ローカルニッポン

商店街に「交流」の場を。地元大学生のアイディアが人と人をつなぐ。

書き手:杉田映理子
1994年東京生まれ。編集者・ライター。大学時代を過ごした長野で地方の魅力に気がつき、2017年春に就職を機に岐阜市に移住。岐阜のローカルメディア「さかだちブックス」で、365日岐阜の魅力的な人・もの・ことを中心に情報発信している。

大学生と地域との距離が広がるなか、岐阜市柳ヶ瀬商店街の無印良品岐阜髙島屋店と岐阜市立女子短期大学の学生との新たな取り組みが始まっています。きっかけは2019年11月に岐阜市金華橋通り一帯で開催されたyanagase PARK LINEです。

このイベントの中で、金華橋通りと商店街との経由地にあたる無印良品の店舗前スペースの活用案を一緒に考え、当日はブースを共同運営し「交流」をテーマに5つのワークショップを実施しました。今回は取り組みの中心メンバーである岐阜市立女子短期大学臼井研究室の学生と、無印良品 岐阜髙島屋 店長の大矢さんにこれまでのプロセスと、今後の展開についてお話を伺いました。

臼井研究室のメンバーと店長の大矢さん(写真右)。岐阜市立女子短期大学にて

臼井研究室のメンバーと店長の大矢さん(写真右)。岐阜市立女子短期大学にて

「岐阜出身ですが、正直柳ヶ瀬のことはほとんど知らなくて、今回出店したyanagase PARK LINEやサンデービルヂングマーケット(※)には行ったこともなかったんです。」と口を揃える学生メンバー。確かに普段の柳ヶ瀬商店街の景色に大学生の姿は珍しく映ります。

取り組みの舞台となった、yanagase PARK LINEは、道路空間を活用して新しい公共空間の使い方を企画・実施することを目的とした岐阜市主催のイベントで、実働を担う「柳ヶ瀬をたのしいまちにする株式会社」と無印良品、臼井研究室とのつながりから、共同出店が決まりました。

※柳ヶ瀬店街で毎月第3日曜日に開催されているマーケット。2019年で5年目を迎え、岐阜柳ヶ瀬の活性に一役買っています。参考記事:https://localnippon.muji.com/3647/

柳ヶ瀬に馴染みがない学生たちは、まずは商店街に出て、現状を知ることからスタート。臼井先生と一緒に実際に商店街を歩いて、気がついたことやキーワードを付箋に書いて貼り出しました。「学生が少ない」「休憩所が少ない」「思っていたより新しいお店がある」など付箋が模造紙を埋め尽くすほどたくさんの言葉が出てきた中で、絞り込んだキーワードが、「交流」「自然」「思い出」。「自然素材をツールに多種多様な人との交流を生み、それを思い出にしてもらえたら」。これをコンセプトに、具体的なアイディア出しをして、「カリモク端材アニマルづくり」「い草ワークショップ」「大きな残布にお絵描き」の5つのワークショップに落とし込みました。公共空間という場所性を踏まえて、誰でも立ち寄ることができる場にするため、それぞれのコンテンツに、女子学生・子ども・父親・高齢者などターゲットを設定。幅広い客層を見込み、そこから参加者同士の交流が生まれることを期待しました。

「学生さんからは、普段店内にいる私たちでは思いつけない斬新なアイディアがたくさん出てくるのでとても新鮮でした。学生さんたちの柔軟なアイディアを、私たち店舗スタッフや本部のスタッフがどう実現するかを考えるといったふうに、それぞれの立場を活かして役割分担ができていたと思います。」と大矢さん。このチーム編成だからこそ実現した企画だったと振り返ります。

大盛況のイベント当日。浮かび上がってきた今後の課題。

一番人気だったギフトラッピングの様子。当日は全体で350人もの参加者でにぎわった。

一番人気だったギフトラッピングの様子。当日は全体で350人もの参加者でにぎわった。

互いの強みを惜しみなく発揮しながら、全部で3回の打ち合わせを経て迎えたイベント当日。店舗前の道路空間に、テントを使った5つのブースと無料の休憩スペースを設置し、お客さんを出迎えました。柳ヶ瀬商店街という場所の性質を意識した幅広いターゲット設定は成功で、小さな子どもからご年配の方まで幅広いお客さんがひっきりなしに訪れました。特にギフトラッピングコーナーは順番待ちが出るほどの人気ぶり。担当の学生は「勤労感謝という特別な日に合わせたコンテンツだったから盛り上がったんだと思います。次はクリスマスやバレンタインに合わせた企画や、待ち時間も楽しめるような工夫がしたいです。」と、次回に向けて意気込んでいます。

一方で「学生を十分に呼び込めなかった」という課題も残りました。無印良品の主な客層と柳ヶ瀬商店街のお客様を見渡すと30代以上がメインになります。臼井研究室のメンバーが、今回の取り組みに関わるまで、柳ヶ瀬に馴染みがなかったことから分かるように、学生を呼び込むには告知方法や企画内容を工夫する必要がありそうです。今回も学内でのポスター掲示や周辺施設へのフライヤー設置などを行いましたが、告知が直前になってしまったことから、あまり効果が得られませんでした。今後は、十分な告知期間を確保し、SNSを活用した情報発信にも力を入れていきたいと話します。

地域の日常を体験し、継続的な関係を築く

臼井先生と学生リーダーの1年生白木さん

臼井先生と学生リーダーの1年生白木さん

学生たちと無印良品の初の試みを、教員という立場でサポートしていたのが臼井先生です。先生が日頃から学生に伝えているのが「岐阜で学ぶ」ことの大切さで、それはつまり、自分の足で地域へ出て、地域の日常を体験するということ。イベントによる賑わいももちろん大きな成果ですが、それは1日限りのお祭りのようなもの。学生が大学を卒業してからも、記憶に残り続けるのは日常です。地域に行きつけの店をつくったり、顔なじみの人ができることで、学生が卒業後も地域に足を運ぶ理由になるのだと言います。今回のイベントをきっかけに、地域の日常を知ることやこれからも商店街と継続的に関わり続けることを、大事にしてほしいというのが臼井先生の思いです。そんな先生の思いに応えるかのように、イベントを始める前は柳ヶ瀬商店街に行ったこともなかった学生から、今回の取り組みがきっかけで商店街に足を運ぶようになったという声や、今後もイベントをやってみたいという意見もあがりました。また、イベントを通して得た学びや経験を、後輩の世代につないでいくため、ブックレットの制作も進んでいます。

MUJIメイク体験ブース。ターゲットは女子学生だったが実際には小さな子どもも楽しむ様子が見られた。

MUJIメイク体験ブース。ターゲットは女子学生だったが実際には小さな子どもも楽しむ様子が見られた。

そんな学生たちの反応を受け、大矢さんは今回の取り組みを柳ヶ瀬商店街という町の背景を踏まえた上で、こう振り返りました。

「柳ヶ瀬商店街は高齢化が進み、人口の流出も進んでいるのは確かで、寂しい商店街だと思われている方も多いかもしれません。でも、イベントを仕掛けるとこれだけたくさんの人が集まってくれるようにまだまだ可能性があります。柳ヶ瀬の人って頑張っている人をすごく応援してくれるんですよね。声に出してあれやりたい、これやりたいと言っていると、いつの間にか周りが助けてくれて実現している。学生さんとの取り組みもそのひとつで、無印だけの力でできたことではないので、みなさんにとても感謝しています。これからも継続的に取り組みを続けていきたいと思います。」

柳ヶ瀬商店街は頑張る人を応援してくれるまち。今回の岐阜市立女子短期大学と無印良品の取り組み、そしてその舞台となったyanagase PARK LINEが実現したのも、新しい取り組みを柔軟に受け入れる柳ヶ瀬商店街だったからこそといえるのではないでしょうか。そして、この取り組みが学生自身と商店街の日常にとってどう影響を与えていくのか、どのように次の世代へとバトンを渡していくのか、今後の展開も楽しみです。

書き手:杉田映理子

リンク:
サンデービルヂングマーケット

ローカルニッポン過去記事:
「街のキーマンに聞く岐阜・柳ヶ瀬の“ローカル”とは?」