ローカルニッポン

今ここで、できること。 埼玉県草加市

書き手:藤岡 麻紀(株式会社良品計画 「ローカルニッポン」編集担当)

コロナウィルスという見えないものに対峙し、当たり前が当たり前でなくなった今、改めて働き方や暮らし方を考える方も多いのではないでしょうか。
何が必要で不必要なのか、本当に好きなもの面白いと思うモノコトは何なのか。こんな時におたがいさま、おかげさま、お疲れ様と伝えあえる相手は誰なのか、を立ち止まって考えること。

一方で、様々な地域の個人商店や顔なじみの飲み屋さん、自然と人が集まるシェアスペース等、今まで当たり前に訪れていた場所が危機に直面して困窮していることに心が痛みます。

集まろう、集まろうとしていたことができなくなった今、活動がシェアされることで、じんわりと広がるエネルギーになればという想いをこめて“ローカル”で行われている「今ここで、できること」を少しずつご紹介していきます。

心のよりどころを

今回は埼玉県草加市でシェアスペースを提供する、シェアアトリエつなぐばの小嶋直さんにお話しを伺いました。草加市のとある住宅街の中、公園に面した場所にシェアアトリエつなぐばはあります。“欲しい暮らしは自分でつくる”という想いから、築30年の2階建てアパートをリノベーションし、2018年6月にオープン。ここには、子供を連れて楽しめる日替わりのカフェやワークスペース、美容室やドライフラワーのお店等があり、様々なワークショップも日々企画されています。そして、ここで働いているのは子育て中のお母さんが多く、それぞれのスキルや好きなことを活かして出来る範囲でやってみる。そんな力強さを感じる場所でもあります。また、多様なアイディアと手仕事をもった人たちと出会えるのも楽しみの一つといえるでしょう。

お母さんや子供たちをはじめとした地域のみなさんに愛着を持ってもらえる場所を目指してきた小嶋さんたちですが、今どんなことが起きているのでしょうか。

小嶋さん:
「まず、カフェで働くみなさんはお母さんが多いので、お子さんの面倒を見る必要があります。一方で、今までと同じように来てくださる地域の方に“食”を届けたいという想いも強くお持ちなので、歯がゆいですね。ゆっくりと顔を合わせて集まったりは出来ないけども、こうした閉塞感を感じているすべての人がお互いにちょっと心を通わせて、気持ちが楽になれる場が必要だと感じています」

このように働く側に目線を置いてみると、少し特殊な状況があるようです。今まで、日替わりでそれぞれの個性を活かした“食”を可能な範囲で提供してきたため、慣れないテイクアウト販売を進めるには懸念事項がたくさんありました。当初は、テイクアウト販売はせずに一旦スペースを閉めた期間もありましたが、今は再開しています。小嶋さんの中には、働くみなさんの生活を守りつつ、地域の心身のよりどころを目指したいという想いがあるからです。

そこで、外のウッドデッキスペースに屋台をつくりテイクアウト販売を本格化させました。店内のレイアウトは変え、天気次第ではソーシャルディスタンスを保てるだけの数名ずつのお客様を中にご案内し、通り抜けできるような工夫もしているそうです。

小嶋さん:
「屋外でのテイクアウト販売は、天候によってお客様に負担をかけてしまうだけではなく、働く側も食材のロスなど苦慮する場面が多いです。今は、日々刻々と状況が変わるときだから天気予報をみながらオープンする日を決めるなど柔軟に動くことを心がけています」

目まぐるしい変化に、できることから少しずつ出来る範囲で対応する、出来ることからやってみる、そういった姿勢がとても大切なことだと感じます。

今ここで、できること。 埼玉県草加市の画像1

今よりももっといい場所をつくりたい

普段のつなぐばは、出店者それぞれについているお客様や地域の常連客が主だそうです。そして、こういったときにもいつも通りの“顔が見えるお客さま“が来てくださると予想していました。

小嶋さん:
「予想と違ったところもありましたね。外出自粛が始まったころからだんだんと客層が多様化してきました。もちろん今まで通り出店者のみなさんのSNSをみてきてくださる方もいますが、一方で“以前から気になっていた”と言って散歩がてらに初めて足を運んでくださる方も目立ちます」

今までなんとなく注目はしていたけども、機会がなく…という方にとっては、暮らし方が変化する今だからこそ地元に目をむけるきっかけになっているのかもしれません。また、働き方の変化も身近に感じると小嶋さんは言います。

小嶋さん:
「つなぐばの目の前は公園になっています。公園にいらしていた方が立ち寄ってくださるのはもちろん、今まで見かけることの少なかった男性のお客様も増えました。ちょっと話してみるとテレワークをしていて、息抜きにお弁当を買いに来ましたという声もありましたね」

こんな時だからこそ、改めて住まいの周りをじっくりと見渡してみた時に“なんとなく気になる存在”であるのは、普段から行き交う“人”が垣間見え、それが楽しそうに映ったからではないでしょうか。

また、つなぐばではお弁当のテイクアウト販売以外に、期間限定でテレワーク中の方向けにフリーwi-fi、コピー機を備えた1dayコワーキングスペースを開設しました。(11時半〜17時・木日やすみ・500円/h、2000円/日、〜5/6までの予定)。

実はこれは、スタッフの声から生まれたのだそう。“家族が来週からテレワークになるからここで仕事出来たら…”というアイディアから、やってみよう!となったのです。元々、1階にも2階にもそれなりにスペースがあったものの、整備中で遊休化していたところも。小嶋さんは、こんな時だから、今までなかなか手が付けられなかったことをしようとしています。

小嶋さん:
「今思うのは、また完全な形で再スタートを迎えることができたときに、ここで働くすべての人が全員戻ってくることができて、尚且つ、今までよりももっといい状態でお客様をお迎えしたい、ということです。そのために、出店者の方が少しでも働き続けられるように、また自分たちはコツコツと看板などの設備を整えて、外から変わったってわかるようにしたいと思っています」

他にも、通常、つなぐばでオーダー制の服飾注文を受けたり、月に1度洋裁のワークショップを企画しているnunoitolabいっこーさんという方が、自ら合間に布マスクをつくり販売する取り組みもありました。いつもはドライフラワー等を販売するてしごとの庭さんは、休業で利用できなくなってしまった材料を使って小さなリースをつくり、お客様にプレゼントしました。家で過ごす時間が長い今、すこしでも気持ちが明るくなればという想いもこめています。  

今ここで、できること。 埼玉県草加市の画像2

つなぐばでは、そこで働く多様なスキルをもった人一人が“今自分ができること”を、スピーディーに動き、シンプルに目に見える形で地域の人々に届けています。いつも普通だったことができない、不便な今だからこそ、その姿勢はたくさんの人の“よりどころ”になっていると感じます。これからも柔軟に変化を重ねていくこの場所が楽しみです。

*お休みや営業時間等は流動的なため、下記公式SNSよりご確認ください。

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