ローカルニッポン

被災地奥尻で紡ぐ未来の可能性~奥尻の歩み編

奥尻島は自然が満ち溢れ、多種多様な生物が生息している北海道の島です。そんな奥尻島に多くの命を奪い去った悲劇が訪れました。それは1993年7月12日午後10時17分12秒、北海道奥尻郡奥尻町北方沖の日本海海底で発生した北海道南西沖地震です。震災による被害は今も人々に消えない傷跡を残し続けていますが、26年が経ち、奥尻島は完全復興を果たしたと言えるのではないでしょうか。現在はかつての奥尻島に匹敵する自然と生物の多種多様性を取り戻しています。

当時、人々はどのようにして震災から復興にむけて立ち上がっていったのか、そして、その行動が現在の奥尻島にどのような影響を及ぼしたのかを掘り下げていきましょう。

スクーバダイビングと被災

スクーバダイビングを楽しむ奥尻高校生

震災当時、島の子供たちはどのように思ったのでしょうか。家を、人を、自然を、すべてを飲み込んで迫ってくる津波を見た子供たちは、海を見てどのような感情を抱いたのでしょうか。それは「恐怖」ではないでしょうか。そんな子供たちを見て、当時の大人たちは焦りました。奥尻島の主な産業は漁業です。漁業は海と関わり、海に生きる仕事です。

「人口減少に拍車をかける切掛けにならないのか。それ以前に、オクシリブルーと呼ばれるこんなにも綺麗な海に島の子供たちが関わらないままでいいのか。」と、そんな思いから大人たちはすぐに子どもたちのために立ち上がりました。

「島の海を満喫してほしい!」、「奥尻島の魅力である海に恐怖を覚えたままでいてほしくない!」、そんな思いで誕生したのが、現在奥尻高校で行われているスクーバダイビング授業です。その機材を購入するための資金は、奥尻島に集まった募金から使われました。

このスクーバダイビングは今もその影響を強く残しており、2017年から始まった奥尻高校島留学制度の魅力の一つともなっています。そして現在、私たち奥尻高校生はスクーバダイビングを楽しみながら、海の美しさや自然の大切さを学ぶことができています。震災直後から大人たちが守り、子供たちに見てほしかった、子供たちの手によって後世に伝えてほしかった奥尻島の海が輝いています。

生まれた時から奥尻島の海と触れ合っている島の子どもたちからは、改めて「地元、奥尻島の海の素晴らしさを堪能することで再確認できてすごくいい経験になる。」「海という自然界の課題を再発見でき、解決していこうという姿勢になれた。」という声が出てきています。一方、奥尻島に来て2年目の生徒からは、「島民以外の目線で海への課題について島民である仲間と共有できたり、話し合いができるのでとても良い機会になっている。」という声もあります。

そのため、奥尻高校生の中にはこの受け継がれてきた想いから、将来漁業や海に関わる職に就き奧尻島に貢献したいという高校生もでてきています。また、海洋の課題について研究を行い、地域の方と意見交換をというアクションに繋げている高校生もいます。

スクーバダイビング授業を継続するために協力していただいている人たちや地域への感謝の気持ちが根付き、その感謝をどのように表現していくかを一人一人が考え始めているのです。

国際的な繋がり

青空の下、海を満喫している奥尻高校生

このように、奧尻高校でのスクーバダイビング授業は、島内、島外関係なく楽しめる授業となっています。しかし、楽しさだけではありません。過去に大震災に見舞われた奥尻島では、海と触れ合う中で震災の怖さを知る機会もあります。特に、今年は「『世界津波の日』2019高校生サミット in 北海道」が開催され、奥尻島もこのサミットに深く関わっているのです。

そして、私たち奥尻高校生がスクーバダイビング授業やこれまでの生活の中で学んできた「震災」について学びを深め、島民の方が抱く震災についての想いを語り継いでいく時がきたのです。

北海道南西沖地震は国際的にも大変注目されています。世界規模でみても、地震、津波の被害を受けて完全復興宣言を行った地域が稀なのです。「奥尻島での活動や、島民の思いが参考になるかもしれない」、「何か我が国の復興にも生かせるかもしれないので話を聞いてみたい。」という思いを抱いた高校生が世界中から集まる、国際交流の大規模イベントが「『世界津波の日』2019高校生サミット」です。

奥尻高校生徒は津波サミットへ向け、奥尻高校独自の活動として「帯トレーニング」と「English Camp」を行いました。「帯トレーニング」は、今年の2月から9月までの間、毎週火曜日~金曜日の放課後15分間に行いました。津波サミット参加を希望した生徒が集まり、災害と関係のある英単語や文法の勉強、さらに、南西沖地震と関係する奥尻島の各地のガイド練習を計89回行ったのです。参加していた生徒は、ほぼ毎日15分英語を話すことは辛かったけど、津波サミット本番で練習してきた成果を発揮できるように頑張りました。また、今年の9月にすべて終了して「達成感が得られた。」と語っています。

「English Camp」では北海道檜山管内のALT(外国語指導助手)達に島へ来ていただき、2泊3日ALL Englishでガイド練習を行いました。奥尻島の震災を生徒とALTとのペアで島の歴史とともに分析し、被害の大きかった地区に訪れ、ツアーを意識したプレツアーガイドを行ったのです。私自身もキャンプに参加したのですが、災害を深く掘り下げ研究することができ、奥尻島への関心が深まる時間だと感じました。さらには英語で調べ、英語で話し合い、英語で成果発表するため、スキルも上がり自信が付きました。

津波サミットに向けて進み出す

ALTと共にプレガイドツアーを行う奥尻高校生

このように、奥尻高校生は地元奥尻島で起きた南西沖地震について知識、関心を深めていったのですが、さらにこれまでの学習を深める機会が8月に実施された「『世界津波の日』2019高校生サミット」の「事前学習ツアー」です。このツアーでは、選ばれた北海道中の多くの高校生が2日間奥尻島へ訪れました。そして、北海道南西沖地震を経験した奥尻島の語り部さんたちの経験談を聞き、災害への知識と関心を深めました。また、地震の時はこう逃げたほうが良い、地震はどのようにして発生するのか、など専門家の方々の講演を聞く機会もありました。

実は、この語り部さんたちの話は、長年島に住んでいる高校生も知ることのできなかった深い話も多くありました。震災当時を経験した人たちはいずれ減ってくると思うのですが、その人たちが当時抱いた想いや経験は絶やしてはいけないとも感じました。そして、それを受け継いでいくのが私たち高校生でもあるのだと、改めて知り実感するチャンスがこの津波サミットなのではないかと思うのです。

いよいよ世界と繋がる

事前学習ツアーでの意見交流を行う北海道の高校生

この記事を書いている現在は、いよいよ「『世界津波の日』2019高校生サミット」を迎えようとしている時期です。サミットへ参加する奥尻高校生は、新たな視点から災害を知ることができたこれまでの活動を活かし、奥尻島を襲った南西沖地震と絡め世界中の高校生と共有していきたいと意気込んでいます。また、被災した家族の辛い経験を英語で伝えていきたいという気持ちで、サミットへ向け出発します。

南西沖地震は、美しい海が存在し自然とともに暮らし続ける奥尻島とその人々を襲いました。しかし、島の人々がその被害を忘れず、未来へ、子どもたちへと語り継いでいるのです。その想いは今も受け継がれ、子どもたちは成長し続けているのです。

あとがき

『世界津波の日』2019高校生サミットへ向け、奧尻島で学びを深める高校生たち

「『世界津波の日』2019高校生サミット」が9月10日、11日に札幌で行われました。その前の9月7日には奧尻島でスタディツアーも行われ、これまで準備してきた南西沖地震について海外の高校生へ伝え交流しました。

このような世界的な活動に参加することによって、奧尻島で起きた災害について深く学ぶこともできました。さらに、世界中の高校生徒との交流は、私たちの視野も広げる機会となりました。特に、奧尻高校から代表として参加した3名は、分科会で世界の高校生と共に話し合いました。そして、災害やその対策として世界の高校生がどのようなことを考えているのか知り、良い意味で刺激的な時間になりました。その様子を見ていた私たちも、様々な国の人と出会い意見を共有することがこんなに有意義で魅力のあることなのだと実感できました。

この貴重な経験から感じた想いは自分たちだけではなく、様々な人たちに発信していきたいです。そして、この奧尻島で人々が繋げてきた想いも引き継いでいきたいと強く思ったのです。

これからも奥尻の秘めたる魅力やこの地をより楽しむためのコツ、穴場スポットを発信していきます。是非次の記事で、そして奥尻島でお会いしましょう。

文・写真:北海道奥尻高等学校 オクシリイノベーション事業部(OID)