ローカルニッポン

まちの小さな公園に出現!新旧住民が自然とつながる“オール地元”の朝マルシェ / 豊島区


豊島区東池袋に、日出町第二公園という小さな公園があります。公園といっても、砂場や遊具があるわけではありません。むしろそこは、「ここって、本当に公園なの……?」と、初めて見た人ならちょっと戸惑ってしまうような場所。事実、毎日近くを通っている住民や通勤者にも、「そこに公園があることを知らなかった」という声があるほどです。

2014年に「消滅可能性都市」とされた豊島区が抱える課題のひとつが、小規模公園・児童遊園の活用。それを解決するためのプロジェクトの一環として、2017年12月17日(日)、ここ日出町第二公園で小さな“実験”がおこなわれました。

「HINODE MORNING MARKET」

豊島区には、都立公園のような大きな公園がありません。住宅の中には小さな公園や児童遊園が数多く点在し、その多くが、時代や環境の変化により地域住民のニーズと上手くマッチしていないのが現状です。

そこで立ち上がったのが、豊島区の女性にやさしいまちづくり担当課、東池袋に本社拠点を持つ良品計画、そして同エリアにコミュニティーの拠点を構える日の出ファクトリーでした。

目指すのは、区内に点在する中・小規模公園の有効活用などのプロジェクトを展開し、地域コミュニティーの醸成を促すこと。そのプロジェクトの第一弾が、日出町第二公園での「HINODE MORNING MARKET」なのです。

古くからの住民と、新しく暮らしはじめた住民とが交わるきっかけを

「住民からのヒアリングでは、地域の憩いの場として、そして子育て環境としての公園へのニーズが非常に高いことが窺えました。一方で、区内に点在する多くの中・小規模公園の中には、必ずしも有効活用されていないものもあるのが実情です」

そう話すのは、豊島区女性にやさしいまちづくり担当課長の宮田麻子さん。そんな住民のニーズに対して、多大な予算と時間のかかる“公園の整備”という解決策だけではなく、“いまある公園をどのように活用するか”に着目したのでした。

そのような経緯で動きはじめた「HINODE MORNING MARKET」。その名の通り、午前9時から12時までの朝の時間帯、公園に即席のマルシェをつくります。

「この公園の特徴は、その立地にあります。大きなタワーマンションが建つ再開発後のエリアと、古くから暮らす地域住民が暮らす、商店街や空き家の多いエリア。そんな対照的なふたつのエリアの、ちょうど中間地点にあるのが日出町第二公園なんです」

「HINODE MORNING MARKET」企画運営の中心である日の出ファクトリーの中島 明さんは、この場所を選んだ理由をそのように話してくれました。

「もともと日の出ファクトリーも、豊島区の地域のなかで空き家を活用しようというプロジェクトを行っていました。その発想からいっても、この公園がある場所は駅前の一等地なんです。もっと活用し甲斐があるのに、通り過ぎるだけではもったいない。だから、新旧の住民が交流できる場をつくろうと考えました」

そのため出店者として募ったのも、創業100年を越える老舗から、ここ2、3年のうちにできたお店まで、新旧“オール地元”の人たち。

出店者を募る際の、プロセスにもこだわったという中島さん。出店が決まったお店には、それから何回も通うようになったのだといいます。

「それまでも地元のお店には積極的に足を運ぶようにしていましたが、『HINODE MORNING MARKET』への出店をお願いしてから、ぐっと距離が近くなりました。今回の企画をきっかけに、お店同士の“横のつながり”も育んでいきたいと思っています」

そうやって集まったのは、14の出店者たち。豚汁・スープ・おしるこ・コーヒーなど、フードや飲み物を提供するお店を中心に、ハンドメイド雑貨や古道具を出品するお店が一堂に会し、ワークショップや紙芝居もおこなわれます。「こういったイベントに出店すること自体が初めて」、「普段は実店舗を構えていないけれど、せっかくの機会だから」と、出店を決めてくれた人もいました。「良品計画」からは、公園の一角が憩いの場になるよう、ビーズクッションのソファとコンテナが貸し出されました。そんな風にして、公園内に、まちに暮らす人たちのための“地域のリビング”ができあがります。

目指したのは、家の延長のような、誰もが自然とつながる場

生憎この日は、朝から凍てつく風がびゅうびゅうと吹き荒れていました。強い風と寒さによって、テントや備品の設置に予想以上に手こずってしまいます。それでも9時のスタートに間に合わせようと、出店者同士で助け合いながら設営が完了。まちの小さな公園に、半日限りのマルシェが出現しました。

設営を終え、商品やサービスの準備を整えていると、ぽつぽつと人が集まってくるように。普段は「ほぼ、道の一部」といった認識で誰もが通り過ぎていただけの公園に、マルシェが現れるだけで、「立ち止まり、覗いてみる」という流れが生まれます。いち早く集まったのは、地域に暮らす子どもたち。ソファに座ったり、元気に走り回ったりしながら、楽しそうに遊んでいました。そんな子どもたちにつられるように、家族連れ、おじいちゃん、おばあちゃん、若いカップル、次々と地域住民がやってきます。

“わざわざ目的をもって行くマルシェではなく、生活圏のなかにある、家の延長のような場所”

つくりたかったのは、そんな場所。たしかに、誰もが同じ場所で買い物をしたり、ご飯を食べたりするなかで、自然とつながっていくようでした。知らない人同士が直接話すのは難しくても、雑貨や食べ物、お店の人、連れてきた犬、子どもたち、紙芝居、それらを介することで不思議と交流が生まれやすくなっていたのかもしれません。

そこに暮らす人たちが主体となってつくるまち

「最初のうちは、『実現は難しいんじゃないの?』なんて声も聞こえてきました。でも、町会には若い人をはじめとして人手が足りておらず、一方、再開発後にこのエリアに暮らしはじめた住民は、まちの人たちともっと関わりたいというニーズを抱えている。きっと、きっかけがなかったんですよね」

そう宮田さんが話すように、この日突然現れたマルシェにはまちのさまざまな人が集まり、いわばこれまでの溝を埋めるように、誰もが親密に交流しているように見えました。

小規模公園・児童遊園活用のプロジェクトは、はじまったばかり。区内に約150箇所ある公園・遊園は、それぞれ立地も地域性も違うため、場所に応じたコンテンツを企画していく予定です。

「ゆくゆくは、地域住民が『この場所を、こんな風に活用したい』と、自ら主体となって活動してほしい」のだと、宮田さんはいいます。「今回のように“区からの発信”ではじまるのではなく、ここに暮らす人たちの声をきっかけに、一緒につくっていく方が長く続くと思うんです」とも。

たしかに、東京でおこなわれているマルシェを見渡すと、どこか消費的で、単なる“場所貸し”のようになっているものが多いのかもしれません。運営者と出店者、また出店者同士のつながり、そして、まちの人たちの主体性が、なにより大切なのでしょう。

今回のプロジェクトでは、単なるマルシェの開催ではなく、“公園”という空間や“地域の人たち”が大きな可能性を秘めていることが確認できました。今後、どのようなアイデアが生まれ、どのようなコミュニティーが生まれていくのか、期待が膨らみます。

文:髙阪正洋
写真:西野正将