棚田と伝統古民家の集落
長岡市と小千谷市の市境の山間地にある法末集落は、棚田とよく保存されている伝統的古民家がつくる美しい里山風景が評判です。
現在住民は73人 戸数39戸、高齢化率70%超の山間集落です。
日本海まで20キロ。冬は積雪が4mを越える豪雪地帯で、つい数年前までは集落の男衆は冬の間東京に出稼ぎに行っていました。
しかしこの雪が山のわき水となって稲作を可能にし、標高300mの集落は夏でも朝夕は涼しい気候で、これが甘みのある美味しいお米コシヒカリを育てます。
山では山菜や山野草が豊かに茂り、美味しい湧き水がそこここに出ています。
中越震災からの復興
平成16年10月の中越震災は、法末集落の家屋も農地にも大きな打撃を与え、住民は一時麓の町に避難しました。
しかし 翌年の春には震災で被害が少なかった昔からの旧道を歩き、集落に通い、家や農地の復旧を自力で始めました。
防災集団移転事業という、自然災害に遭った地区をまとめて移転させる補助事業の提案も行政からはありましたが、住民は迷うことなく集落に帰るための作業に一生懸命でした。
その結果震災後3年を経ずして、集落にはほぼ全戸が戻り、棚田など農地も元どおりに復旧され、中越震災からもっとも早く復興した集落です。
私ども法末天神囃子は震災復興支援のボランティアとして法末に関わるようになり、2012年に自ら収益を上げ、それを活動資金として集落活性化事業を続けることを目指して、株式会社を設立しました。
復旧から再生へ
震災からの復旧の時期は終わり、平穏な暮らしが戻った集落ですが、高齢化は深刻です。
これからは山間集落が再生し、その素晴らしい環境と暮らしを次の世代に引き継ぐ仕組みが求められています。
棚田がまだ維持されていますが、70才代を中心とする現役農家に跡継ぎは一人もいません。
法末は棚田とともに生きてきた集落です。この棚田後継者の問題を乗り越えることで、集落の将来は見えてきます。
棚田で食える農村へ
集落の歴史は1509年から始まっています。この500年を豪雪や震災に耐え、美しい集落景観を育んできた法末の将来、つぎの百年をいかに切り開くか。高齢化率70%を超える限界集落が、これから若い人たちが誇りをもって、安心して暮らせる農村になるための方策をいろいろ実施してきました。
そのなかでも最も力を入れている方策が棚田米の販売です。地元農協にはもう頼れないことは明らかです。これからは独自の販売ルートを開拓し、大規模流通などの市場価格との競争に巻き込まれない販売方法を構築します。
棚田を一町歩(1ha)耕作することで250万円の収入が保証されれば、きっと集落出身者が戻ってくるか、Iターンの若者が住むようになるでしょう。
そのためには1キロ千円で棚田米を購入してくれる顧客を見つけなければなりません。それには新潟県内はもとより、首都圏のマーケットを開拓することが重要です。
農業では食えないと誰もが言います。しかし「棚田なら食える」と言えるようになったとき、法末集落の次の百年が見えてくると信じて、顧客開拓に取り組んでいます。
その取り組みの一つが良品計画との連携事業です。一つは無印良品有楽町店前での棚田米販売キャンペーン(棚田米マルシェ)です。棚田米という稀少で環境共生のブランドイメージを、無印良品の企業イメージと合わせることで、銀座有楽町を訪れる人々にアピールすることが狙いでした。
二つ目が、棚田米作り体験ツアーを良品計画のネットワークと発信力を活用して、参加者募集実施をすることです。今後は参加者と棚田オーナー型の契約を結んで、棚田米づくり体験の喜びと棚田米のおいしさを知ってもらい、永いおつきあいをしてもらう計画です。
また、法末天神囃子の自主事業としての取り組みが棚田米のおにぎりブランドの獲得です。たとえば社員食堂のない事業所の従業員の昼食としておにぎりを販売する「オフィスおにぎり」作戦。毎日昼食探しに苦労している新宿の高層ビル街のサラリーマンに、おにぎりを社内販売する「オフィス置き菓子」の昼食版の発想です。
お米を1キロ千円で買う人は少ないですが、棚田米のおにぎりをひとつ150円で買うサラリーマンは沢山います。原材料費として計算すれば、お米1キロを2千円で販売した計算になります。
山間集落がメディアになる日を
農山村といえば、過疎高齢問題で消えかかっている地域というのが大概の日本人のイメージでしょう。しかし法末集落の震災復興に関わるなかで、自給自足がほぼ可能で、自助共助に支えられた地域コミュニティ、ゆったりと自然と共生するライフスタイルなど、日本の山間集落の魅力を発見し、そこに21世紀の理想の暮らし方の素地があると感じるようになりました。そしてその持続発展につながるようなブランド戦略を模索してきました。
法末という集落についての話題、そこを訪れたという体験、そこに関連する取り組みに関わったということが自慢になるような場所になったとき、法末は情報が集まり、そして魅力的な情報がいつも発信される「メディア」になります。このブランド力を獲得するためには、多数のサポーターと彼らの間で常に法末にまつわる情報が発信共有される環境が整えられる必要があると考えます。下に法末のメディア化に向けた今後の取り組みメニューを記します。
- ①新聞やテレビなどメディアや、ブログやSNSなどのITを活用したシームレスな情報発信
- ②法末の名前を冠にしたイベントやマルシェなど食のイベントを都内など各地で逐次開催
- ③棚田米作り体験、山菜採り、キノコ採り、キッズキャンプ、蛍鑑賞など体験ツアー開催
- ④茅葺き作業、除雪作業、山林の保全作業など作業ボランティア活動
- ⑤盆踊り、斉の神、二年詣りなど集落の伝統行事や伝統芸能維持への参加
文:株式会社法末天神囃子 代表取締役 宮田裕介
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法末天神囃子