ローカルニッポン

オーナー制度でつなぐ、幻の枝豆「鴨川七里」

千葉県鴨川市には「幻」と呼ばれる枝豆があります。その名も「鴨川七里(しちり)」。「豆を煎ると香りが七里先まで広がる」という言い伝えが名の由来で、芳香と深い甘みは一度食べたらやみつきになると評判です。しかし、種の保存が始まってからも栽培の難しさや収穫期間の短さから地域内でも貴重な枝豆として知られてきました。この鴨川七里のオーナー制度がはじまってから今年で9年。料理コンテストなど新しい試みもはじまる中、今改めて鴨川七里の魅力に迫りたいと思います。

「在来種」とは何世代にも渡って地域に根付いた種のこと

まず「鴨川七里」が在来種であることからご紹介しましょう。現在市場に出回っている野菜のほぼ100%がF1種と呼ばれるもの。F1種(一代交配種)とは人為的に異なる親を交配して生まれた種のことで、この技術によって親の優性形質のみ発現させ、形や大きさも揃った野菜の大量生産が可能となりました。

それに対して在来種とは、長い年月をかけて特定の地域で育てられ続けた結果、親から子へ引き継がれる形質が固定した種のことを指します。地域の気候や風土に適した伝統品種ですが、自家採種する手間や栽培の難しさから、F1種が隆盛するにつれ市場で目にすることがほとんどなくなりました。

「鴨川七里」は、鴨川にて戦前から受け継がれてきた在来種です。千葉県のブランド米「長狭米」の米どころ鴨川では、かつて田んぼの畔に各農家に伝わるそれぞれの枝豆が栽培されてきました。時代の変化やF1種の拡大とともに徐々にこの風習が失われつつあった頃、先祖から受け継がれてきた種を守ろうと地元農家が協力。食味の良い数種の枝豆から、最も評価の高かった「鴨川七里」を選抜して「鴨川七里を育てる会」が立ち上がりました。

「鴨川七里」が枝豆の中でも特に栽培が困難な理由

それではどうして鴨川七里が幻の枝豆と呼ばれているのでしょうか。「鴨川七里を育てる会」の副会長であり「鴨川七里オーナー制委員会」委員長の永井洋さんにお聞きしました。

永井洋さん オーナー制度が始まった下小原地区の農場は壮大な景観に囲まれている

“鴨川七里は、「極晩生」といって枝豆の中でも最も収穫の時期が遅い品種です。仮に6月に植えても7月に植えても収穫期は10月の下旬から11月で変わらないんですね。まずはこの収穫時期が栽培の難しさと直結しています。台風の多いシーズンを過ぎてから収穫となるので、台風の被害を受けたり、収穫時期に水が溜まって圃場に入れなかったりして収穫が容易ではありません。”

永井さんら育てる会は、栽培の列を1メートルほど広く離し、芽が出た段階で深く畝を立てて水がたまらない工夫するなど台風の被害を最小限に抑える対策を重ねてきました。

鴨川七里の種を蒔く永井さん

“次に収穫が全て手作業ということです。収穫期間も約2週間と短く、人力で収穫して袋詰めしているためどうしても量に限りが出てしまいます。それゆえ一般市場には出回りづらいため、いつしか「幻」と呼ばれるようになりました。しかし、この種を守るためには多くの方に食べていただく必要がありますし、なによりせっかくの美味しい枝豆をしってほしい。そこで生まれたアイディアが「オーナー制度」だったんですね。”

収穫祭は秋の味覚で大賑わい!オーナーが直接収穫する仕組みとは

オーナー制度とは、農水産品や加工品に対して消費者が生産者に直接予約注文を入れる仕組みのこと。鴨川七里のオーナー制度では栽培管理は収穫まで地元農家が担当し、収穫はオーナーの手によって直接行われます。

10月下旬から11月初旬の収穫期に自らの区画で収穫を楽しむオーナーの様子

“市場出荷の難しさは、収穫時期に人手が足りないことにあります。オーナー制度にてオーナーの方々がご自身で収穫してくださるのであれば、一人でも多くの方に鴨川七里を楽しんでいただけるのではと考えました。さらに収穫のために都会から鴨川へきていただければ、直接お話しすることができます。過疎化の進む地域ではありますが、この景観を喜ばれる方も多く、オーナー制度をきっかけにこの地域とつながってくださる方も増えています。”

地元の学校では種まきから収穫まで通して子どもたちに鴨川七里を伝えている

“収穫の期間に入った最初の土日は各地区で収穫祭を開催します。ここ下小原では近くの神社で朝8時からスタートし、その時期に採れる旬の作物が大集合して収穫の秋を楽しむことができます。大きな羽釜にたっぷり水を入れて鴨川七里をさっと茹でて食べるんですが、個人的にはこの食べ方が一番美味しいと思っています。ぜひオーナーになっていただいて収穫祭でお会いしましょう。”

「鴨川七里」のブランド化が都市と鴨川の出会いを育む

永井さんが暮らす下小原地区からはじまったオーナー制度ですが、年々受け入れ先の地区が拡大し現在では市内5地区にて導入されるに至りました。こうした地元農家を中心とした取り組みの高まりに対し鴨川市や商工会も連携して料理コンテストや加工品の生産も積極的に進めています。最後にこのような一連の動きについて鴨川市役所農林水産課の谷武俊さんにお話を伺いましょう。

“栽培が難しく大量生産はできない「鴨川七里」ですが、農家さんや商工会の方々の努力によって鴨川市の風土を伝える貴重な作物として年々その輪が広がりつつあります。飲食店や旅館、ホテルでも鴨川七里の区画を予約してお店で提供するところがある他、毎年の料理コンテストではバラエティ溢れるレシピが入賞しており、加工品の商品も増えてきました。またこのオーナー制度は多くの都会の方に鴨川に来ていただくきっかけにもなっています。これからもさらなるブランド化に向けて地域で協力してオーナー制度を進めていきたいと思います。”

鴨川七里のポスター 鴨川市全体でブランド化に向けて動き出している

特産品といえば、地域で広く生産されている野菜や果物、近海で獲れる魚介類などを思い浮かべますが、「鴨川七里」は生産量も少なく収穫期間も短い在来種。しかし、古くから先祖が守り伝えてきた種を守ろうとはじまったオーナー制度が今、その希少性や食味の高さからかえって都会と鴨川の交流を育みつつあります。「鴨川七里」の募集区画は全部で1000区画。1区画のオーナー料金は4,000円で、例年7キロから8キロの収穫量があるそうです。オーナーは収穫祭以外の日でもご自身のタイミングで圃場を訪れ収穫を楽しむことができます。申し込み締め切りは8月31日なので、鴨川七里を食べてみたいという方はお早めにお申し込みください。

文:東 洋平

【お申込み・お問い合わせ】
「鴨川七里」オーナー制委員会事務局 鴨川市商工会
〒296-0001 千葉県鴨川市横渚643-2
FAX:04-7092-0579
電話:04-7096-6500