物を随所に固定して作った、フローリストさん渾身のオリジナル作品です。山林の環境を整備するために切られた木がこんなふうに生まれ変わるとは、なんともすてき。 さらにBGMは生演奏で盛り上げます。無印良品の店舗でも聞き馴染みのある心地よいアイリッシュ音楽を奏でていたのは、豊田耕三さん率いるバンドのみなさん。 このステージでふたりが選んだのは「人前式」でした。この場に立ち会った参列者ひとりひとりに、生涯添い遂げることを誓います。 庸介さん: 「お世話になった方々の前で行う人前式は、当日の一番の楽しみでしたし、緊張もする場面でした。誓いの言葉ですか?もちろん必死で暗記していきましたよ!なんとか間違えずに言えてホッとしました。思い出すだけで汗が出てきます(笑)」 大切な人たちから心のこもった祝福を受けて 美和さんが担当するふたりの子どもたちからは、手紙の朗読のプレゼント 結婚式では真っ白なウェディングドレス姿だった美和さんですが、その後披露宴のお色直しではお母様から譲り受けた大切な晴れ着を着用しました。いつか結婚する時にはこの着物を着る。それは美和さんにとって、ぜひとも叶えたかった願いのひとつだったそう。育ててもらった感謝を込めて、美しく装いたい。ここでも、娘と母の思いがつながっています。 長年児童福祉施設に勤める美和さんにとって、もうひとつの特別な存在が子どもたち。普段から取り組んでいるというハンドベルの演奏を披露してくれたほか、15年間担当をしているという高校生のふたりからは心のこもった手紙の朗読も行われました。 美和さん: 「子どもたちが一生懸命準備してくれたのがわかってうれしかったですし、とても感動しました。みんながマルシェで買い物をしたり、おいしいものを食べたりして、笑顔で楽しんでいる姿を見られたのもよかったです。母も本当に喜んでくれて、胸がいっぱいの忘れられない一日になりました」 町とともに成長していく記念樹は、夫婦円満のオリーブ 家族、親戚、友人、同僚、町の人たち、マルシェの出店者と来場者に祝われて ホールでの式を終えた新郎新婦を待っていたのは、総勢300人の祝福客からのフラワーシャワー。参列者や出店者、そしてマルシェに買い物に訪れた町の人たちの間を通って、校庭の一角、とある場所へと向かいます。 ここで行われたもうひとつのメインイベントが、植樹。ふたりの新たな門出を祝い、これからの未来に向けて大きく育っていくシンボルツリーを植えることになったのです。選んだのは“家庭円満”“夫婦円満”のシンボルとされるオリーブの木。あらかじめ掘られた穴の中に苗木を入れ、新郎新婦がふたりそろってシャベルで土をかけました。 野村さん: 「旧老川小学校は大多喜町から借り受けている場所なので、もちろん事前に許可を取りました。結婚式をやるということにも、記念の植樹をやりたいという希望にも、快く応えていただいてありがたかったです。当日は町長をはじめ、役場のみなさんもお祝いに駆けつけてくれたんですよ」 … Continue reading 廃校になった小学校で “感謝” のウェディング