ローカルニッポン

nestと良品計画がつくる、まちのリビング。
IKEBUKURO LIVING LOOPが辿ってきた道。

書き手:坪根育美
神奈川県出身。編集者・ライター。Webメディア『greenz.jp』、月刊誌『ソトコト』などの編集部を経て独立。おもに、ものづくりや働き方をテーマに雑誌、Webメディア、書籍をはじめとする媒体で編集と執筆を行う。日々取材をしながら自分自身も新しい働き方、生き方を模索中。

池袋のグリーン大通りと南池袋公園を中心に展開する年に一度のエリアイベント「IKEBUKURO LIVING LOOP」。今年は10月18日(金)〜20日(日)に開催されます。今年で3回目を迎えるこのイベントの仕掛け人『nest』共同代表の青木純さん、第1回から関わる株式会社良品計画ソーシャルグッド事業部の林高平さんと無印良品 池袋西武店長の吉田明裕さんにお話をうかがいました。

nestと良品計画が目指したもの

池袋周辺の店を中心に出店数は3日間で延べ200にも上る。気になるお店があったらぜひ店主に声をかけてみよう

池袋周辺の店を中心に出店数は3日間で延べ200にも上る。気になるお店があったらぜひ店主に声をかけてみよう

青木さんが共同代表を務める「nest」は、「日常を、劇場へ」をコンセプトにグリーン大通りと南池袋公園エリアを住みたいまち、そして住み続けたいまちになっていくことを目指すまちづくり会社。IKEBUKURO LIVING LOOPと先日の記事でも紹介したnest marcheはそのための仕掛けのひとつです。

月一開催のnest marcheがまちの人の日常に寄り添うものなら、IKEBUKURO LIVING LOOPは年に一度、大きなメッセージを発信する場。フード、クラフト、ワークショップ、アートやパフォーマンスといったコンテンツを盛り込み、出店者数もエリアも拡大して開催されます。

IKEBUKURO LIVING LOOPの企画運営面における協力企業として参画しているのが無印良品を展開する良品計画。なぜ、良品計画が関わっているのか? それは、池袋の地元企業であることが大きく関係しています。

青木さん:
「nestを立ち上げる際、地元住民だけでなく、地元に関わる企業さんにも同じ方向を向いて一緒に歩んでほしいと思いました。そこで僕が、池袋に本社のある良品計画に話しをしにいったのが最初のきっかけでした。『暮らし』『地元企業』のキーワードで共同代表の馬場(正尊さん)が最初に思いついたのが、良品計画だったんです」

早速コンタクトをとり、意見交換の場が設けられました。そこでわかったのは、「池袋のまちをもっとよくしていきたい」という思いをお互いに持っていたこと。さらに、IKEBUKURO LIVING LOOPの種となるこんな話も。

青木さん:
「池袋に住んでいる人たちや、池袋によく訪れる埼玉県の人をはじめ池袋経済圏の人たちがまちをリビングのように使いこなすことで、まちが楽しくなっていくのがいいんじゃないかという話もしました。IKEBUKURO LIVING LOOPの名前はここでの話をヒントに付けました。LOOPには、まちを回遊しようという意味が込められています。池袋をもっと歩きたいまちにしていきたいと思ったんです」

左からソーシャルグッド事業部の林さん、nestの青木さん、無印良品 池袋西武店長の吉田さん

左からソーシャルグッド事業部の林さん、nestの青木さん、無印良品 池袋西武店長の吉田さん

このあとすぐに良品計画のチームがキャスティングされました。その中のメンバーの一人がソーシャルグッド事業部の林さんです。

林さん:
「本社だけの活動にとどまることなく、無印良品の店舗が主体となって動ける土台をつくっていく事を意識して参加しています。実は、IKEBUKURO LIVING LOOPの会場となるグリーン大通りって本社の人がよく通るんですよ。僕自身、今までグリーン大通りについて意識したことがなかったのですが、この取り組みに参加してまちの活用を考える重要性がわかりました」

壮絶でも手応えを感じた1回目

2017年11月にIKEBIKURO LIVING LOOP は初めて開催されました。これはなんと、同年5月に始まったnest marcheのわずか半年後のこと。そのため準備段階から運営までほんとうに大変だったそう。

月に一度のnest marcheの開催も同時に行いながら、11月の開催までにするべきことは山積み。nestと良品計画で構成されたプロジェクトチームで企画会議を開き、そこで出た案をnestがまとめて豊島区や関係者と交渉・調整を行い、またフィードバックする、ということが何度も繰り返されました。初めてのことだらけ、理想はあっても思うように進まないことのほうが多かったはずです。

青木さん:
「もう、大変というか壮絶。モチベーションが上がったり下がったりもしましたが、ゼロからイチをつくるために、未来のこと、前例がないことを、どこまで突破できるかを考え続けた半年間でした。

IKEBUKURO LIVING LOOPは壮大な社会実験なんです。そこに無印良品の世界観も入れて、関わる意味合いを大事にしたかったんです。企画会議のなかで『local meets local』というコンセプトが出てきたのですが、この言葉のおかげで目指す方角が決まったというか、チーム感がより強まった気がします」

路上での音楽ライブやクラフトのワークショップなど、まちを楽しむ仕掛けが散りばめられている

路上での音楽ライブやクラフトのワークショップなど、まちを楽しむ仕掛けが散りばめられている

やっとの思いで迎えた当日。通りにはお店が並び、会場のあちこちに屋外用の椅子やテーブル、ハンモックなどが配置されました。その様子は、訪れた人がくつろげるまちなかのリビングのよう。さらに、近隣店舗と連携した回遊マップが用意され、まちをまわりたくなる仕掛けも用意。まさに「LIVING LOOP」の空間がそこにありました。

林さん:
「僕らがやってきた準備よりnestのほうが圧倒的に大変だったと思います。でも会議のなかでは純さんは、笑顔で話してくれて苦労している空気は出さない。印象に残っていることがあるんですけど、1回目の開催が終わって最後のあいさつのとき、純さんが泣きながらキャストのみなさん、無印良品のスタッフ、nestのみなさんへねぎらいの言葉をかけていて。いろいろと大変な思いをしていても、それを見せずにほんとうにいいお父さんのようにみんなをまとめてくれたんだなと実感して、感動しました」

このときを振り返り「とにかくほっとしました」と話す青木さん。たくさんの汗と涙を流したあとに残ったのは、確かな手応えでした。

この手応えは次回、さらに実感することになります。

「まちが喜んでいる」と言ってもらえた2回目

初開催時、何より大変だったのは、求める理想の形にするために法律や行政のルールとどうすり合わせていくかということ。なんとかわずかな可能性を探してねばり強く形にしていった1回目ですが、その成功によって 2回目から多くのことが実現可能になりました。

例えば、キッチンカー。もともと池袋では、治安などの理由からキッチンカーの出店が基本的にNGとされています。けれどもメイン舞台となるグリーン大通りには、給排水が整っておらず、その場で調理をして食事を提供する場合はキッチンカーでなければ保健所の許可が下りない状況。それはつまり、IKEBUKURO LIVING LOOPで提供する食事がかなり限られるということを意味しています。このイベントで飲食が充実しないことはあってはならないと、1回目の開催前に青木さんは豊島区の職員とともにこの件を管轄している警察へ交渉をしに行きました。

青木さん:
「警備員をちゃんと配置し、問題が起きないように監視もつける。僕らが出店者の審査もして出店者の身元の確認もするから、なんとかやらせてくださいとお願いしてやっと許可が下りました。それで1回目が無事に開催できたので、2回目はもっとやっていいですよとなったんです。無印良品もキッチンカーを出してカレーの販売をしてたりしましたね。そんなふうに、自分たちで勝ち取ったものを実現して、できることを広げていったんです」

期間中はナイトマルシェも開催。池袋のまちにやさしい灯りがともる

期間中はナイトマルシェも開催。池袋のまちにやさしい灯りがともる

こうして着実に質を高めていった結果、青木さんの心を揺さぶる出来事も起こりました。

青木さん:
「『まちが喜んでいる』って、いろいろな方から前向きなコメントをいただけました。さらに、このまちに長く関わっている方、商店会の大先輩の方や重鎮と呼ばれるような方に『今まで40年位池袋にいてこんな風景を見たことはなかった』と言ってもらえて。その言葉を聞いてほんとうに、ほんとうに、うれしかったです」

3回目はこれから先の転換期

2年分の知見と経験をすべて詰め込み開催される今年のIKEBUKURO LIVING LOOP。その間に行われたグリーン大通り一部区間のインフラ整備によって、通りに新設されるコンセントを使っての給電が可能となり発電機が不要に。さらに給排水も完備。今後すべてのエリアで整備されていく予定だそうで、会場となる舞台もイベントに沿った形に変わりつつあります。

2回目まで理想の風景をつくりあげることに力を注いできた青木さん。だからこそ今回の開催にはこれまでにない思いが湧いています。

青木さん:
「この先、僕らが動かなくてもIKEBUKURO LIVING LOOPで伝えたいことがあたりまえのように浸透して、自然に動ける状態にしていくことが大事だと思っています。グリーン大通りのハードも変わりはじめていますし、きちんとプラットフォームをつくることができれば、僕ら運営側が事前に出店者を集めなくても開催できて、一年に一回ではなくもっと持続的な取り組みとして継続して行われるようになるかもしれません。今回はそこへの転換期になるような気がしています」

持続可能な仕組みと体制を整える次のフェーズに上がるときが来たということなのでしょう。「脱イベント」とも言っていた青木さん。そう、nestも良品計画もイベントを開きたいわけではありません。IKEBUKURO LIVING LOOPでつくられる風景が文化としてこの土地に根付くことを目指しているのです。

子どもも大人も笑顔になる空間

子どもも大人も笑顔になる空間

最後に海外店舗、本社勤務を経て今年2月から無印良品 池袋西武の店長を務める吉田さんは、今回初参加となるIKEBUKURO LIVING LOOPについてどのように感じているのでしょうか。

吉田さん:
「僕らがやるべきことだと思っています。無印良品にとって、地域と一緒に何かしていくことは、小売業を生業にしている以上とても大切なことだと思っています。とはいえ、僕らはまだこういうイベントや取り組みに対してまだまだ知見も経験もない状態なので、勉強しながらやっています。そして、ここで蓄えた知見を池袋以外にある店舗や各地域にも役立たせていきたいと思っています」

林さん:
「無印良品では単に商品を売るだけではなく、地域とつながることや暮らしに主体的に関わることは良品計画ではたらく社員としてやるべきことであると捉えているんです。だからこの活動に関しても、僕をはじめスタッフは自然に参加しているように思います。

自分たちもほかでイベントを開く際、一時的に人が集まるための装置として考えるのではなくて、nestのような考え方をしていかなければならないし、もっとまちと暮らしに寄り添ったものとして広めていかないといけないと強く思っています」

nestと良品計画それぞれの思いをもとに、ときに化学反応を起こしながら進化し続けるIKEBUKURO LIVING LOOP。池袋のまちがリビングへと変わる3日間はもうすぐです。

リンク:
IKEBUKURO LIVING LOOP