ローカルニッポン

山の息吹を感じて – 「きこりプロジェクト・山学校」の取り組み


放置された杉林

春、これまで白と黒だった世界が色づき始める季節。

早春の山の色づきは、膨らんできた木の芽の、ぼんやりとした赤みがかった灰色からはじまり、次第に新緑へと変わっていく。雪がまだ残る山肌で真っ先に緑の葉を萌え出すのはブナ。それに続いてすべての木々がわれもわれもと芽吹き始める。ひとくちに緑といっても、黄色がかった若草色から、少し銀色を帯びた花緑青、鮮やかなビリジャンなど、木によってその色は多彩で、そのいろどりが日々変化する様を見るのはこの季節だけの贅沢だ。

五月も半ばになると新緑の色も一様に落ち着き、桐の花と藤の花が薄紫に咲き競うようになる。特に近年は、どこの山も藤の花で点々と紫に彩られ、道路わきの杉の木にも藤ヅルが絡まって咲いているのが目に付く。中には根元から天辺まで藤の花でおおわれ、クリスマスツリーさながらの姿をした杉もあちこちで見られる。思わず車を止めて眺めてしまうほど美しい。しかしこれを天然の藤棚だ、などと喜んでばかりははいられない。これほど藤ヅルが絡まっているということは、その杉林を、持ち主が手入れせずに放置しているということだからだ。

きこりという仕事

会津自然エネルギー機構では、このように手入れされずに荒れてしまった山林資源を活用して、地域の中でエネルギーを創る取り組みをすすめていきたいと考えている。しかし、その基礎となる山の木々を伐採する人たちが減ってきている。一般的な人たちからすれば、まず林業が十分な収入の得られる仕事として成り立つのかどうかわからない。また農業と違って、どこからどうやって林業という仕事にアプローチすればいいのかもよく見えない。映画、WOOD JOB によってイメージアップが図られたかは定かでないが、そういった状況で、きこりは、ほとんど絶滅危惧的職業となってしまっている。

伐採練習風景

きこりプロジェクト

そこで始めたのが、「きこりプロジェクト・山学校」の取り組みだ。会津のきこりが講師となって、木を切って山の手入れができる人を養成していくのが目的だ。平成26年春から月1回のペースで開催し、先日2年目となる今年第1回を実施した。

昨年からの参加者と始めての参加者が、きこりとその弟子たちといっしょに杉林の伐採をした。今年は昨年より経験者が増えたこともあり、ある程度経験をつんでいる方と初心者の方、若い弟子たちが小グループに分かれてチェンソーの手入れから伐倒までの一連の作業を行った。参加者のチームワークによって木が次々と伐られ、鬱蒼とした杉林が、風通しのよい林になっていくのは見ていても気持がいい。

木を伐るということは、単なる作業にはとどまらない。一本一本のいのちに向き合うことであり、木の大小にかかわらず真剣勝負である。だから、木が思った方向に倒れると、みんなに感動の気持ちが生まれる。そして、その木を十分に活用させてもらうことが感謝を表すことだと感じるのだ。

そんな気持ちを参加者みんなで共有しながら、少しずつであるが、荒れた山林の整備をし、きこりのプロフェッショナルの育成を進めて行きたいと思っている。

文:会津自然エネルギー機構 代表理事 五十嵐乃里枝