ローカルニッポン

「グリーンレタープロジェクト」−若手茶農家16人が届けるお茶を楽しむ新たな形−

お茶は冠婚葬祭・季節のご挨拶など日本の習慣の中で “贈り物” の定番として親しまれてきました。その “お茶を贈る” という文化を何か新しい形で表現できないかと、お茶の生産地・佐賀県嬉野市にて若手茶農家16人が取り組み始めた「グリーンレタープロジェクト」について、今回ご紹介します。

全国に誇る「うれしの茶」

およそ580年前にお茶の栽培が始まったと言われる嬉野市は、生産から加工・販売までを一貫して行っている茶農家が多い地域で、農家ごとのシングルオリジン(単一生産)でお茶の違いを楽しめるのは数ある産地の中でも珍しいとされています。また、全国茶品評会で5年連続最高賞を受賞するなど品質においても高い評価を受けています。

摘採から2次加工まで一貫して茶農家自らが行うのは嬉野ならでは。

若手茶農家の抱える不安と想い

お茶を贈る習慣は、文化風習の希薄化とともになくなりつつあり、年々、お茶の消費量は低下の一途を辿っています。「グリーンレタープロジェクト」の代表を務める三根孝之さんは、茶業の未来について不安感を抱いていました。

三根さん:
「代々お茶農家で自分も二十歳で就農しました。今年で15年目になるけど、自分が就農したころに比べて茶農家がかなり減少しています。耕作放棄地も目に見えて増えて、このままいったらどうなるんだろう…。茶業全体の収入がこのまま減っていくと、未来が見えない。子どもたちに継がせられない…どがんかせんばいかんな」

茶畑の中で作業を行う三根孝之さん

お茶の収益が減っていく中で、お茶農家さん自らが販売に行ったり、詰め放題など祭事で安く売ったり、各茶農家でいろんな工夫をしているそうですが、それは、根本的な解決にならないと三根さんは考えていたそうです。

三根さん:
「お茶農家にとって一番いいのは、お茶の生産に集中できること。そしてお茶が売れていくことです。たくさんの人に、美味しいお茶を飲んでほしい」

日本の文化風習の希薄化により、贈答用のお茶の需要が減り、年々お茶の単価が右肩下がりになる中で、後継者不足と茶農家の高齢化に嬉野の茶農家たちの危機感は一層高まっています。

嬉野の茶畑は棚田のような段々畑になっていて、一つ一つの茶畑の面積が狭く大型の機械が入りにくいため、大規模生産を行う他の生産地に比べると手作業が多く、農家の高齢化・人手不足は深刻な問題です。

また、茶畑が各地に点在しているため、管理が大変で泣く泣く離農する茶農家も多いと言います。実際に三根さんの茶畑は30か所に散らばっており、石垣の区切りでいうと50枚以上も管理する茶畑があるそうです。霧深い山々に囲まれた盆地で澄んだ空気と水に恵まれて作られた「うれしの茶」には、茶農家の苦労と努力が詰まっています。

三根さん:
「(他の生産地と)差別化するためには、“いいモノをいい売り方”で売っていくことが嬉野には必要だと思っています。小規模でも美味しく品質のいいお茶を作り、売れていく仕組みをつくることで、茶農家が安心してお茶づくりに専念できるようにしたい」

新たな取組へ

三根さんは、自身のお母さまが毎年地域の保育園で行っていた「お茶の淹れ方教室」の中で、園児が茶葉の入った袋に絵を描いて、両親に贈り、園児自らが習ったばかりの美味しい淹れ方で両親にお茶を飲んでもらうという一連の姿がとても印象的でいいなと思っていたそうです。そこから、お茶を気軽に贈り合えるそんな仕組みを考え始めました。

「グリーンレタープロジェクト」とは

その名の通り、お茶を便りとして贈ろう(送ろう)という取組です。
嬉野を訪れた人が出会った美味しい「うれしの茶」を、さらにその人の大切な人にも贈ることで、より多くの人に美味しいお茶と笑顔の輪を広げてほしいというコンセプトではじまりました。この三根さんの想いに賛同した若手茶農家16人がいっしょに取組を始めました。

三根さん:
「16人も仲間が集まると思わなかった。嬉しかったです。みんな、何かを変えていきたいと思っていたんだなっと改めて思いました」

三根さんはこのように、仲間を集めた時の胸の内を語ります。

このように始まった取組ですが、贈り方はいたって簡単。お茶の入ったパッケージは切手を貼って郵送ですることができます。茶葉が5gずつ入った個包装には、16人の茶農家それぞれのこだわりのお茶が入っていて、「うれしの茶」の特徴でもある茶農家ごとの味の違いを楽しんでほしいという想いも込められています。

お茶と一緒にメッセージも届けることができます。ポストに投函できる気軽さも魅力

地域との繋がり

さらに、この「グリーンレタープロジェクト」でこだわったのは、パッケージ。
茶農家16人と同じ16種類のお茶パッケージには地域の子どもたちの絵が描かれています。

佐賀県出身のアーティストミヤザキケンスケさんの協力のもと開催したお絵描きイベントにて、子どもたちが描いたのびのびとした元気な絵がパッケージとして使われています。

子どもたちに絵を描いてもらったのは、地域の子どもたちに地域の特産品であるうれしの茶のことを“もっと身近に感じてほしい”“知ってほしい”という想いから。
実際に自分の絵がパッケージになると子どももその保護者もとても喜び、自分たちもこのプロジェクトに関わっている。地域のために何かできてうれしい。という声もあったそう。

今後も、地域の子どもたちから定期的に絵を募集し、お茶のパッケージとして取り入れていきたいと考えています。そうすることで、茶農家だけでなく、地域全体で作り上げていく取組となることを目指しています。

お絵描きイベントの様子。

子どもたちが描いたイラスト以外にも、前述のミヤザキケンスケさんの作品を愉しめるのが4種類のブレンド茶です。こちらは、嬉野を代表する温泉や焼き物など地域の魅力が詰まっています。今後は、嬉野市内のお土産屋さんやオンラインサイトで販売するほか、 地域の温泉旅館や焼き物とコラボしたギトBOXづくりも行いたいと考えているそうです。

2021年から本格始動。これからの広がりが楽しみですね。
ぜひ、応援よろしくお願いします。

お絵描きイベントに参加した地域の子どもたちとグリーンレタープロジェクトの皆さん

文:福島扇子 写真:水田秀樹・福島扇子