大人数で集まることが難しくなった今、活動がシェアされることで、じんわりと広がるエネルギーになればという想いをこめて“ローカル”で行われている「今ここで、できること」を少しずつご紹介していきます。今回は、千葉県君津市に位置する九十九谷で星空観察や滝ガイド等の活動をしてきた私、豊島大輝がコロナ禍においてスタートした新たな取り組みをお伝えしていきます。
コミュニティ作りに燃えた日々
活動拠点の千葉県鹿野山は都心から1時間ほどの近場にあります。関東100名山の千葉県8座で最高峰、とても涼しい場所です。関東有数の星空スポットとして知られ、夜には星を愛好する方が集まってきます。
私は、2009年伊豆の高級旅館グループの営業部責任者を経て、実家のある千葉県木更津市にUターンしてきました。地域コミュニティ作りに関わる仕事を希望していたため、県内でホテル・旅館のコンサルティング業務をしながら、その地域のコーディネーターをしてきました。宿周辺の地域資源を活用して、その地域ならではの体験プログラムを企画したり、ホテルのアクティビティを作ったり。日々、地域の里山に暮らす方との交流が生まれ、充実した日々を送ってきました。そのような中で、2014年からは鹿野山自然学校の運営を開始します。農業体験プログラムや地域の自然を楽しむアクティビティを実施するために、自然学校を設立するのは自然の流れでした。
さて、千葉県には2つの「九十九」があることを知っていますか。1つは海の九十九里浜、もう1つが山の九十九谷(くじゅうくたに)です。九十九谷とは房総丘陵のことで、鹿野山から眼下に広がる、どこまでも続く山と谷の地形を先人はこう呼びました。
ご縁があり、私はここ、九十九谷を一望できる鹿野山という山に拠点を構えることにしました。地域の歴史について調べたら、鹿野山から見えるこの九十九谷の景観は、日本画家の大家、東山魁夷の「残照」のモデルになった場所で、以前は多くの文人墨客に愛された有名な場所だったのです。しかし、今では千葉県というと海の観光地のイメージが強く、九十九里浜と九十九谷では、随分と差が付いてしまっているように感じます。
九十九谷にある数多くの集落
千葉県は、多くの方が想像するよりも広く、東京都や神奈川県の2倍以上の面積があります。九十九谷を眺めるとはるか地平線が見え、どこまでも山が続いているような、そんな広さがあります。地元の農家さんや大学生との棚田での活動、セルフビルドでのログハウス宿作り、古民家再生プロジェクト、様々な地域活性化に関わってきましたが、鹿野山から、こうして全体を俯瞰してみると、それら全てがこの九十九谷での出来事であると気づきました。広すぎて山と谷しか見えませんが、そこには数多くの小規模集落があり、それぞれ固有の地域文化があります。ここには里山での “暮らし” があり、アクセスの良さによる都市からの豊富な交流人口から生まれる “コミュニティ” が存在しているのです。
九十九谷を世界のBOSOにしたい、オンライン「おうちで自然体験」
九十九谷でのさまざまな活動を通して、世界に誇れる洗練されたビーチカルチャーがある九十九里浜のように、九十九谷にも世界に誇れる日本の里山文化があると思うようになりました。今もまた、現在進行形で新たな里山関連のプロジェクトやコミュニティが生まれつつあるのを耳にしています。
コロナ禍で自然学校の活動が思うように出来なくなった今だからこそ、私が10年間活動してきた誇るべき九十九谷を広くアピール出来ないかと考えています。かつてのように、九十九里浜と並び立つような名所にしたい。観光とはまた違った世界に誇れる日本のSATOYAMAを体験できる場所として紹介していきたい。このような想いからコロナ禍の当初はSNS中心に今まで撮り溜めた九十九谷の見所をアップしてくことを始めました。
リアルでの自然体験などが思うように出来なくなった今、オンライン体験という新しい手法は魅力的でした。4月中は旅行会社でツアー主催者の募集をしていたので、九十九谷をフィールドに行っている滝巡りや、星空ガイドをオンライン化しました。気軽に旅行に行けない今だからこそ、あまり知られていない身近な場所、九十九谷の魅力をオンラインで発信することに。各サービスで提供される沖縄やパリ市内、イタリア、スペインの美術館巡りなど、世界各国の有名観光地のオンライン体験に並び、私は「九十九谷」一本で参画することになりました(笑)。
オンラインにはオンラインの良さがある
いざスタートしてみると、思った以上の参加があり、参加者のみなさんとコミュニケーションが取れる双方向性のツアーを開始することが出来ました。外出自粛の影響か東京都内からの参加が多く、身近な千葉県にこれだけの滝や渓谷などの自然があること、美しい星空を見ることが出来ること等、距離感と豊かな自然とのギャップに驚いていたのが印象的でした。私自身も都心に近いこの場所にこれだけの自然や里山文化があることを伝えることをテーマに掲げていたので、需要と供給がマッチしたと感じています。
また、リアルと違いオンラインならではの良さがある事も分かりました。例えば、滝ガイドについては通常1日では周れないような箇所をガイドすることが出来たり、星についてもオンライン上ではプラネタリウムのように星座絵を出して、詳しく解説することが出来たり、普段以上に学びを深める事が出来ました。コロナが収まったら実際に現地に行ってみたいという声もありました。講座形式でエリア全体を俯瞰して、詳しく学べるというのはオンランの魅力だと思います。
一方、里山の暮らしについては、あまりオンラインでは紹介出来ていないのが課題として残ります。オンラインで集落の方と交流が生まれるような仕組み、里山会議のような事が出来ないか。九十九谷に数多く存在する里山の暮らしをオンラインで疑似体験できる方法は無いか。等いろいろと考えていますが、実現可能なアイデアには至っていません。オンラインでの取り組みは始まったばかり、まだまだ模索は続きます。
とにかく今は、“コロナが収まってから現地に足を運んでみたい” そう思ってもらえる情報発信を続けてみようと思います。千葉県に九十九谷という大自然があり、豊かな里山文化がある、このコロナ禍の間に、都心の近くにこのような場所がある事を多くの人に情報と体験としてお届けすることが、今ここでできることだと感じております。
文・写真:豊島大輝