ローカルニッポン

下関の「点と線」Vol.5|‟オモシロい”をデザインする着眼点 やすむろヨシヒサさん

書き手:えさきあさみ
東京から下関に移住して4年。元アパレル店員、趣味で銭湯ライターをしていた事を生かして、江戸と昭和レトロをこよなく愛する独自の視点で下関の魅力を地元WEBマガジンで執筆中。

山口県下関市のユニークなヒト・モノ・コトを6つの「点」としてストーリーを紹介しています。あなたも今まで知らなかった「下関の点」を繋いで、自然や食との関わり方に目を向けてみませんか。

やすむろヨシヒサさんは13年前、“なんとなく”のインスピレーションで下関に移住。以来、地域と共に下関のソウルフードや歴史的スポットの魅力をデザインで伝える活動を続けています。本州の“すみっこ”、都市と自然が調和するこの地で、やすむろさんの視点が紡ぐユニークなコラボレーションをご紹介します。

東京から下関へのIターン移住

やすむろさんは、“つくるをデザインする”というビジョンのもと、山口県内と首都圏を行き来しながら、下関をPRする物産品のプロダクトデザインや移住イベント、プロジェクトの企画・運営をしています。

大学卒業後、東京で紙の販売会社の営業からデザイナーに転身。2000年に30歳で独立後は、企業や店舗のWEBサイト・フライヤー・ショップカード・ロゴなどのグラフィックデザイン、ブランディングなど幅広く活動してきました。

奥様と、息子さんとの将来の暮らし方を考えた時、地方で子育てしたいねと話していたこともあり、2011年に下関へのIターン移住を決めました。移住先の決定打はまさにインスピレーション。「家族でいれば、どこでも、きっと何とかなる」と下関を“直観的に”選んだといいます。

地域と繋がる“飲みニケーション”

営業経験もあるので、人との距離の縮め方には自信があったというやすむろさん。ですが、さすがに土地勘もなければ、知り合いもいないはじめの1、2年は、本当に商売になるのか、と不安がありました。
そこで、自身が“商品”を持っていないからこそ、商品を持っている人の力になる仕事をしよう、と移住してからは知り合いやきっかけを増やす機会を模索しました。

やすむろさん:
「いろんなコミュニティに顔を出しました。単なる飲み会ではなく、飲む前にビジネスの勉強会をしたり、地域のビジネスオーナーを招いてのトークイベントを開催したり、そんなイベントに参加するうちに新たな知識や着眼点を得ることもでき、他業種の方との輪が広がりました。もちろんその後のお酒の席での交流も楽しみの一つではありましたね(笑)」

その他、市内でものづくりする方のPR支援や困りごとを必死に解決するたびに、デザインの引き出しが増え、知り合い経由で依頼を受けることも多くなりました。持ち前の“飛び込み力”で築いた地元の人脈が、やすむろさんの活動を支えています。

一体ナニモノ!?な、やすむろさんの活躍

やすむろさんは20面相さながらのさまざまな顔をもちます。“クリエイティブデザイナー”と簡単に一括りにできない、多岐にわたる仕事内容の一部を紹介します。

パッケージデザイン:いわゆるパッケージデザインの領域だけではなく、広義におみやげや物産品の企画開発からブランディングまでを行う。例えば、フグ刺しを瓶で販売するというアイディア「瓶のふぐさし」は、“ふぐの加工品がもつイメージとは全く違う切り口で”と依頼され、全体のブランディングまで行った。

イベント・店舗のPR支援:市内のイベントや人気ショップの新商品をPRする特設WEBサイトやチラシの印刷まで一貫して行う。例えば、都内で開催した山口県の阿武町や萩市主催の移住関連イベントでは、イベントそのものの企画・運営のほか、動画制作、“ヤマグチのイリグチ”というコピーライティングやWEBサイトのロゴ制作も担当した。

地域に根差した取り組みを続けるうちに、持ち込まれる依頼や相談がWEBデザインという点だけでは解決できないことにやすむろさんは気づきます。WEBデザイナーだからこそわかる、アナログの商品づくりの良さがあると、プロダクトデザインにも力を入れるようになりました。下関の人と時間をかけ、思いを込めてひとひねりの工夫を生み出すことこそが、やすむろさんのアイデンティティとなりました。

幕末ファン必見、国宝を有する功山寺グッズ

功山寺山門。奥に見える建造物が昭和28年(1953年)国宝指定の「仏殿」

功山寺山門。奥に見える建造物が昭和28年(1953年)国宝指定の「仏殿」

やすむろさんを取り巻くご縁が繋がり、幕末ファンにも人気の功山寺(こうざんじ)で、幕末の長州藩士・高杉晋作ゆかりのロゴデザインやグッズを手掛けることになりました。功山寺は下関市の長府毛利藩が治めた城下町長府に位置し、鎌倉時代に開山された曹洞宗の寺院で、日本最古の禅宗様式を残した仏殿が国宝指定される県内有数の観光名所です。

高杉晋作が訪れた「七卿(しちきょう)潜居の間」。幕末の資料も閲覧できる

高杉晋作が訪れた「七卿(しちきょう)潜居の間」。幕末の資料も閲覧できる

功山寺境内の売店ではやすむろさんがプロデュースした限定グッズである、Tシャツ・御朱印帳・ファイル・キーホルダーなどが販売されています。

高杉晋作にまつわるグッズの制作

やすむろさん:
「ワクワクした気持ちで功山寺のプロダクトを考えられるのは、元々自分が幕末オタクだったことも大きいです。あの高杉晋作の「回天義挙(かいてんぎきょ)*」の舞台の場所かと感動しました。挙兵し、この奥の間に実際にいたのか…と当時に思いを馳せながら、ロゴデザインをしました。
例えば勝守(かちまもり)にあしらわれたロゴには、武功を表した「刀」・粋な遊びと酒が好きなことから「瓢箪(ひょうたん)」「三味線」を組み合わせてデザインしています。自分がおもしろくないとやりたくない…いや、続けられないですから!」

*回天義挙…倒幕のために高杉晋作が兵を挙げ、幕府に対抗する決意を示した歴史的な一連の行動のこと。元治元年(1864年)12月、雪の降る寒い夜で、下関の功山寺に集まった少数の仲間と共に決起し、倒幕派が活気づく大きな流れを生み出したといいます。

高杉晋作が夜に挙兵したとされるイメージをロゴに込めた「勝守」と「御朱印帳」

高杉晋作が夜に挙兵したとされるイメージをロゴに込めた「勝守」と「御朱印帳」

懐に入りこむ、やすむろさんの人柄

ご自身の関心がある領域でデザインのお仕事ができることになったきっかけは、お寺の檀家さんと知り合ったことでした。販売するおせんべいの焼き印を作ってくれる人がいないかと相談を受けたことがはじまりだったそうです。
実際に売店で働くスタッフの方とお話ししてみたところ、やすむろさんが功山寺のグッズデザインを担当したこの10年ほどの間いつも大事にしてきた、功山寺らしい、歴史の意味をくみ取ったここでしか買えないものを作りたいという思いを伝えてくれたといいます。 伝えられたイメージを大切に、デザインや試作品を考えてくださるやすむろさんの人柄こそが、長きにわたる関係性の理由といえるでしょう。

実際に、ご住職とその奥様の「こういうのがあったらいいな、考えてみて!」から企画会議がはじまり、日をあけて試作品を何度も提案。やすむろさんはご住職の本当に納得した表情を得るまで、微調整の時間を惜しみません。双方が妥協をしない、心地よい距離感でのお付き合いが続いているといいます。

製作した萩焼のフリーカップ(2,200円)。余白を大事にするやさしいデザイン

製作した萩焼のフリーカップ(2,200円)。余白を大事にするやさしいデザイン

おもしろいことを任せてもらえている、という“環境と人との関係性” こそが、やすむろさんの一番のエネルギーとなり、クリエイティブを生み出す源泉となっているといえるのではないでしょうか。

「もずく×デザイン」でもずくスープを全国へ

突然ですが、下関の密かなソウルフードである“もずくスープ”をご存知でしょうか? 市内のスーパーでは必ず販売されるほど、地元に愛されるもずくスープ。やすむろさんはそのブランディングを任され、観光資源としてのもずくの新たな価値を全国に発信しようと商品のプロデュース全般を請負い、公式オンラインショップを運営しています。もずくをもっと楽しんでもらえるように、とエコバッグなどのグッズやもずくスープの新パッケージも制作中です。

カップタイプのもずくスープ。さまざまな角度からもずくスープの“オモシロさ”に着目

カップタイプのもずくスープ。さまざまな角度からもずくスープの“オモシロさ”に着目

きっかけは、飲み仲間でもあった下関市彦島でもずく製品の製造販売を行う『有限会社もずくセンター』の工場長さんから相談を受けてのこと。どんなことにも耳を傾けてくれるやすむろさんの人柄が、こういったところからも感じ取れるのではないでしょうか。

やすむろさん:
「味が絶妙で本当においしいんです。“もずくなしのスープだけ販売してください“とWEBサイトに問い合わせがくることもあります。でもよくよく考えてみると、もずくは沖縄県産100%ですし、下関でもずくを獲ってないのに、なぜかもずくスープを中心に取り扱う専門の会社があって、“長く愛されている”って何だかおもしろいと思いませんか?僕にとって不思議な魅力を感じる“オモシロい”なんですよね」

“本当にワクワクするものを”と、遊び心を忘れないデザインがやすむろさんのクリエイションの特徴です。

やすむろさん:
「庶民的なイメージがあるもずくを、イベント出展などで“見せ方”を変えてみたらどうだろう?流行りのカフェみたいに、もずくスープのスープカップにスリーブをつけてカッコよく売ったら「オモシロくない?」みたいなひとひねりしたアイディアを持ち込んでいます」

最近では小分けにした「生もずく」が冷凍保存もできて便利だと知り、トッピング方法やアレンジ調理などをYouTubeで動画配信中。見た目のデザインだけでなく、もずくそのもののイメージや利用の可能性までをブランディングしています。

一目でオモシロさを伝えたいと、特注の“もずくメガネ”もデザイン

一目でオモシロさを伝えたいと、特注の“もずくメガネ”もデザイン

やすむろさん:
「あのもずくが“なんでカッコよくみえるんだろう!?”と、下関の人はもちろん全国の人におもしろがってほしいですね。興味を持ってもらい、身近な存在になってもらえるように発信を続けていきたいです」

移住して知った、自分の価値観

やすむろさんは自身に移住者目線があることが最大の強みになったと教えてくれました。 先住の“慣れ”がないことで、無我夢中で下関のオモシロさを探し続けることができるのかもしれません。

やすむろさん:
「下関での繋がりが深まるほど、自分自身の新しい価値観を見つける楽しさが広がります。下関に来たら、まずは自分に合う人を見つけてみてください!僕を指名して相談してくださってもいいですし(笑)、飲み屋やイベントでそういう人にたくさん出会えると思いますよ」

地元の人との繋がりを手探りでたぐりよせ、人脈を築いたり勘所を押さえて活動してきたやすむろさん。とはいえ、移住者全員が同じことをできるわけではないと、自身の経験からカジュアルな移住の窓口の必要性を感じ、2016年に「山口移住計画」という地域プロジェクトを立ち上げました。移住したい人/した人同士のコミュニティ・仕事・住まいの情報等をWEBサイトやイベントを中心に発信されています。

やすむろさん:
「その人に合った、移住の仕方・移住後の根の張り方を見つけられるはずですよ。今はオンラインでできる職種や仕事自体も見つけやすい時代だと思うので、移住には絶好のチャンスです!僕は移住して、人との関わり方が変わりました。都会にいる時は、隣町におもしろい人がいるとか、旅行者に紹介したい人なんていなかったですもん。きっと下関という町は、人口密度が反比例して、人との距離感が近くなり、一人ひとりとの繋がりが濃く感じられるんでしょうね。あとは人だけでなく素晴らしい観光資源がたくさんあって、それが分散しているのが特徴です。それは魅力でもあり、もうひと工夫できる余白でもあると思っていますので、微力ながらデザインの力で盛り上げていきたいと思います」

素敵なヒト・モノ・コトがあり、その地名度と魅力の発信が点在する下関。やすむろさんは、デザインアイディアで改めて価値を見出しそれらを束ねることで、下関の強いパワーを発揮させたいと日々奔走しています。
やすむろさんの視点を通じて見つけた下関の魅力。次はあなたがこの街を旅して、視点や価値観が変わる瞬間を楽しんでみませんか?

文:えさきあさみ
写真:えさきあさみ、やすむろヨシヒサ
*トップ画像と3枚目の画像は、特別な許可を頂き功山寺有料エリアで撮影しています。

リンク:
ヤスムロプラン HP
下関もずくセンター通販SHOP「もずくストア」
やすむろさん主催「山口移住計画」ホームページ